お試し期間【ギルベルト】②
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「お前を好きだと自覚してからはあの邪魔な二人を牽制するのに精一杯だし、お前はお前でまともに取り合わないし、少しは俺たちの想いを自覚しろよ」
「なんか……ごめんね……?」
「……まぁ、今回ちゃんと考えるためにこの機会をくれたんだろ?どういう風に転んだって俺はお前の決定に従うけど……どうせなら、俺を……俺だけを選んでほしい」
「……ギル……」
私たちの間を風が通り抜け帽子が宙に舞う。魔法でそれを引き寄せた彼は私に押し付けるように渡すとつばの布越しに唇が重なった。外側のつばは薄く、重なった感触はしっかりと伝わり、急なことに目を開けていた私は至近距離で見るギルの顔にも驚いて後ろにバランスを崩した。想定していたのか危なげもなくギルに支えられるとそのまま抱きしめられる。
「……嫌じゃなかったか?」
「……驚き過ぎて嫌かどうかもわかんないよ……」
「なら、今は?」
「……嫌じゃないんだなぁ、これが……嫌だったら多分手が出てる」
「ははっ、想像がつく」
帽子を握ったまま彼の背に手を回すことはなかったが、ギルはそれが今の答えだと受け取ったらしい。
「あと少しで俺の番終わりかぁ……嫌だな、見たくない」
「……私本当にやばいやつな気がしてきた……これをあと三人とやるの……」
「おい、急に現実に戻んな、あと余計なこと考えんな」
回された腕に力が入り思わず彼の腕を叩く。離れた彼はふてくされたような顔をしており思わず笑いが込み上げた。
「ごめん、私がやばいやつなのは今更だったわ……ちゃんとギルに向き合ってるよ」
「……そうだよ……また、別のところ連れてってやる」
「うん、ありがとう……ちょっと、私がやばいやつっていうの否定しなさいよ」
お互いに笑い合いまた前を向く。
いつの間にか綺麗な夕日が私たちを照らしていた。
「……そういえば例の国籍の件……」
美味しいディナーを食べ終え、食後に軽く散歩をしている途中唐突にギルが切り出した。
「あぁ……あれね……」
「言っておくがあれの主導者はジルだからな」
「……またまたぁ」
「嘘じゃねぇって!さっきも言っただろ、俺は俺だけを見てもらいたいんだよ」
「……つ、まり……?」
「俺は国籍なんてどこでもよかったし、なんなら国籍を取った後にそういう国だって知ったんだ……だからあれはジルの癖だってこと」
「ま……って、まって!!知りたくなかったそれ!!」
「まぁ、俺だってお前といられるならやぶさかではないとは思っているが……ジルは少し特殊だってこと覚えておいた方がいいぜ」
「なっんでこのタイミングでそれを言うの?!」
「弟とはいえ少しでもライバルの評判は落としておきたいからな」
とんでもない爆弾を投げられ扱いに困ったまま帰宅することとなり、最終的に記憶の中から一旦消すことにして眠りについた。勿論寝付けなかったのは言うまでもない。
残りの日数が減るごとにギルは私との接触が増えていき、最初こそ外出の時の出来事を思い出して身構えることもあったが、最終日には子どもみたいに私にくっついて離れなかったため母親のようにあやすことしか出来なかった。今も椅子に座った私の後ろから腕を回して抱きしめられているが、中々に憧れのシチュエーションだというのにときめきが皆無だ。そのうえ偶々通りかかった母に向けられた優しい視線がいたたまれない。
「……ギル」
「やだ」
「体勢辛くない?」
「魔法で和らげてるから問題ない」
「わぁ便利……じゃなくて、いい加減顔みたいんだけど……いいの?私の最後の記憶あなたの拗ねた顔なんだけど」
ピクリと反応した彼はゆっくりとその腕を開き横に来ると私の膝元に座り込んだ。そのまま腕と頭を膝に乗せて上目遣いでこちらを見る。しょぼくれた顔とあまりにも似合わない行動に心臓が変な音を立てた。これはときめきなのか、それとも庇護欲なのか。
「えっ、ぎ、ギル……?」
「……結局一回もお前から触れられることってなかったな」
「そう、だっけ」
「……そーだよ」
彼の手が私の手に伸びて繋がれる。仲のいい恋人がするような指同士が絡む繋ぎ方で。
「俺が触っても嫌がりはしないけどさ」
「嫌ではないからね」
「でも俺と同じ気持ちでもないんだろ?」
「……」
言葉に詰まった私に彼は知っているとでも言いたげな視線をよこす。
真剣に向き合うと決めた以上、今の私の気持ちも話しておかなければ。
「……ギルと過ごしてみて、いきなり家族じゃない扱いをされて困ることもあったし戸惑うこともあったけど……その、ギルも男の人なんだなぁって思う瞬間は何回もあったし、ときめいた瞬間も、ちゃんとあったよ」
「……うん」
「今だって、やっぱり手は大きいんだなぁとか、こんな顔見れるのは私だけなのかなぁとか思うぐらいには意識してるし」
「うん……」
「……だから、この気持ちを持ったまま他の人と比較してしまう私を許して欲しい」
「いーよ、まだお前自身も分かってなさそうだし……俺を超えるやつがいなければいい話だもんな」
絡められた手が彼の方へ寄せられ、その手に唇が触れる。
ふわりと優しく笑うギルの表情は見惚れてしまうくらい美しかった。
よ」
「……うん」
「今だって、やっぱり手は大きいんだなぁとか、こんな顔見れるのは私だけなのかなぁとか思うぐらいには意識してるし」
「うん……」
「……だから、この気持ちを持ったまま他の人と比較してしまう私を許して欲しい」
「いーよ、まだお前自身も分かってなさそうだし……俺を超えるやつがいなければいい話だもんな」
絡められた手が彼の方へ寄せられ、その手に唇が触れる。
ふわりと優しく笑うギルの表情は見惚れてしまうくらい美しかった。
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