お試し期間【ギルベルト】
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「よう」
「え?あ、おはようギル……?」
学校へ向かうために玄関に向かうとそこにいたギルに挨拶をされる。
高等部に上がったタイミングでアデルや双子とは別々に暮らしていたので学校以外で会うことも減っていた。ましてや早朝に家にいるとは何かあったのだろうか。珍しい光景に首を傾げていると飽きれたような顔とため息が返ってくる。
「お前もう忘れたのかよ?今日から俺が担当だろ?」
「!!」
言われてようやく思い出す。忘れていたこともあるが、まさかお迎えがあるだなんて思ってもいなかったので遅れてやって来たむず痒さに視線を下げると、遅刻するぞと声がかかる。再び顔を上げればこちらに手を差し出すギルがいて、私が動かないでいると少し眉を下げた。
「……これはダメか?」
「……ううん、エスコートでしょ?ありがとう」
「あー……まぁ今はそれでいいか」
彼の手を取り馬車に乗る。当たり前のように隣に並んで座る彼に少し動揺した。
いつもと同じはずなのに、仕草や態度が、こちらを見る目が柔らかい。
「……なんか、いつものギルらしくなくて調子狂う」
「ははっ、それは結構……ずっと我慢してたんだ、この機会に嫌でも思い知らせてやるよ」
足を組んで頬杖をついた彼がこちらに向かって微笑む。
不覚にもときめいてしまい慣れない空気感に夜まで身が持つか心配になってきてしまった。
宣言通り、ギルはいつもの雑な態度が嘘のように私に対して丁寧な対応をするようになった。
最初こそなれない空気感にくすぐったさを感じていたが何日か経つと私の方にも少し観察する余裕が出てきた。ギルは意外と褒められることに弱い。私が些細なことでお礼を言うと少し耳が赤く染まるのだ。本人にいうと隠されそうなので言わないが。
期間が中盤に差し掛かった頃、初めて外出に誘われた。
場所は知人が居なさそうな少し離れた街だったので心配した父に止められかけたが、ギルが責任をもって私を守ると宣誓したため渋々父が折れた。ただし父と通信が取れる魔道具を持たせることを条件として。
「じゃあ行ってきます」
「気を付けるんだよ……」
「この人のことは気にしないで、楽しんでいらっしゃい」
「責任をもってお預かりします」
しょぼくれた父と楽しそうな母に見送られ私たちはギルの転移魔法で避暑地として有名な港町へ向かった。
「気持ち悪さはないか?」
「うん……わ、すごい」
転移は思ったより振動や揺れが無く、目を開けた先には全く違う光景が広がっていた。
今世では初めてみる海が目の前に広がり、青い空、白い雲という定型句がぴったりと当てはまった。
深呼吸をして感じる磯の香りに懐かしさを感じる。
「……思ったより驚かないな」
「まさか、充分驚いてるよ……連れてきてくれてありがとうね」
予想した反応ではなかったのが気になったのか少し拗ねたような声が聞こえ、正直にお礼を言う。
私の気持ちが伝わったのか、ならいいと安堵したように微笑んだ。
「あ、あとこれプレゼント」
そう言ってパチンと指を鳴らすと一瞬で私の服が変わる。
白と青を基調としたワンピースに同じデザインのつばの広い帽子、動きやすいサンダルへと変化しくるりと回る。
「……どう?」
「すげー似合ってる」
甘さを含んだ瞳が細められ直視できずに帽子で顔を隠した。
その間に後ろに回ったギルが上から何かを垂らして広げる。
「あと、これも」
「……ネックレス?」
濃い藍色の宝石が付いたネックレスに気を取られていると、そのままギルが首の後ろで金具を閉じる。
前に回った彼が満足そうに頷くのを見て、あの藍色がギルの瞳の色だということにようやく気付いた。
「……ありがと」
「いいって、じゃあ行こうぜ」
当たり前に手を取られ私たちの間に繋がる。恥ずかしさが顔を出すがぐっと堪えその手を握り返した。
事前にリサーチ済みだったのかギルは私が好きそうな店ばかり案内し、そしてそのどれもが素敵でつい色々と買ってしまう。最初こそ支払いをしようとしていたギルだったが私が嫌だと言ったら好きにさせてくれた。食事代だけは譲らずご馳走になってしまったが。
「んー気持ちいー」
「潮風ってベタベタするな……」
食事を終え砂浜を二人で歩く。正反対の感想に顔を見合わせて笑うと、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「ねぇ、ギル」
「ん?」
「いつから私のこと……その、そういう風に見てたの?」
私の質問にギルは歩みを止め真っすぐにこちらを見つめる。
一度視線を下に外した後、座って話そうぜと堤防を指差した。
海を眺めながら二人並んで堤防に座る。
ギルの魔法のおかげで直接座っても痛みはなかった。
「……いつからってのは正直わからない」
正面を向いたままギルが話し始める。私は静かにその話に耳を傾けた。
「最初の印象は変な奴だなって……まぁとてもじゃないがお嬢様の割に肝が据わり過ぎだったんだよ」
「褒めてないね」
「褒めて……ないのか、これは?まぁいいや、で、その後年相応に泣き崩れたのを見てなんだかホッとしたんだよな」
「……忘れなさいよ、その記憶」
「嫌だね……お前の両親が俺たちみたいなのの後見人になってくれて、一緒に住むようになって、色んなことを知って、ジルと二人だけだった世界が一気に広がって……最初は何とも思ってなかったんだ、ただ俺たちの主であり、一番近くに居る女の子ってだけで……でも学校に行くようになって、ジルとお前以外に繋がりが出来た時、どうしようもなく怖くなった」
「怖く……?」
「……いつかお前も俺たち以外の人と過ごす時間が多くなって、俺は……お前に必要とされなくなるんじゃないかって……契約があったっていつまでもこの関係が続くだなんてありえないって気づいたんだ」
「……」
「丁度同じ時にクラスのやつから婚約の打診を受けてさ」
「えっ、初耳なんだけど」
「別に言う必要ないだろ……お前の両親には一応報告して断ったけど、もしかしたらお前にもこういう打診が来ているのかと思ったらなんか無性に腹が立って、多分そん時にはすでに好きになってたんだろうな」
潮風に吹かれて互いの髪がなびく。
横を見れば穏やかな顔で前を見つめるギルがいた。
お読みいただきありがとうございました。




