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17、鈴ちゃん、暴走す⑥

「教育界のトップ二人に、いじめで自殺者が出る度に罰を与えるんだよ」

「罰?」

「そう罰を与えるの。文部科学大臣と文部科学省の事務次官二人にね」

「どんな罰?」

「中学生の自殺者が出たらね、両手両足全ての指の爪をペンチで剥(は)がすの。もちろん麻酔は使わないでね。それを謝罪も兼(か)ねて全国放送するの。生中継でね。痛そうでしょ?」

「痛いなんてモンじゃないでしょ、泣き叫ぶんじゃない? 大人の人でも」

「でしょうね。でも同情する必要はこれっぽっちも無いんだよ、リカコちゃん」

 金色の瞳をまっすぐ向けて、鈴ちゃんは続けた。

「いじめで自殺する事を選んだ、中学生本人の事を考えてみて。首を吊ったり、ビルから飛び降りたり、電車に飛び込んだり、自分に灯油をかけて火をつけたり、痛いを通り越して命を落としたんだよ。ペンチで爪を剥がすのなんて痛いだけじゃない。死んだりしないわ。おまけに爪はそのうち生えてきて元通りになるわ。自殺した中学生の命は二度とよみがえらないんだよ。この程度の罰、甘いぐらいよ」

 肯定も否定もしない私に、鈴ちゃんは自信満々に言いきる。

「これで、絶対いじめが原因で自殺する中学生はゼロになるよ。理由は二つ。一つ目は、次の自殺者が出ると、せっかく生(は)えてきた爪をまたペンチで剝がされるので、大臣と事務次官が本気で取り組むから。二つ目は、防犯カメラを設置して、警察に見回りさせて、加害者生徒を逮捕して、教室外にしめだすことを実施するから。加害者生徒にも勉強する権利があるというのなら、別の教室か、転校先でそれをさせるから。何よりも被害者生徒の人権を守る事を優先しないと、自殺に結びつくからね。今までのような〈教育に警察は合わない〉とか、〈警察に頼るのは教育の敗北だ〉なんて、おとぎ話みたいな戯言(たわごと)は一蹴(いっしゅう)されて現実路線にあわてて舵(かじ)を切るから」

「でも何で今までそれを実践しないのかしら?」

「今まで通りでいることに、政治家にとっても官僚にとっても、何の不利益にもならないからだよ。政治家は地元の選挙民の顔色をうかがう。そうじゃないと落選して無職になるからね。官僚は内閣人事局の顔色をうかがう。そうじゃないと出世コースから外れちゃうからね。政治家や官僚にとって、自分たちの生殺与奪権(せいさつよだつけん)のない中学生のことなんて関心ない。何百人、何千人、何万人の中学生がいじめを苦に自殺したって、どうだっていいんだよ。だから教育現場は何十年と驚くほど変らないでしょ」

 そのことに関しては、私は頷くしかなかった。

「私ね、明日の朝に決行する大量殺人事件で、警察に捕まっても絶対に顔を隠したりしないよ。それだけは約束する。だって私全然悪くないもん、私可哀想な被害者だもん。よくあるじゃん、犯人が下を向いたり、手や上着を使って顔隠してさ、バカじゃん、そんなに恥ずかしいことなら最初からすんなよ。私、警察に連行される時、背筋をキチンと伸ばしてテレビカメラを真っすぐ見てやるんだ。そして裁判が始まったら法廷で今リカコちゃんに話したような内容を堂々と主張してやるよ」

 私は初めて鈴ちゃんを恐ろしいと思った。自分の正義を信じて、大勢の命を奪う事に何のためらいもない。本当にやる気なんだ。スタンドを起こして、自転車を止めると、私は鈴ちゃんの前に立ちふさがった。

「鈴ちゃん、体育館に火をつけるなんて止(や)めよう。絶対、よくないよ」

「……リカコちゃん、前どいてくれる?」

「イヤだ、絶対にどかない」


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