40、中二女子の憂鬱②
「お名前なんてーの?」
「私、二年の井上栞です」
「私は牧野リカコ、隣は友達の横山鈴ちゃん」
「よろしくね」
とニッコリ笑う鈴ちゃん。
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる栞ちゃん。いい子なのは一目で分かる。私の右手を栞ちゃんの太ももの上に乗せると、一瞬ビクリと反応するが、構わず太ももをさすりながら訊ねた。
「栞ちゃんさあ、自殺とか考えてない?」
栞ちゃんと鈴ちゃんが驚いたのは分かったが、視線を逸らさずにいた。二人には見えないガイコツのオーラが、背後から栞ちゃんを抱きしめている。栞ちゃんの左肩にアゴを乗せている。しゃれこうべに目をやるが、空洞の眼球部分は、うつむいていて視線を吸い込むだけだ。でも恐怖心は感じなかった。栞ちゃんを自殺に唆すというより、傷ついている栞ちゃんを慰めている印象を受けた。
「わ、わたし……」
そう言いかけると、涙を流しはじめて、両手で顔を覆った。鈴ちゃんが立ち上がって隣に座ると、背中をさすってあげている。しばらくして泣き止むと事情を話してくれた。栞ちゃんのクラスは明るくて元気がいいらしい。そのムードメーカーが亀木美咲という女子で、
「二年の中でうちのクラスが最高!」と、自分たちのクラスの仲の良さ、ノリの良さを自慢しているらしい。ただ栞ちゃんは真面目な性格なので、クラスのノリについていけない。最初はもっとノリを良くしようよ、と亀木がお願いする感じだったが、栞ちゃんなりにがんばってもうまく出来ず、浮いてしまう。亀木の機嫌はだんだん悪くなり、しまいには
「栞さえいなければ、もっと良いクラスなのになー」
と露骨に言うようになった。それをキッカケに、熊平、狐坂というクラスの不良女子二人組に目をつけられ、いじめられるようになり、金を要求され、こずかいを渡すようになる。要求する金額が増えていって、払えないと暴力を受ける。暴力現場に亀木もいたが、殴ったりすることには参加せず、ニヤニヤ笑って見ている。巻き上げたお金は、三人で分けていた。担任に一度相談したが、そんなことはしてないと三人は認めず、罰せられることもなく、かえって以前よりひどい暴力を受けるようになったので、恐くて相談はもうしていない。
「明日までどんな手を使っても十万円持ってこいって」
そう言って栞ちゃんは涙ぐむ。
「物を盗んで売りさばくとか、売春とか」
該当しそうな事を鈴ちゃんが挙げていく。
「売春なんて絶対イヤ! 死んだ方がマシです!」
青ざめた顔で栞ちゃんが声を荒げる。よっぽど追い詰められているのだ。
白龍が言いたいことは、私が与えてもらった無類の強さを、自分のためだけに使うなと言うことだろう。日中のバトルで相手に圧勝し、夜間は夢の中で、残った反抗心を業苦の炎で根絶やしするのだ。一人の女の子がいじめから救われるためだけに与えられたとしたら、余りにも強大すぎる。この力を授かった私は、大勢の子供を救う義務が生じているのだ。だからこの公園に案内して、いじめで苦しんでいる女の子に会わせた。そして当然このようないじめ被害者は、私の通っている中学校内にまだたくさんいるのだ。私は、栞ちゃんの肩に右手を乗せてこう言った。
「明日から、いじめられない学校生活を私が保証するよ」
唐突にそんなことを言われて、どうしていいか分からない栞ちゃんの表情を見て、私は笑っていた。




