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二人目・三人目

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません


二人目:ギルベルト

三人目:ジルベルト


この世界には悲しいことに奴隷契約というものが存在する。

摘発と禁止条例が繰り返し出されているが、それでも法の目を潜り抜けて行われているものが少なくない。


奴隷になるのは幼い子どもが多く、アデルバードのような孤児を攫い能力や見た目でその価値を決め売っていくのだ。他にはお金持ちの令嬢や令息もその対象になりやすい。こちらは孤児よりも扱いがひどく、どこか別の貴族のストレスのはけ口にされるのだ。自分より上の階級の子供を嬲ることで自尊心を満たすとは、どこまでもクズなやつがいるものだ。


(……だからまさか自分が狙われるとは露ほども思ってなかったのよねぇ……)


私の家は伯爵家、正直どこにでもあるしこれといって特別な何かがあるわけではない。

偶々、アイツらの目に入ってしまった。ただ、それだけ。


(……アデルは大丈夫かしら)


今にも飛び出しそうなアデルを思い出して僅かに感じていた不安を取り除こうとした。


あれから二年が経ち、私は七歳、アデルは九歳になった。

アデルは見違えるほど健康的に成長し、初等学校へと進学した今は騎士になるべく剣術の授業に勤しんでいる。

今日は息抜きにと二人で買い物に来ていた。勿論見えないだけで護衛は数人いたが、比較的治安のよい我が領に気が緩んでいたのは間違いない。だから油断してしまったのだ。


アデルがどうしても一人で買いたいものがあるというので、店の外で待機していたが向かいに気になる雑貨を見つけてそちらを眺めているとガラス越しにローブを纏った男と目が合った。直観的にまずいと思ったが男はあっという間に私をローブの中に抱え走り出した。抵抗するも子供の腕力でどうにか出来るわけもなく、周りの音から護衛が追ってきているのも分かったが、それを撒いた男はその後も走り続け私は馬車に乗せられた。いつの間にか手足には拘束魔法がかけられており声も封じられていた。


どうにか痕跡が残せないかと辺りを見渡すと木の陰にこちらの様子を窺う人影に気づく。

それがアデルだと気付くのに時間はかからなかった。護衛が追い付けないのにどうやってここまで来たのかは分からないが、今にも飛び出しそうになるアデルに首を振り助けを求めるよう視線で訴えた。いくらアデルとは言え魔法を使う大人に一人で立ち向かうのは無謀だ。悔しそうに唇を噛むアデルを見つめていると馬車が揺れ、動き出したことを感じると目の前がゆがみ床に倒れる。恐らく魔法で眠らせたのだろう。相手は子供だというのに随分用意周到な誘拐犯である。目の前が徐々に暗くなり私は意識を手放した。


目が覚めた時には檻の中に入れられていた。

同じような檻がいくつも並び、その中に二、三人ずつ子どもが閉じ込められている。

私は一人だったのでもしかしたら後から誰かが入ってくるのかもしれない。


僅か一瞬の油断が招いたこの結果に自分の不甲斐なさを感じていると扉が開いて男が入ってきた。

慌てて寝たふりをすると近くで金属がぶつかる音が聞こえ何かが置かれる音がする。再び扉が閉まったのを確認して目を開けると薄い水色の髪をした子どもが横たわっていた。きっと同じように誘拐された子だろう。服装を見る限り貴族の子ではなさそうだ。両手両足の拘束はそのままだが身体を引きずりながらどうにか近寄ると容体を確認する。


(特別外傷はないみたい……でも服の生地が薄くて痛そうだな……)


せめてもと思いその子供の頭を膝に乗せようと触ろうとすると勢いよく弾かれた。

ビックリしていると眠っていたと思われた子供の目がしっかりと開きこちらを睨んでいる。


「あ、起きてたんだ……ごめんね、急に触ろうとして」

「……」

「ここ硬くて冷たいから支えてあげようと思って……」

「……誰だお前」

「あ、私……レイラっていうの貴方は?」

「……」


本名を言うのはどうかと思い愛称を伝えるが向こうからの返事はもらえず、辺りを見回すように視線を動かしている。


「……ところで貴方男の子?女の子?」

「……」

「じゃあ女の子ってことで」

「男だ、見てわかるだろうが」


あまりにも中性的な顔立ちと声だったため、口調であたりは付けていたが確認のため質問するとどうやら男の子だったらしい。睨まれつつもそうなんだ、と返すと私には関心がないらしくせわしなく視線を動かしている。


