62、介護する不良③
顔を上げた五人のうち一人が言った。
「本当か?」
「本当だよ。車の免許は、小学校の高学年レベルの読解力があれば取れると言われている。今の自分のレベルが、小学校の一年生から四年生のレベルだから九十点以上取れない。だったらプリント学習して小学校の五年生、六年生のレベルまであげればいい。そうすれば学科試験で九十点以上取れる。十八才になったら車の免許が取得できる。友達に自分の車を自慢できる」
食い入るように私を見つめている五人に訊く。
「どう、プリント学習やる?」
「やるに決まってるじゃねえか!」
五人が大声で怒鳴り返した。私は耳を押さえながら、
「うるさいよ」
私の苦情なんか耳に入ってこないようで、五人で、
「絶対、小学校の高学年レベルまでいってやる!」
「そして車の免許とってやるゾ!」
「カッコイイ車を乗り回してやる!」
「助手席にはカワイイ彼女を乗せるんだ!」
「友達に見せびらかして、うらやましがらせてやる!」
と鼓舞しあっている。車に乗ったからって、カワイイ彼女ができる保証はないけど、まあ、やる気になったんだから万々歳だ。
「アンタ達は、良くても小学四年生ぐらいの学力しかないって事だから、最低でも四年間以上は学力はまったく上がらないで、学年だけ進級していって中三になったんだ。そのせいで車の免許もとれないほど読解力を身につけていない」
「まあ俺達かなり頭が悪いからなあ」
バツが悪そうに藤堂が答えると、他の四人も恥ずかしがっている。二年の秋山といい、なんでこうなるのかな?
「いや、違うって、恥ずかしがるのはアンタ達じゃなくて、アンタ達が分からないことを知っていて一斉指導で授業を進め続けた小学校、中学校の教師の方じゃない。アンタ達は恥ずかしがるんじゃなくて、なんで勉強させてくれなかったんだよ! おかげで車の免許も取れないじゃないかって怒るべきなんだよ!」
「誰を?」
「だ、か、ら、小学校時代の教師、そして今通っているこの中学校の教師だよ」
「えー? 俺、小学校の時の先生ってけっこう好きな先生多いんだよね」
オレもオレもと、同意する奴多数。ハア、溜息がでるぜ。
「アンタ達って計り知れないお人好しね。アンタ達がそう言うぐらいだから、小学校の時の先生はきっと良い先生だったんだろう。でもね、その良い先生がアンタ達を見捨て続けた結果、今のアンタ達がみじめな思いをしてるのよ。車の免許が取れないってことは、仲間内にバカにされるだけじゃなくて、車を運転する仕事にも就けない人間になっていたのよ。お金を稼ぐチャンスが減るのよ。将来結婚出来ないかもしれない。子供も作れないかもしれない。そんな人生をアンタ達に味わわせたかもしれないことに、間違いなく大きく関与したのは、アンタ達の大好きな小学校時代の先生なんだよ! そして同じ事を中学校の教師にもやられ続けているのよ! アンタ達は!」
「マジで?」
「マ、ジ、で! アンタ達だけじゃなくて、私も含めて日本中の公立の小学校・中学校に通っている子供は、生徒個人の学習能力を完全に無視した、一斉指導の被害者なの!」
私が力説しても、中卒希望五人組は、なるほどねえ、と生返事で手応えがなかった。二年の秋山とこの五人組に共通しているのは、被害者意識がまるで無い事だった。バカな自分が悪いと自分を責めて恥じているのだ。それは加害者意識ゼロの教師たちに、今まで責められ、恥をかかされ続けた事を意味するのだった。
小学生という大事な時期に、学力がついていないのに見捨てるのは、かなりの問題だろう。特別支援学級に入るほどでもない軽度の知的障害や境界知能のため、通常学級で理解できない授業を受け、おちこぼれ続ける。将来、社会人となって困るほど読解力がないのを分かった上で、進級させ続け、卒業させてしまう。無責任にもほどがある。小学校低学年の学力なのに、小卒、中卒にしてしまうのは、「育児放棄」ならぬ「教育放棄」の罪で教育関係者を逮捕するべきではないのか。




