四人目②
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
偶然の出会いというのもは何回も続くと偶然とは言えなくなってくるものだ。
一度目は本当に偶然だった。彼女があそこを通りかからず、上から水が降ってこなければあり得なかった出会い。自分が濡れていることよりもボクに水がかかっていないかを心配する不思議な子。
学校に所属している人の顔と名前は全員覚えているから、その子が誰なのかはすぐにわかった。まさかいじめられているとは思わなかったけど。この年頃特有の甲高い声や笑い声、他人と比較し見下すような言動が全くなく、レディに言う言葉ではないがまるで経験を積んだ老婆のような安定感を感じて不思議と目を引かれた。どんな子なのか知りたいと純粋にそう思った。
その日から彼女のことを調べてどうにか仲良くなれないか画策する。
けれども調べれば調べるほど彼女の周りにまとわりつくようにいる男たちの存在が目に入った。
彼女の従兄弟であるアデルバード・レバンス、どうやら訳ありで元は孤児の養子のようだ。騎士課の生徒のくせに隙あらば彼女に近づこうとする厄介なやつ。しかし学年差もあるため接触頻度は少ない。
そしてギルベルトとジルベルトの双子。隠しているようだが彼らと彼女の間に何かしらの契約の痕があった。ご主人様と呼ぶのにもきっとその契約が関係あるのだろう。彼らの関係が主従関係であるのなら脅威にはならないが、いかんせん同い年で同じクラスだ。この二人の目をかいくぐるのは中々に難しい。
しかしボクにも好機はあった。校内にいる間は彼女は一人で行動していることが多い。
必要以上に彼らと話さないのを見るときっと彼女からの希望なのだろう。
だからボクはその隙を狙った。
偶然を装い彼女のいく先々で視界に入るようにする。タイミングが良ければ話しかける。
そういった小さな積み重ねで漸く友人の一歩手前まで来ただろうか。
だからこれはボクにとって友人以上になれる最大のチャンスだ。
「で、目的は何?」
「目的とは?」
「ご主人様が行く先々で偶然出会うなんてあるわけないんですよ、貴方が作り出した必然にご主人様が巻き込まれているだけです」
「……たとえそれが必然だとして、それの何が悪いのか分からないな。ボクは彼女にも君たちにも迷惑をかけているつもりはない」
図書館の帰り道に双子に行く手を阻まれ質問をされた。表面上は穏やかだが二人とも目が笑っていない。いつか来るだろうとは思っていたが意外と辛抱強いようだ。
「下心を持っている友人なんて嬉しくないだろ?あいつが勘違いする前に元のポジションに戻ったらいいと思うぜ?優等生」
「……君の弟も優等生だと思うけどね」
「わぁ、私のこと知っているんですか?……調べた甲斐はありましたか?」
「……」
当たり前だが全てバレているらしい。それなりにバレない手段を使って情報を集めてはいたのだがやはり侮れない。けれどここで引くわけにはいかなかった。
「……そもそも何故彼女の交友関係に貴方方が口を挟む?彼女が誰といて何をしていようが関係ないはずだろう?」
「さっきも言っただろ、あいつに下心を持っている奴を見極めているだけだ」
「自分たちには無いと?」
「あいつと俺たちの間に何があったかなんて知らないんだから口挟むんじゃねぇよ」
「ボクだって同じだ、君たちよりかは過ごした時間は短くとも同じだと思わないかい?」
「……あーもーごちゃごちゃ煩いな」
そう言って苛立ちを見せた彼は小さな魔方陣を展開する。全てを読み取れたわけではないが忘却呪文の一種だろうか。視界に入る時計の針を確認しあと少しなのにと焦りが出る。しかし、同じように弟の方も焦りだしその魔法を止めようとしていた。
「兄さん、それはまずいって……!」
「バレなきゃ大丈夫だろ、めんどくせーし、これでさっぱり忘れた方が……」
「……何してんの?」
静かな声に全員がそちらを見る。
その先に居たのは待ちわびていた彼女で、ボクたちの状況を確認するように視線を巡らせた。
「……ギルだけならともかくジルまで?」
「あ、のご主人様……その」
「べ、別に本当に使うつもりはなかった!ちょっと脅しのつもりで……!」
「帰ったら説明」
「「はい……」」
先程までの勢いはどこへやら、急に子犬のように小さくなった二人に驚いていると彼女はボクの方へ視線を留める。上から下まで見る動きに恐らく怪我の確認をしているのだろう。何もないことを確認するとルーペンさん、と声がかかる。
「少し話しできる?」
「あぁ……」
意気消沈した双子を他所に彼女は踵を返す。その後ろを大人しく付いて行った。
暫く歩いて立ち止まったのは初めて会ったベンチがあった場所。
