16、鈴ちゃん、暴走す⑤
「クックックッ」と鈴ちゃんが笑った。「私のお母さんさあ、いじめられて不登校にまたなった私を、励まそうとしてくれてるのか、私の好きな料理を出す回数が増えているんだあ。でも自分の娘が明日の朝、ついに恨みを晴らすなんて夢にも思ってないよ」
私の知っている鈴ちゃんは、笑う時口元を手で隠しがちな、恥ずかしがり屋の女の子だ。今、私の目の前にいる鈴ちゃんは、精神が闇に堕ちた暗黒少女と化していた。
「クックックッ、不良共、アイツらいつも通りの全校集会だと思っているんだろうな。二校時目の授業の事とか、休憩時間に喋る話題を考えたりして。でも、残念でした、それは無いのです。体育館が炎上して焼け死んで、命が無くなるからでした。ざまあみやがれ! どいつもこいつも火だるまになって絶叫しながら死にやがれ! 明日はお前らにとって命日になるのさ。お前らが私にした心無き仕打ちで、私の心は無くなった。良心が麻痺した相手には、こちらも良心を麻痺させるのは当然だ。自分達に逆らったらどうなるか、その見せしめに私をいじめやがって。不良たちが威張り散らすための生贄に私はさせられた。今度はお前らが私の生贄になるんだよ!!」
感情の昂ぶりに応じて金色の両眼が爛々(らんらん)とする。常軌を逸していた。
「いじめにあって初めて分かったことは、教師ってどうしようもない奴等だってこと。私が中二で、不登校になった時、若い女教師が担任でね、そいつが私ん家まで訪問に来たんだよ。私のお母さんが、いじめをしている不良たちを何とかして下さいって電話でお願いしてたから、いじめのアンケート調査をして、その結果報告に来た訳。でもさ、不良の報復が恐いからクラスメートだって、いじめがありましたって答えにくいじゃない。それが見事に反映されてて、いじめが無いことになってんの。ただの悪ふざけで悪意はなかったっていうのが結論なの。私は失望したし絶望で何も言えなかった。でもお母さんは怒りまくってね。不良なんか教室から追い出しなさい! って怒鳴ってね。でもその女教師、彼らにも勉強する権利があるんですって答えやがってさ。じゃあ不登校になって勉強する権利を奪われている私の立場はどうなるんだよって思ったよ。三年の担任だってそうだよ。私が不登校になったら訪問に来たんだ」
うちの担任は三十代後半の男性教諭だ。そつなく仕事をこなす、どこか冷めたタイプ。
「アイツ玄関先で私に言ったよ。『クラスみんなが君の再登校を待っているよ』だって。嘘つけ! 三年になって一週間しか登校してないのに、なんでクラス中の人間が私を待ち望んでんだよ。そのクラスの中に、私をいじめた奴等も入ってるのにさ。あの担任、不登校の生徒を訪問する時の、マニュアル本を見て喋ってりゃあ、自分の評価が下がらないと思ってんだよ。目の前にいる生徒を助ける気なんかコレっぽっちも無いんだ」
鈴ちゃんの背後に浮かんでいる山羊頭の凶悪オーラは、鈴ちゃんが怒る度に嬉しそうに笑っている。これから鈴ちゃんを使って、大量殺人を成し遂げたいコイツにとってはその方が都合がいいのだろう。
「リカコちゃん、私が考えた日本中の中学校から、いじめをなくす簡単な方法教えてあげようか?」
頷く私に鈴ちゃんが答える。