「……もしかして誰か探してる?」


返事がない代わりにピクリと肩が動いたのを見てそうなのだと確信した。


「貴方と同じような髪色の子はここにはいないよ」

「……何でわかる?」

「私も目を覚ましてから暇だったの、脱出のことも考えてたし」


アデルが両親に伝えてくれるし、絶対に助けに来てくれる。それに念のため気を失う直前に乗せられた馬車に私の服の装飾を置いてきた。だからそれを待ちつつ、こちらからも逃げる手立てを考えていたのだ。


「……なぁ、あんたどっかのお嬢様だろ?」

「お嬢様ってほどの身分でもないけど」

「なんでそんなに冷静なんだ?普通は泣いたり叫んだりするだろ?」

「そういう貴方こそなんでそんなに冷静なの?ここに連れてこられた時もすでに起きてたみたいだし」


おかしいとは思っていた。ここに子どもがこんなにいるのにあまりにも静かすぎるのだ。

私もかけられたように催眠魔法が効いているとは思うのだが、備えをしている私でさえ暫く目を覚まさなかったのに、この子はついた瞬間に目を覚ました。


「……俺は魔法を使える、だから相手の魔法と相殺してかかったふりをしただけだ」

「なるほどね……で、探しているのはきょうだい?」

「……弟だ」

「分かった……ねぇ、これも何かの縁だし協力しない?」

「なんで」

「私だってこんなところ早く抜け出したいし……それに証拠集めてこんな奴ら潰しとかないと」

「……あんた本当にお嬢様なのか……?」

「で、協力してくれるよね?」

「……分かったよ」

「ありがとう!えっと、名前教えてくれる?」

「ギル」

「ギルね、もう少ししたら私の両親も乗り込んでくると思うからその前に証拠集めちゃお」


私は徐に下着の中に手を突っ込むと探り当てた魔道具のボタンを押す。慌てるギルを横目にパチンという音を立てて手足が自由になった。取り出した魔道具をギルに当てて同じようにボタンを押すと途端に彼の手足も自由になる。


「……解除魔法?」

「そう、他にもいくつか便利な機能あるから私もそれなりに役に立つと思うよ」


笑いながら檻の鍵を開けると先に出てギルに手を差し伸べる。

ぽかんとした表情を浮かべた後面白そうに笑って私の手を取った。


ギルは年齢の割に魔力量も多く、使える魔法の種類も多かった。

一部使用用途が限られている透過魔法等もあったので彼が捕まらないよう後でこっそり教えてあげようと思う。

二人で証拠になりそうな品物を集めていると私たちが居なくなったことに気づいた男たちの声と同時に、外から警備隊の声が聞こえてきた。外を見れば両親とアデルの姿が見え思わず涙が出そうになるがぐっとこらえ証拠品をしっかりと手に抱える。


「くそっ!!なんでバレ……あ?」


勢いよく扉が開いたかと思えば年輩の男が慌てたようにやって来た。

ギリギリで身を隠したのかギルの姿は見えず、私はその男と視線がかち合う。


「テメェか!!!」


手に持った書類を見た瞬間真っすぐこちらに向かってくる男に恐怖を感じ立ちすくんでいると、目の前で男の動きが止まる。


「レイラ!!来い!!」


声だけが聞こえ、同時に引っ張られた手にギルがいることを確認できてしっかりとその手を握り返す。

透過魔法をかけてもらい開いている部屋に身を隠した。


「あ、ありがとう、ギル……」

「悪かった、俺の魔法が間に合わなったから……」


繋いでいる手が震えているのを見てギルが申し訳なさそうに私に謝った。

落ち着くように私の身体ごと抱きしめてくれると、その温かさに段々と震えが収まっていく。


どれくらい二人でそこにいただろうか。

遠くから聞き覚えのある声が聞こえ私はすぐに顔を上げた。


「ギル!お父様だ!」

「えっ、おいっ?!」


ギルを引っ張るように立ち上がり駆けだすと扉のすぐ外に父がいた。

急なことに集中が切れたのか魔法は解けて互いの姿が見えるようになる。


「レイラ!!」

「お父様!!!」


ギルの手を放し証拠品も投げ出して父に飛びつく。

一気に今までの恐怖と不安が押し寄せて人目も憚らず泣き喚いた。


恥ずかしいことに私はそのまま気を失い、目覚めたのは事後処理も終盤に差し掛かった時だった。


お読みいただきありがとうございました。

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