お試し期間
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
時はあっという間に過ぎ、私は高等部の最終学年になっていた。
私へのいじめは完全に無くなり、それなりに同性の友人も増え問題なく学校生活を過ごしている。
高等部ともなると本格的に将来を考える時期であり、ほとんどの人たちが中等部の時に見つけた人と婚約を結ぶ年代でもある。私は前世のこともあり、まだ早いと思っていたのだが周りから見ると少し異常なようで卒業を間近に控えた今でも相手が決まっていない。
「で、誰にするの?」
「誰にするとは」
「とぼけるのはよしなさい……あの四人の中で誰を選ぶのかってことに決まってるでしょ」
お昼休みを共に過ごしているのはシュリー・モルネア伯爵令嬢である。
選択式の授業で一緒になり、そこから交流が続いている一番の親友だ。
「うーん……どうしようね、本当に……こんな予定じゃなかったんだけど……」
「あぁ、前に貴女が言っていた馬鹿げた計画の話?」
「当時は真剣だったの!それに……まさか全員そうなるとは思わないでしょ流石に……!」
最終学年に上がった瞬間、アデル、ギル、ジル、ダニーから婚約の打診があった。
朝食を食べている席で父から突然求婚状を見せられた時には飲んでいたスープを思いっきり吹き出し、地獄絵図となったのを覚えている。
ギルとジルに関しては一妻多夫制の国の国籍を取得しており、三人で仲良く暮らすことも出来ると笑顔でジルに言われた時には危うく倒れるところだった。
「羨ましい話だわ、私の相手はもうすでに決まっていたからね」
「……政略結婚とは名ばかりの恋愛結婚のくせに何を言っているのやら」
「……んん……いいのよ、私の話は」
シュリーの婚約相手は幼馴染らしい。人の恋愛には口を出すが、自分のことは照れて何も言わないタイプだ。けれども二人が仲良くしているのは学校内でよく見かけるので何も問題ないのだろう。おかしいな、私はこういうのに憧れていたはずでは。
「でも早く決めてあげないと相手にも失礼よ、貴女という選択肢が無くなれば他を探さなければならないんだから」
「そうだよねぇ……まぁ、でも私の手を離れたら引く手数多だと思うからあんまり心配してないけど」
「……それもそうね」
ここ数年の間に彼らは瞬く間に成長していった。
アデルは卒業後騎士団へと入団した。今は見習い期間も終わり、正式に騎士へとなれたようだ。初めて会った時の面影はどこへやら、まだまだ成長しそうな恵まれた体格に整えられた短髪と切れ長な目が相まって男女ともに人気がある。私といる時は大型犬のように見えるから他で見た時とのギャップが凄いのだが。毎年優秀な成績を修めているらしいので将来は安泰だろう。
ギルとジルの双子は相変わらずの美貌で、間にいる私は何度恥ずかしさで死にそうになっていたことか。在学中に別の国の国籍を取ったこともあり、こちらには留学という形になっている。ギルは相変わらず口は悪いが兄という属性のせいか面倒見がよく意外と頼られることが多い。ジルは逆に見た目の大人しさとは反対にキレッキレの物言いで対応することが多く、よく大人たちを打ち負かしているのを見かけた。二人は最年少で魔法師の資格をいくつか獲ったことで一躍有名になっている。
ダニーは再び髪を伸ばしており、眼鏡はそのままにこの中で一番大人っぽく成長している。幼さを感じられないというか、言動が落ち着き過ぎていて同年代には思えないのだ。しかし負けず嫌いなところは変わらずジルと成績争いをして辛うじて勝ち続けている。中等部の時に一つ上の学年の王太子殿下にその腕を買われ側近としての仕事もこなしているようだが、変わらずに私と共に過ごして勉強を教えてくれていた。
「……この肩書を持つ人たちが私みたいな何のとりえもないやつに求婚するのおかしくない?」
「自分で他人の人生救っておいてそれはないんじゃない?」
「そこまで大げさなことはしてないよぉ……」
「救われた方はどうしても救ってくれた人を良く見てしまうのよ……勿論それだけじゃないとは思うけど」
「んん……」
「そもそも貴女好きな人とかいないわけ?四人に限らずとも」
「あの四人が他の異性との繋がりをブロックしてくるから……好き……好きねぇ……四人とも好きだけど、多分この好きって違うよね」
「思ったより固められてるのね……そして多分違うと思うわ」
結局話が進まないままお昼休みは消えていった。
私も何れ誰かを選ばないといけないことは分かっているし、あの四人が私に好意を持ってくれていることも今回の求婚状ではっきりした。ならば私もしっかり彼らに向き合わなくては。
………
「……お試し期間?」
「なんだそれ」
休日に四人を呼び出し一つのテーブルを囲む。私の家の中だから問題ないが外から見たら異様な光景だろう。訝し気な視線を受け止めてゆっくりと説明をし始める。
「貴方たちから求婚状を受け取って保留していたでしょう?私もきちんと向き合わないとって思って」
求婚状という言葉にその場の空気が張り詰め重くなる。一食触発な気配を感じ取って早めに言葉を繋げた。
「でも私たちの付き合いも長いでしょ?だから正直異性として見たことってあんまりなくて……」
この言葉に全員が落ち込む気配を感じて更に申し訳なくなる。私の一言一言に反応し過ぎではなかろうか。
「だ、だから一人ずつ、ちゃんと話したいの!お試し期間に二人で過ごしてみて、それで色々参考にしようかなって」
「……その期間の間はご主人様と仮の婚約者になれるってことですか?」
「えっ?!うーん……そういうこと、なのかな……?」
「期間は?」
「一ヶ月くらい?」
「それは場所は問わないのか?」
「学校内は過度な接触をしなければ……校外の人目のないところか、休日の方がいいかな」
「そのあと最終的に一人を決めるんですか?」
「それは……その、曖昧で申し訳ないんだけどその時になってみないと……」
煮え切らない私の返事を受けて考え込んだ四人から暫く後に全員の承諾を得た。
順番はとんでもない喧嘩が始まりそうだったのでくじ引きにより決め、ギル、ダニー、アデル、ジルという順番になった。
「じゃあ明日から一ヶ月よろしくねギル」
「あぁ……これ他のやつらの妨害はないんだよな?」
「妨害する必要なくない?」
「いや、するんだよなぁこれが……だからちゃんと言っておいた方がいい」
「そう?じゃあお試し期間は周りは大人しく見守っておくこと、口を出さないこと、あとちゃんと考えたいから対象者以外の人との接触も減らすね」
「……私三ヶ月もご主人様から離れないといけないんですか……」
「あ……あの、ちゃんと用があるときは大丈夫だから、ね?」
あまりにもジルが落ち込むので少し可哀想になって付け足すが、それ以上の言葉を許さないと言うようにギルが睨むので大人しく口を閉じた。
「……因みに先程過度な接触と言いましたがどこまでなら許されるのでしょう?」
考え込んでいたダニーが静かに疑問を口に出す。
その質問に答えを具体的に用意していなかった私は少し考えた。
「んー……学校内であんまり恋人らしく振舞っちゃうと今後の貴方たちの縁談に響きそうだし……何より周りは私たちがお試し期間だということなんて知らないから私の貞操にも関わってくると思うんだよね……だから人目のある所での接触はほぼ無かな……」
「人目のないところでは?」
「え……?分かんないけど……私が嫌だと思ったらすぐやめて欲しい」
「わかりました」
この時の私はもう少し考えて発言をすべきだったと後になって後悔するのだが、今は納得した四人を前にして安堵しきってしまいそれ以上を何も考えることが出来なかった。
お読みいただきありがとうございました。




