73、出席停止②
拡声器からの声はよく響いて聴き取りやすかった。学年トップ5の紅一点、谷本が話を続ける。他の四人の男子生徒は、背後に立って控えている。
「校長先生が今話された学校教育法とは、三十五条のことを指していると思うのですが、この場合、出席停止を命じるためには、先程おっしゃっていた四つの行為をした性行不良だけでは無理です。性行不良に加えて、『他の児童の教育に妨げがある』という二つの条件が満たされて、初めて出席停止は命じることができます」
谷本は時折、生徒手帳に目をやりながら話し、背後の男子生徒たちも生徒手帳を広げて、彼女の言動が間違ってないかチェックしているかのように見えた。生徒手帳には校長らがこのような手段で、私達がしている個別指導を邪魔し、阻止しようとした時の対策案が書かれているのだろう。正直脱帽する。校長が出席停止という手段を使ってくるなんて、私の頭では想像も出来なかったが、学年トップ5の彼らはそれを見越して、さらに反論するため学校教育法を調べあげ、生徒手帳に書き込み準備していたのだ。校長のさらに上をいっているのだ。いやはや、君らが味方でほんと良かったよ。谷本の反論は続く。
「『他の児童の教育に妨げがある』というのが、私達生徒が自発的に行っている個別指導のプリント学習に該当するとは到底思えません。なぜなら個別指導で、生徒一人一人の学力に合って学習しているため、学力は日々向上しているからです。むしろ校長先生らが行っている一斉指導の方が『他の児童の教育に妨げがある』に該当するはずです。生徒一人一人の学力を完全に無視して進行する一斉指導の授業のやり方は、授業についていけない生徒を置いてきぼりにし、そうされた生徒は理解できない授業をきかされている間、学力はまったく向上していないからです。それだけではありません。先程校長先生がおっしゃっていた出席停止を命じる事のできる四つの行為の中に、一斉指導はいくつか該当するのです。授業についていけず見捨てられた生徒は、一の『他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為』の中に該当します。彼ら見捨てられた生徒は、必ず心身の苦痛を、先生方から与えられているのですから。そして四の『授業その他の教育活動を実施を妨げる行為』にも該当します。一斉指導は、授業についていけない生徒の学力向上を妨げる行為だからです。つまり、一斉指導をおこなっている校長先生たちの方が、学校教育法第三十五条に書かれた性行不良をおこない、かつ『他の児童の教育に妨げがある』というものに該当するため、出席停止を言い渡されるのは私達ではなく、一斉指導をおこない、生徒の学力向上を妨げ続けてきた校長先生たちの方です。」
谷本がそう言い終えると体育館は静まりかえり、音が消えた。が、次の瞬間生徒たちの大歓声が爆発した。
「すげえよ、学年トップ5!」
「カッコイイ!」
「そうだ、そうだ、校長たちの方こそ出席停止だ!」
学年トップ5を賞賛する声が次々と沸き起こり、その轟音で体育館が揺れた。中には、
「谷本最高! オレと結婚してくれ!」
という場違いなものもあったが。
「な、な、な、な、な、なにィ~~!」
壇上の校長は真赤な顔で、興奮を隠しきれない。
「こ、こ、こ、こ、この私の方が出席停止だと? ふざけるなあ! お前たち子供は黙って大人の言うことに従ってりゃあいいんだ。お前たち生徒は黙って教師の言うことに従ってりゃあいいんだ。訳の分からないへ理屈をこねるんじゃない。内申書に何を書かれてもいいのかあ!」
拡声器を持っている谷本の肩を松本が叩くと、そのまま拡声器をゆずり受け、校長に向かって言った。
「三年四組の松本結心と申します。今の校長先生の発言は、内申書を使って生徒を脅している立派なパワーハラスメントです」




