38、殴り込み②
「おい、私達が話し合いをするから、お前は危険だから教室に戻れ」
そう命じられたが無視することにして、正門に向かって走り出し、走り高跳びの背面跳びで門扉を飛び越えると、そのまま後方宙返りを決めて着地した。正門越しに唖然としている教師らの顔が目に入ったが、今はそれどころじゃない。私が正門前に現れると、金属バットを引きずりながら、オーラの角を生やした集団が近づいてくる。一番後方に坊主にされた五人が、取り残されたように突っ立っていた。一番先頭の金髪野郎が口を開いた。
「おい、女一人を大勢で取り囲んで、卑怯じゃねえかなんて言うんじゃねえぞ、喧嘩は勝ちゃあ何でもありだからよ」
と言って笑ってるバカに向かって、私も言ってやった。
「気にしなくていい。アンタら不良の正体が、卑怯者のクソ野郎だってことは、とうに承知してるから」
薄っぺらい笑顔が凍りついて、てめえっと目を剥くと、金属バットをきつく握りしめて今にも飛びかかりそうだ。私は右手を高々と上げて、人差し指で天を指し示すと、こう宣言した。
「ただいまより『鼻血祭』を開催する!」
そう言うやいなや、突進して金髪の鼻柱に裏拳を叩き込んで吹っ飛ばし、手刀、肘打ち、ストレート、掌底と周辺にいた四人の顔面も次々に殴打し倒した。五人が瞬時に倒されたので、残りの連中は顔面攻撃を用心しながら、金属バットを振り回してくる。どんなに素早く大勢で攻撃してきても、超スピード世界に住んでいる私には、超スローモーションで金属バットを振り回しているので当たる訳がなかった。顔面へのガードを固めている者には、腹部に蹴りをめりこませ、ガードが下がったところを仕留めた。最後の一人は金的を蹴り上げ、真っ青になって股間を押さえている奴の髪を掴んで、頭突きを顔面にぶち込んだ。一分も経たないうちに、県内最強を誇っていた帝徳工業高校の精鋭二十五人は、路上で失神して鼻血を流している。二十五本の金属バットがあちらこちらに転がっていた。
「おい、そこの坊主五人組」
案内係をさせられた高一らに声をかける。
「ハイッ! 何でございましょう!」
ダッシュで目の前まで来ると、直立不動で立ち並ぶ。上官に呼ばれた軍人のようだ。
「この転がっているバカ共の後始末を頼んだよ」
「ハッ! おまかせください!」
右手を上げ、手のひらを左下方に向け、人差し指を右の眉毛につける。いわゆる『拳手の敬礼』を五人が同時にした。お前ら自衛官か? まあいいけど。昨日、コンビニで生意気な態度をとっていた不良少年が、訓練された自衛官のように豹変している。私に対する反抗心を破壊する、業苦の炎の恐ろしさを改めて感じた。
用事は済んだので、坊主らに背を向けると正門に向かう。重さ約二百三十キロの、鉄製スライド式門扉を左手で軽く一メートルほど開け、校内に入ると閉めた。黙って立ちすくんでいる教師らの前を通り過ぎて、階段を上り、四階にある教室に戻った。自分の席に着く時に、あることに気づく。六百人はいる全校生徒、そして教職員たち。そんな大勢の人間がいる昼休み中の校舎から、物音一つ話し声一つしなかったことに。私の余りの強さを目撃して、学校中の人間が静まり返っていたのだ。先程までの『鼻血祭』と銘打ったバトルを観戦していたクラスメートたち。窓際で彼らの中に混じっている鈴ちゃんにこう話しかける。
「鈴ちゃん、やっぱりきなこ揚げパン最高にうまいねえ」
私の笑顔をキッカケに、硬直していたクラスメートたちが動き出し、喋りはじめ、それが全教室に広がった。




