70、反逆①
木曜日を迎えると、朝から学校は荒れに荒れた。自分たちの理解度を無視する教師に、大半の生徒が反旗を翻し、プリント学習を授業中にはじめたからだ。
「お前たち何してる、授業中だぞ! 机の上のプリントをしまいなさい!」
五十代の男性教諭は、受け持ちの数学の時間中、自分に顔も向けない生徒たちを叱責した。顔の前には、半透明のカセットテープが浮かんでいる。
「こっちは勉強してるんで、邪魔しないでくださーい」
とぼけた口調で、犬塚さち子が言い返す。
「ふざけるんじゃない!」
「ふざけてねえよ、勉強してんだよ。──ここ分かんねえから、誰か教えて」
牛島夏美が手を上げる。背後には十二才ぐらいのソウ・チャイルドが立っている。両瞼、両耳にいくつもの×印が黒い糸で縫われていた。学年トップ5が全クラスを回って、先生役の指示を出しているので、その役割を与えられた女子生徒が牛島の席に近づくと、教えはじめる。
「なに勝手なことをはじめてるんだ、やめなさい!」
牛島の席に近づこうとする教師の前に、猿川哲が現れ、立ち塞いだ。
「猿川、何してる、どくんだ!」
「しつこいんだよ、なんべん同じこと言わすんだよ。こっちは勉強してんだから邪魔すんなって」
「なにい! 自宅に帰ってからすればいいだろう、授業中にするんじゃない!」
自分の席で頬杖をついている蝉村銀次が、教師に文句をつける。
「あのさ、俺は中学に入ってから、授業の内容なんてちっとも理解できてねーんだよ。それなのにお前ら先公ときたら、お構いなしに授業を進めやがる。中間や期末のときだけ、やっつけで覚えるから知識が身につくわけねえ! お前らの授業受けてるのって、時間をドブに捨ててるようなもんなんだよ、こっちは中一の勉強からやり直してんだから、集中させろよ!」
「き、貴様、誰に向かって口をきいてるんだ!」
「あのー、私、思うんですけど」手を上げた鈴ちゃんが話し始める。教師もそちらに目をやる。「一斉指導の授業についていけない生徒が、テストのためにその場限りで覚える知識って、童話『三匹の子豚』のわらの家みたいなものだと思うんです。時間が経つと、すぐに吹き飛んで忘れてしまう身についていない知識。それにうんざりした私たち生徒が、自主的に個別指導をはじめたのです。これならレンガの家のように頑丈で、時間が経っても、忘れることなく身についた知識になる。だからお願いします。私たちがしていることを容認してください」
と言って頭を下げた。
「そんなこと、塾に行ってすればいいだろう! 学校でするんじゃない!」
その言葉に猫藤ユリが嚙みついた。
「塾に行けだって? うちは貧乏だからそんな金ねえんだよ! お前ら先公が、小学生のときからおちこぼれを無視して授業を進めるから、アタシは今、小四の勉強してんだよ! ふざけんなよ、バカ野郎!」
「な、な、な、な…………」
教師はそれ以上言葉が出ず、黙りこんだ。その後も分からなくなった生徒が手を上げ、先生役の生徒が近づいて教える。その度に教師が制止しようと近づくが、猿川が前を塞いで邪魔させなかった。とうとうあきらめて教室から出ていくと、他の教室も同じ事態になっていることに気づき、他のクラスの教師らを呼び寄せた。三年生の授業を受け持っている五人の教師が、廊下で立ち話をはじめて協議をしている。そしてしばらくすると、職員室へと去っていった。
白龍が校内を巡回して、各教室の様子が私の脳内に送られてくるが、どこの教室も似たようなものだった。教師がプリント学習をやめさそうとすると、不良生徒が立ち塞がって、防波堤の役割を買って出てくれていた。




