72、出席停止①
その日、木曜日最後の授業である六校時目が、全校集会に変更になった。通常、月曜の朝にやる全校集会を緊急の形で、木曜の六校時目におこなうというのだ。
「なんだよ、それ」
誰かが呟いた。みんなも同じ感想だったと思う。ブツクサ言いながらも、この中学に通う一年生から三年生まで全ての生徒が体育館に集まり、整列した。両脇を教師たちが一列に並び、壇上には校長が一人で立っている。
「エー、この緊急の全校集会は、現在我が校が、大変憂慮すべき事態に直面しているため取りおこなわれました」
そう切り出した校長の顔は遠目からも、緊張しているのが分かる。両脇に並んでいる教師たちも同様だ。気のせいか私の方をチラチラ見ている教師が数人いる。これはどうした事だ? 校長が話し始めたので私の意識は壇上へと向かいなおす。
「現在行われている授業で、受け持ちの先生が進めている授業内容を公然と無視して、おのおのが勝手に学習塾で手に入れたプリントを使用し勉強をおこなうという、前代未聞の事態が、全学年全クラスで見受けられます。これは信じられない事です。学校の教育法には、次の四つにあげる行為をする者に、『出席停止』を命じることができるのであります。(一)他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為、(二)職員に傷害又は心身の苦痛を与える行為、(三)施設又は設備を損壊する行為、(四)授業その他の教育活動の実施を妨げる行為の四つです。
現在の状況は一部の生徒が、授業を進めている教師の反対を押し切り、他の生徒らにプリント学習をおこなわせています。これは二の職員に心身の苦痛を与える行為に該当します。そして当然四の、授業その他の教育活動の実施を妨げる行為にも該当します。この一部の生徒のやり方に賛同している多数の生徒たちも、同じく四の行為に該当していることとなり、そのためこのような事が続くのであれば教育委員会に相談し、最悪『出席停止』の処置を行わざるをえません。そういう事になればみなさんの保護者の方とも話し合わなければなりません。そうならないためにも、明日金曜からは従来通り、先生の授業をマジメに聞き、ノートをとるという至極当たり前のことをしていただきたい」
それだけ言い切ると深く溜息をつき、取り出したハンカチで、額の汗をあわただしく拭き取った。体育館は静まり返り、教師はもちろん、全校生徒が私に注目しているのが分かる。校長が話していた『一部の生徒』はまぎれもなく私のことを指している。生徒に聞き取り調査をして、プリント学習が私の仕業であることは、すぐに判明したはずだ。校長も教師らも、おびえた目でこちらを見ている。私が暴れるとでも思って青ざめているのだ。
「ちょっとスイマセン、ちょっといいですか」
突然全校生徒がキレイに整列した中を、声をかけながら横切る人間が現れた。横切っていく者は五名いて、顔ぶれは、学年トップ5と呼ばれている優等生たちだ。私に注目していた全ての視線が、今は、この五人へと注がれている。優等生らは、生徒たちの列から離れ、両脇に並んだ教師たちへと近づくと、その足元にある拡声器を拾い上げ、スイッチをオンにした。教師たちの足元にある拡声器は、生徒たちが騒がしく列を乱している時の注意のために、いつも用意されていた。
「三年一組の谷本美葉と申します。校長先生のおっしゃったことに対して、発言させていただきます」