先に腰かけた彼女が端に座ったので同じように端に座った。
「怪我はしてないようだけど大丈夫?」
「え、あ、あぁ……発動寸前にスコットさんが来てくれたから大丈夫だったよ」
「よかった、それに関してはあの二人にちゃんと言い聞かせておくね」
まったく、とため息交じりに呟くと、それで、と続けた。
「私にあれを見せたかったの?」
「……!」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
その言葉の意味を理解しようと喉を詰まらせたせいで彼女は確信を得たように、そうなんだと独り言ちた。
「貴方がなんて説明しようとしてたのかは知らないけど、あの双子については私の方が付き合い長いし下手な嘘は辞めた方がいいと思う」
「……“あの二人に貴女から離れるように脅された”と言いたかったんだけど」
「多分それは事実でしょうね……でもその前に“自分が明確な被害者になるように私が来るタイミングと場所をえらんだ”でしょう?」
「……」
「……なんでそんなことを?」
貴女の特別な友人になりたかった、とは言えなかった。
あの双子も、彼女も言ったように彼らにはすでに数年間の絆がある。
知り合って数ヶ月のボクでは何もかもが敵わないということは分かっていたから、特別な人になるには可哀想な自分を演じることがいいと思ってしまったのだ。彼女の情に訴えかけ、近くに居させてもらおうだなんて。今考えれば全く浅はかで幼稚なアイデアだ。
こちらを真っすぐに見つめる彼女の目に映る自分がどうしようもなく惨めに思えて下を向く。けれどもこれ以上みっともない姿を見せるわけにはいかず、包み隠さず全てを話した。
「……私の一番の友人になりたくて……?え、それだけ……?」
全てを曝け出した後、膝に置いた手をきつく握りしめていると拍子抜けしたような声が降ってくる。
恐る恐る顔を上げれば戸惑っている様子の彼女が口に手を当てて狼狽えていた。
「脅されたことを隠す代わりに私経由で双子を使うとか、損害賠償請求叩きつけるとか、逆に私を強請るとかじゃなくて????」
「……ボクってそんな悪魔みたいに見えてるんだ……」
「あ、いや、その、違うの、決してルーペンさんがそう見えるわけではなくて一般論と言うか……」
あまりの内容に軽いショックを受けているとバツが悪くなった彼女が今度は頭を下げる。
「ごめんなさい、色々と考えてて随分な態度とっちゃったし……脅したことは事実だからあの双子にも謝罪には来させるね……」
「ううん、彼らの謝罪はいらないよ……未遂だし、お互い様だからね」
「それでも形だけはさせてちょうだい」
意志の強い瞳がボクを貫く。同時に何故かその瞳に見つめられることに居心地が悪くなりそわそわと身体を動かした。
「……あと、私たちってすでに友人ではなかったの?」
「……え?」
「偶然にしろ狙ったにしろ、貴方と過ごす時間は多くなったし嫌じゃなかった……嫌いな相手と時間を過ごすほど私も暇じゃないのよ?」
「……友人……だった?」
「貴方がいう一番が何をさすのかは分からないけど、少なくともこの学校で私の一番目の友人は貴方よ」
「ボクが……?」
「アデルと双子はもう家族のようなものだし、貴方も知っている通り私は今絶賛いじめられているでしょう?私の周りには貴方しかいなかったんだけど」
不思議そうに首を傾げながら説明をする彼女を見ているうちに何かが頬を伝って流れていった。
「えっ!?なんで泣くの?!」
「え?あぁ、ごめんね……なんでだろう」
ぽろぽろと流れる涙を気にもとめずボクは立ち上がって彼女の前に立ち頭を下げた。
「……初めて友人になれそうな子が出来て視野が狭くなってたみたい……別に友人の中で一番にこだわる必要はなかったのにね……ごめんなさい、スコットさん……改めてボクと友人になってくれませんか?」
「……勿論、それと私のことは名前で呼んでよ」
「うん……ボクのことも名前で呼んでください」
「なんで敬語に?」
「……けじめですかね」
頭を上げると彼女から手が差し出される。
その手を握ると思わず笑みがこぼれた。
「ふふ、そうですよね、友人の中で一番になったところで君の特別にはなれませんよね」
「ん……?」
「今わかりました、ボクは君の特別になりたいんだと」
「んん……??」
「これからよろしくお願いしますねレイラ」
さりげなく愛称で呼んでその手に口づけを落とす。
明確な目的と自分の心情に気づけた今、ボクは漸く彼らと対等になれたのだろう。
戸惑っているレイラを可愛いと思いつつ、ボクはこれからの攻略方法を頭の中で試算していた。
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