39、中二女子の憂鬱①
その夜、鼻血祭で倒された帝徳工業の上級生たちは、白龍主催の夢のステージに召喚され、業苦の炎のお仕置きを受け、私に対して白旗を上げた。ここまではいつも通りだが、一つだけ心に引っかかった。それは悠然と宙を泳いでいる白龍と目が合ったが、その時、鼻から溜息をついて顔を左右に振り、視線を外したのだ。私に失望しているらしい。理由が見当たらない。不良という悪い奴等をやっつけて、私と鈴ちゃんが手に入れた、平穏な学校生活をつつましく楽しんでいるのである。むしろ誉めてもらいたいくらいだ。失望される謂れはない。失礼しちゃうわ。そんな感情を抱えながら、深い眠りに落ちていった。
翌日になり、学校に行っても白龍は視線を合わせてくれない。こちらも大して気にかけずその日の学校生活を終えて、鈴ちゃんと下校した。いつも上空にいる白龍が、地上二メートルほどの低空を通学路に沿って泳いでいる。一瞬目が合い、そのまま前方を泳いで誘導している。ついて来いという意味らしい。普段と違う帰り道に、
「どうしたの?」と訊ねてくる鈴ちゃん。
「うん、 ちょっとね。ひょっとしてかなり遠回りになるかもしれないから、 鈴ちゃん一人で帰ってくれていいよ」
「いいよ別に、付き合うよ」
白龍は住宅地の中に、ひっそりとある小さな公園まで導くと、上空数十メートルまで一気に上がり、大きく施回しだした。ここが目的地らしい。鉄棒とブランコとベンチしかないこの公園は、住宅に取り囲まれているので、存在自体気づかれにくい。一人で考え事をするには、うってつけの場所かもと思っていたら、ベンチに一人だけ女の子が座っていた。うちの中学の制服を着て「Ⅱ」の襟章をつけている。膝の上に握りしめた両手を乗せた中二女子は、目をつむってうつむいている。私が驚いたのは彼女のオーラだ。それはガイコツの姿のオーラで、背後から抱きしめていた。青ざめた顔をしていかにも悩んでいます、という彼女と、ガイコツのオーラの組み合わせは、自殺という忌むべきものを思い起こさせる。見上げると住宅に隠れた狭い空を、泳いでいる白龍の姿が時折見える。この女の子を救ってあげなよ、と言っているのだろう。言われなくてもやるっちゅーねん!
近づいてくる私達の足音を聞いて、中二女子は目を開け、こちらを見る。そして驚いたように呟く。
「あ、牧野さん」
正面に立ち止まった私は、初対面のはずの彼女に訊く。
「なんで私の名前、知ってんの?」
「学校で一番有名な人だから」
「どう有名なの?」
「うちの中学校で一番美人で、一番ケンカが強いから」
「一番美人?」
思わず乗り出す私。
「喜ばない、喜ばない」
たしなめる鈴ちゃん。
「あの、私、失礼します」
と立ち上がろうとするので、
「座ってて座ってて」
と動きを止める。そして中腰から再び座り直した中二女子の前にしゃがみこむ。鈴ちゃんも隣にしゃがみこんだ。




