69、カセットテープ
私が初めてソウ・チャイルドの誕生を目撃したのは、小学校低学年の頃だ。ピアノ線や釣り糸を強烈な力で引っ張ると鳴るギギギギギィ! という音が、なぜか授業中に鳴り響いた。オーラを感知しない私以外の人達は、いつも通り授業を受けていたが、私は音の鳴る方に目をやり、ある生徒の背後に立っているミイラを発見した。その青白い顔はその生徒そのもので、目は閉じられ耳も内側に折られ、ギギギギギィ! という音とともに黒い糸が×印に縫い始めた。両瞼、両耳を三つの×印で縫い終えると、音も消えた。
ソウ・チャイルドは歳を取らない。十四才で授業についていけない生徒には、十四才の顔をしたソウ・チャイルドが、十一才で授業についていけない生徒には、十一才の顔をしたソウ・チャイルドが、本体の背後に立っている。そして年輪のように、一年ごとに×印が一つ増えた。ソウ・チャイルドを出現させた生徒が、授業についていけないまま一年経つと、あのギギギギギィ! という音が再び鳴り響き、×印が一つ増えるのだ。だから中学三年生の背後に七、八才の幼いソウ・チャイルドがいれば、十もの×印が痛々しく縫われている。
私は時折耳にするこの不快で哀しいギギギギギィ! という音を聞くたびに、聞こえないのだからしようがないのだが、いつも通り授業を行っている教師を睨みつけて、心の中で呟いている。お前がソウ・チャイルドの産みの親なんだよ。私に毒づかれているとは、露とも知らない教師達にも、共通のオーラが出現している。そしてそれは授業中の全ての教師に当てはまった。
教師の顔の前には、半透明のカセットテープが浮かんでいた。大きさは、顔面が隠れるぐらいの横長で、再生中らしくテープが回転している。教師の顔の動きに連動するので、常に顔の前に浮かんでいる。授業が終われば消えるオーラ。
意味するところは、『音声のみ』といったところか。半透明だから、教師の表情はよく見える。淡々と喋ったり、笑ったり、怒ったり、考え込んだり、様々な表情が見て取れる。熱心さや、生徒への愛情も伝わってくる。が、決められたカリキュラムをこなしていくため、生徒が授業を理解していなくても立ち止まることはなく進んでいく。小学校から始まっている一斉指導は、分からない生徒を見捨てる授業スタイルだ。中学生にもなれば、理解していない授業を聞いている生徒も多数存在する。そんなことはお構いなしで、今日も教師たちは生徒一人一人の理解度を無視して授業を進める。一方的に喋っている『音声のみ』の進め方が、再生中のカセットテープというオーラを産み出した。全ての教師が、生徒を見捨ててきた加害者の一面があるのだ。




