▶アデルバード・レバンス④
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「……」
「……もしかしなくてもあれ、スコット嬢の婚約者じゃないのかい?」
「そうですけど」
「いいの?」
「面白くないけど面白いから気づくまで待ってます」
隣に並んだハピルが意外そうに目を見開く。
沢山の令嬢に囲まれるも微動だにしないアデルの姿を少し離れたところから観察するように二人で見つめていた。
久しぶりに休暇が取れたアデルと買い物ついでに街に出かけたのは良かった。しかし模擬戦のこともありすっかり顔が知られてしまった彼には好奇と好意の視線がまとわりつき、隣に並ぶ私には突き刺さるような視線と微笑ましい視線という正反対なものがまとわりついていた。
アデルは子供からのキラキラとした好奇心にも令嬢からのあからさまな熱視線も気に留めないが、私はその令嬢たちからの視線が痛いし、幼い頃から知っている町の人からの微笑ましい視線もむず痒く落ち着かない。
「……貴方、騎士としてそれでいいの……?」
「え、何かあった?」
「いや……ん!?」
「ごめん、子供が走ってたから」
言葉の途中に組まれた腕を引かれたと思えば直ぐ側を子供たちが駆け抜けていく。後ろからだったというのにすぐに反応して見せたのでその辺の感覚はしっかりとあるようだ。ということは本当に気づいていないかシャットダウンしているかのどちらかだろう。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言えばにこりと笑う彼と引き寄せられたことによって近くなった距離のまま目的の店まで再び歩き出した。
結局模擬戦のお祝いに物はねだられなかったが個人的にプレゼントしたくて予約していたのもを取りに行く。直前まで見せるのは内緒にしておきたいのでアデルには店の名前を告げその店が見える少し離れたベンチで待っててもらうことにした。幼い時のことがあるからか少し不安そうにしていたもののどうにか言いくるめて一人で店に入っていく。
中身を確認し問題がないことが分かるとラッピングをしてもらい支払いをして外に出る。この間せいぜい五分と言ったところだろうか、だというのに彼がいた場所にはこんもりと人混みが出来ていた。その人込みの中心に見えるのは頭一つ高いアデルの姿で、群がる令嬢たちを無下にも出来ないらしく無表情で事態が動くのを待っている様子だった。その光景に興味を持った私がいつ気付くかなと店の前に突っ立っていると偶々通りかかったハピルに出会い冒頭に戻る。話しかけに行けばいい話ではあるのだが気づかれないことも面白くない。自分で始めたことなのに段々と苛立ちが募ってきた。
「……ハピルさんって今お付き合いしている方いますか?」
「えっ、唐突……残念ながらいないよ」
「では好みの女性のタイプは?」
「……俺、もしかして何かに巻き込まれる?」
「好みのタイプは?」
「……一緒に馬に乗って遠出とかできる活発な女性がいいかな」
「分かりました、後程紹介させていただきますね」
「こわいこわいこわい!俺何すんの?!」
「そんなに怯えないでください、ちょっとアデルにやきもち焼かせたいだけですから」
「……さようなら俺の未来の彼女候補」
天に向かって祈るように手を組んだハピルを無視して私は壁に背を付ける。
ブレスレットに魔力を込めてハピルの髪型と服装を変えた。
「うわっ」
「数分で戻るので安心してください、ではナンパのフリをお願いします」
「絶対に俺のこと守ってね!!」
そう言ったハピルは私の横に並び直すと手を取るように救い上げる。
知っている人で下心がないということもあるが社交的な距離感を保ったそれに不快感は感じなかった。
「それにしても意外だな、もしかして結構怒ってる?」
「……怒ってはいません、面白くないだけです」
「それ同義だと思うよ」
くつくつと笑うハピルは普段と雰囲気が違うこともあってまた別のかっこよさがある。
モテそうなのに彼女がいないというのも不思議な話だ。
「……ハピルさんモテそうですけどね」
「そう?そう言ってもらえるのは嬉しいけど後ろ盾のない三男なんて人気はないんだよねぇ……」
「……あ、では入り婿の方がいいですかね……相性良さそうな友人見つかったかもです」
「本当?もし上手くいきそうだったら紹介してね」
握手をするように軽く上下された手が引き離され肩に鈍い痛みが走る。何かにぶつかりそれを確認する前に胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられているハピルが目に入った。
「アデル!その人はハピルさんだよ!」
「……は?」
「や、やっほーアデルバード……いい天気だね」
「は……???」
困惑した声が漏れた後アデルは漸く手を離した。私はアデルに肩を抱かれて隠されるような位置におり、辛うじて見えていたその視界も完全に彼の背中で見えなくなった。
「なんでそんな恰好……それよりレイラの手握ってただろ」
「これはちゃんと理由があるんだって!可愛い嫉妬なんだから許して!」
「なっ、ハピルさん……!!」
左手で前に出ないよう邪魔されるがその腕にしがみつくようにして前に出ると爆弾を落としたハピルはいつの間にか私たちの前から走り抜けていた。
「約束と弁解よろしくね~」
「は、早い……」
魔法が解けいつもの姿になったハピルの背が見えなくなると後ろからアデルに低い声で名前を呼ばれる。思わずびくりと肩を揺らすが、こちらにも言い分というものがあった。振り返って見上げれば不機嫌な顔のアデルと目が合う。その顔を見て思わず頬を膨らませた。
「なんでハピルに手を握らせていたんだ」
「アデルこそ私が店から出てきたのに気づいていなかったじゃない、ハピルさんのことは怒らないでよね、私の我儘に付き合ってもらっただけだから」
「……手を握らせることが?」
「……そうよ、少しは私の気持ちを味わいなさい!」
「どういう……待って、レイラ!」
こんなこと言うつもりじゃなかったのにという後悔をする暇もなく勝手に口が動いていく。アデルの態度を見ていれば他の女性にうつつを抜かす様子もないし、身体に触れさせてもいない、ただ抜け出せなかっただけ、それは十分わかっている。
(……思った以上にあの光景が嫌だったみたい……)
興味があった、面白そうだった、それも事実ではあるがそれ以上に自分以外の女性に囲まれているアデルの姿を見るのが耐えられなかったようだ。初めての感覚に自分でも気持ちの整理が出来ないまま早歩きで人波を避けていく。店が並ぶ通りを抜けて人もまばらになった頃、アデルに手を掴まれたことで私の逃避は終わりを告げた。周りの迷惑にならないよう路地の物陰で立ち止まる。
「待ってレイラ、ごめん、怒ってるのは分かるけどあんまり僕から離れないで」
「……私が何に怒っているかも分からないのに謝らないでよ」
「え、っと……それについては察していると言うか……僕の自惚れじゃなければだけど」
掴まれた手は痛くはないが振り解けないほどにはしっかりと掴まれていて、これ以上逃げられないと悟った私は振り返って彼を睨む。目が合えば安堵したように彼は息を吐いた。
「……もう少し女性のいなし方覚えなさいよ!!」
「それは……はい、ごめんなさい……」
「……にやにやして謝られても困るんだけど」
「だって……僕が囲まれてるのをみて嫉妬してくれたってことでしょ?嬉しくないわけがないと言うか」
「……馬鹿アデル」
「ごめん、今度はちゃんと抜け出す方法見つけるから……それに僕が全体的に悪いとは思うけど」
「っ?!」
掴まれた手が引かれ彼の胸に飛び込むと強制的に顔を上げられる。笑っているはずなのに何故か背中を冷たい水が流れていった。
お読みいただきありがとうございました。




