18、鈴ちゃん、暴走す⑦
鈴ちゃんは無言のままスタンドを起こして自転車を止める。そして、ゆっくり歩いてくるとあっという間に、私の胸倉とベルトのバックルを同時に掴み、ひょいっと頭上に持ち上げた。重量挙げの選手がバーベルを両手で持ち上げるみたいに。信じられないほどの怪力だ。鈴ちゃんにそんな力がある訳がない。あの毛むくじゃらで筋肉質な男の姿をした、凶悪オーラが力を与えたのだ。そのままアスファルトの路上を二十メートルほど歩き、芝生のある所までくると、一気に私を叩きつけた。鈴ちゃんは叩きつける瞬間、私の後頭部に手を添えて、地面に強打しないよう配慮はしてくれた。それでも受け身もとれず背中を強打した衝撃で、呼吸もうまく出来なかった。近づいてきた鈴ちゃんが私を見下ろしたまま、
「ごめんねリカコちゃん。でも邪魔しないでね」
そう言って立ち去ると、止めた自転車に向かっていく。白ヘビが私の体を舐めてくれ、その治癒力のお陰で、ふらつきながらもなんとか立ち上がる事ができた。
「り、鈴ちゃん」
なんとか呼びかけるが返事がない。山羊頭に人間離れした力を与えられた鈴ちゃん。その暴走を止める術など、非力な私にあるはずがなかった。でもこのままいかせる訳にはいかない。あの優しくて恥ずかしがり屋の鈴ちゃんを、人殺しなんかにするもんか。あの大嫌いなクラスの不良共も、焼き殺される程、悪い奴じゃないはずだ。
「鈴ちゃん、鈴ちゃん、鈴ちゃーん!!」
知らぬ間に涙を流していた私は、自分でも驚くほどの絶叫を上げていた。すると不思議なことが起こった。私の前方一メートルほどのところに浮かんでいた、白ヘビの中心線が真っ二つに裂け始めた。鈴ちゃんの背後に浮かんでいた、女の子のオーラが真っ二つに裂けたみたいに。びっくり箱を開けると中身が外へ飛び出すように、白ヘビの裂けた体から、巨大なものが飛び出した。全長二十センチ足らずの白ヘビから、十メートルほどの白いものが矢のような速さで宙を突進する。その細長いものは全長十メートルはある白い獣物のようで、向かう先は自転車へと歩いている鈴ちゃんだった。鈴ちゃんの背後にいた凶悪オーラが、異変を察知して振り返ったが遅かった。
飛翔する巨大獣物の大口が、凶悪オーラの山羊頭を喰いちぎった。そして反転して右肩を、さらに反転して脇腹を喰いちぎった。目にも止まらぬ早業だ。喰いちぎられた凶悪オーラは、残った毛むくじゃらの体で仁王立ちしていたが、すぐに全身が無数の黒い粒子となって空中をうごめいていて、それが集まり出すと、以前から鈴ちゃんの背後に立っている、身長百三十センチぐらいの女の子に姿を変えた。
鈴ちゃんは、凶悪オーラが喰いちぎられた時、歩行を止めて立ち止まっていたが、凶悪オーラが黒い粒となり、以前から女の子のオーラに戻った時、操り人形の糸が切れたみたいに、その場に崩れ落ちた。
「鈴ちゃん!」




