▶アデルバード・レバンス⑤
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「だからと言って手を握らせるのは良くないと思うなぁ」
「……相手はハピルさんだけど?」
「だから?僕以外の男が触れたことには変わりないじゃない」
「あんな挨拶みたいなもの……」
「……僕がどんな気持ちだったか教えてあげようか?」
じっと見つめられ視線を逸らすことが出来ないでいると掴まれた手をなぞるようにアデルの指が這う。不意な動きに驚くもののしっかりと抱えられているため抜け出すことが出来ない。
「さっきレイラだってそういう気持ちだったんでしょ、多分僕はその百倍ぐらい嫉妬深いからね」
「……」
「あとさっきの約束って何?」
「それは……その」
「言えない事?」
約束の内容を話すということはアデルにやきもちを焼かせたかったということまで話さなければならないということに気づいて僅かな逡巡を見せると間髪入れずに質問が振ってくる。悲しそうな表情を作っているが、目が笑っていないことに気づいて自分の恥など瞬時に捨て去った。
「アデルにやきもち焼かせたくてナンパしてるふりしてもらったの!その代わりに相性良さそうな友人を紹介するって約束で!」
「……それだけ?本当に?」
「そう!巻き込まれただけのハピルさん……ん!?」
この状態から抜け出せるならどうにでもなれと恥を忍んで伝え、アデルの矛先がハピルへ向かわないよう念を押す途中で唇が塞がれる。訳が分からないまま軽いキスが何回も贈られ、何、何で、と呼吸の合間に呟いた。
「言ったでしょ、レイラの思っている以上に嫉妬深いんだよ僕は……偶々出会ったのはしょうがないけど、せっかくのデートなのに何回も他の男の名前呼ばないでよ」
「別に、そんな……つもりじゃ」
「わかってる、アイツもレイラにもそんな気がないことぐらい……でも嫌なものは嫌なんだ」
繰り返されるキスに段々と力が抜けていくのが分かり、唐突に先程まで持っていたアデルへのプレゼントの存在を思い出す。どちらの手にもその感触がないことに慌ててアデルの胸を叩いた。
「ちょ、っとまって!アデルへのプレゼント……!」
「ん、僕が持ってるから安心して」
中断されたのが不服だったようだが私の心配の先が何なのかに気づいた後はいつものアデルに戻ったように感じる。いつの間に、と視線で確認すればさっき手を繋いだ時と返された。
「……よかった……落としたかと思った」
安堵するとともに漸く身体が離れたので一歩距離をとる。せっかく雰囲気が変わったのだから元の調子に戻したい。アデルの手を取り路地から抜け出してベンチへと座った。
「その、予定が狂っちゃったけど……これ、もらっていい?」
「本当にね……でもそれはそれだし、改めておめでとうアデル」
「ありがとう……開けてみてもいい?」
頷けばラッピングを丁寧に外していく。中々目の前でプレゼントした反応を見る機会はないので不安と期待が半々に顔を出した。箱を開けた先には小さな銀細工のチャームがあった。
「チャーム……?」
「そう、上限はあるけど危険から守ってくれる魔法付き……魔力を込め直せばまた使えると思う」
十字架の真ん中に鳥を模したそのデザインはアデルの母親であるマリアと彼の名前から連想したものだ。勿論この世界にマリア様が載っている聖書などないが十字架自体はお守りのシンボルとして使われるものなので違和感はないだろう。
「……」
「……なんか、デザインとか嫌だった……?動いても邪魔にならないようにサイズ小さくしたんだけど……」
「ううん、嬉しくて……言葉が出ないや、ありがとう大事にする、ずっと肌身離さず持っておく」
「喜んでもらえたならよかった」
アデルの反応を見る限り喜んでもらえたのは間違いないだろう。初めて自分で選んだものなのでセンスが不安だったが心配ないようで胸を撫でおろす。
大事そうに取り出したアベルが付属品としてついていたチェーンにチャームを通して首に巻く。器用に金具を止めると首元で光るそれに指をあてた。
「大丈夫そう?邪魔になったり装飾が肌に刺さったりしてない?」
「うん、一番下に閉まっておけば訓練中も気にならないかな」
箱やラッピングを丁寧に袋に戻すと彼の手が腰に周り座った二人の距離がぐっと近づく。触れ合ったところがあたたかく心地よい。私はアデルの肩に自身の頭を乗せて寄り添った。
「……レイラ、ありがとう」
「もう、何回お礼言うのよ」
「何度でも……何回でも言うよ」
回した手に力が入る。彼の声が微かに震えているのは気のせいだろうか。
「僕のこと選んでくれて……本当にありがとう」
アデルが感謝の言葉を述べるの聞いて私はゆっくりと目を閉じた。
アデルバード・レバンス
ハッピーエンド
お読みいただきありがとうございました。
次はギルベルトとの話になります。
こちらも完成次第順次更新していくのでよろしくお願いします。




