75、出席停止④
当初、校長ら教師たちは、出席停止というカードを生徒らに突きつければ、生徒同士が協力し合って個別指導を実現させているこの連帯を、破壊できるという思わくだったのだろう。不良生徒らはかえって反発するかも知れないが、大部分の高校進学のため勉強にいそしんでいる生徒らは、出席停止という処分を考えただけでも震えあがり臆し、個別指導に協力することをやめるだろう。内部崩壊した生徒たちは、以前の一斉指導の授業を受け入れる。警戒すべきは説明出来ない不思議な力を持っている私が暴れ狂う事で、だからこそ校長ら教師たちは、私の方ばかりチラチラ覗き見していたのだ。
万が一暴れた私のせいで大ケガを負ったとしても、それを理由に私一人を出席停止で学校から追い出せば、吸心力を失った残りの生徒たちはバラバラになり、やはり以前の一斉指導の授業を受け入れるのだ。そうなるはずだった。しかし予想もしない人物たち、しかもよりにもよって校長ら教師たちの自慢の種、学年トップ5の優等生らが反旗をひるがえし、出席停止という名の刀を校長らから奪うと、そのまま斬りつけ、しまいには憲法違反という爆弾まで投げ込んできたのだ。誤算中の誤算。おまけに生徒同士の結束の固さも計算外。ついこないだまで、不良生徒らの暴力が幅をきかせ、生徒同士は互いに不信の中、相手を探りながら、誰と付き合い、誰と付き合わなければ、自分がいじめの標的に会わずに済むのかの、計算ばかりしていた生徒たちなのに。劣勢に追い詰められ、戸惑いながらも、マイクを通して大声で校長は主張する。
「解釈の違いで、一斉指導は憲法違反じゃない。とにかく明日からキチンと授業を受けない者は、出席停止の対象者とす」
これを繰り返しているうちに全校集会はお開きになり、興奮冷めやらないまま生徒たちは各クラスに戻り、下校前のホームルームで担任から、先程校長が繰り返していた同じ文言を念を押すように聞かされた。生徒たちからの反論は一切受け付けず、担任はホームルームを切り上げ、全校生徒は下校へと向かい、この日の授業は全て終了した。よく見かけるテレビ番組で、現場の教師がインタビュアーに、先生も大変ですねえ、とその苦労をねぎらわれると、はにかみながら、
「いえそんなことは無いです。生徒たちから学ぶことも多いです」
と答えるパターン化されたやりとりがあるが、教師の方こそ出席停止、一斉指導は憲法違反だ、と主張する生徒たちから学ぶ気はないようだった。
ホームルームが終わり、校門へと鈴ちゃんと向かい帰宅しようとしていたら、人だかりが出来ていた。校門前には大勢の生徒がいて、学年トップ5や、不良グループも顔を揃えている。皆が私を見るので、この集団が私のことを待っていてくれているのだと初めて気づいた。
「明日どうする? 今日みたいに個別指導する?」
谷本美葉が訊いてくる。
「あったり前よ、やるに決まってるわよ!」
「おお、さすが牧野さん、そうこなくっちゃ、じゃあ先公の言うことなんか完全無視して個別指導やるぞ!」
巨漢の秋山が叫ぶと、おおっ! と皆が答える。
「団結は力なり!」
生徒会長が叫ぶと、再び、おおっ!と皆が答える。
「じゃあ、リーダーまた明日」
と誰かが私に向かって言うと、皆が同じように、
「リーダーまた明日」
と口々に言って手を振り、校門前の人だかりは、それぞれの帰宅先へと散っていき、しばらくすると私と鈴ちゃんだけになった。




