お試し期間【ジルベルト】②
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「レイラーニ!」
「えっ、初めて名前呼んでくれた」
「何を悠長なことを……!早く離れて……!」
「ジルは魔力操作に長けてるでしょ」
私を引きはがそうとしていた手が僅かに緩まる。心配しなくていいと、抱きしめる手に力を込めた。
「……私の障壁ももう持たない……ジルが自分で抑えて」
「……抑えられなかったら」
「抑えられるよ、大丈夫……自分と私を信じて」
障壁にひびが入り限界を悟る。強く目を閉じるのと障壁が壊れるのは同時だった。
ガラスが割れるような音が響いた後、甘い匂いが香りぐらりと体勢が傾いたが不思議と痛みはない。
「……無茶を言いますね」
長い息を吐いたジルの言葉に恐る恐る目を開ければ一面に色とりどりの花畑が広がっていた。
何層にも重なっているかのように見えるそれに私たちは倒れ込み埋もれている。
「……これ……」
「……溢れた魔力をこの花に変換しました……一か八かでしたけど成功してよかったです」
下から聞こえてきた声に漸く私がジルの上に乗っかっていることに気づき慌てて横にずれようとするが、背中に回された腕が縋るように絡みつき力が込められた。微かに震える声と手に大人しくその身を委ねる。
「……良かった……本当に……」
「……ジル、怪我とかしてない?大丈夫?」
「……自分の心配をしてくださいよ」
「ジルが私に怪我させるわけないでしょう?」
至極当然だと言うように答えればジルから呆れたように乾いた笑いが漏れた。
「あーもー悩んでた私が馬鹿みたいじゃないですか」
何かが吹っ切れたのか以前より明るさが感じられる声に私も安堵する。
「別に我慢してたわけではなかったんですけど……どうせなら好きなようにしましょうか」
「何をするの?」
「とりあえずご主人様」
「呼び方戻っちゃった……」
「……そんな残念そうな声を出さないでください、このままどこかに隠したくなりますから」
ジルが起き上がる気配に自分も身を起こすと彼は横抱きに私を抱えて胡坐を組んだ。パチンと指を弾けば一面の花畑が消えて元通りの景色となり、更に指を弾いた後にはどこかの部屋の中に転移する。整理整頓がきちんとされている物の少ない部屋にかかる見覚えのある制服に首を傾げた。
「……ん?」
「あぁ、私の部屋です」
「……えっ?!」
よくよく見れば私たちはベッドの上に腰かけており、流石の私もこれは拙いのではないかという思いが顔を出す。慌てる私を安心させるように彼は笑って大丈夫ですよと声をかけた。
「そんなに焦らなくても隠したり、閉じ込めたりしませんよ」
「……本当に?」
「はい、それに私はご主人様の嫌がることは出来ませんし」
そういうと彼は私をベッドの淵に下ろし自身は床に膝をつく。既視感のある光景だと思っていると彼はそのまま私の腰あたりに腕を巻き付け抱きついてきた。そのまま動かなくなってしまったので手持無沙汰の私は彼の髪を撫でる。
「……本当はもっとご主人様に触れたかった」
「……」
「もっと私を見て欲しかったし、名を呼んでほしいし、褒めて欲しいし……想いを伝えたかった」
「……もう伝えてくれないの?」
「……いいえ、これから伝えていきます」
巻きつけた腕を戻し顔を上げる。ズレた眼鏡を外した彼はやっぱりギルとそっくりだけど、ちゃんと見分けがついた。その容姿に気を取られていると口を手で覆われその上から唇が触れる。離れた彼は申し訳なさそうに微笑んで手を放した。
「私はずるいから選択肢を増やしてでもご主人様の傍に居たい……どうか私か……兄のどちらかを選んでくださいね」
「……それなんだけどさ、ジルの一番の望みはどれ?」
「……」
「ジルを選ぶのと、ギルを選ぶのと……二人を選ぶの」
「……私は……私が望んでいたのは、最後の選択肢でした」
「……でした?」
「二人を選べばご主人様は私と兄さん、どちらも平等に扱ってくれるでしょう?本当の一番になれなくても実質的には同じですから……私はそれを望んでいました……でも、欲が出てしまった」
私の手に触れそのまま自分の頬にその手を当てる。触れた箇所は暖かく、それを包むジルの手は少し冷たかった。
「三ヶ月ご主人様が他の誰かと過ごすのを見て、どうしようもなく苛立ちました……兄さんの時は一番目だったこともありそこまでではなかったんですけど……ご主人様の近くに居れないことがこんなにも辛いとは思っていなくて」
「……」
「思ったよりも私はご主人様のことが好きだということに気づいてしまったんです……兄さんと同率は嫌だと思うぐらいに」
「なんか……意外だったな」
「そう言う風には見えなかったでしょう?」
「うん……そもそも求婚状の時点で思ってた」
「それは……なんか複雑ですね」
「……ずっと無意識にギルに遠慮してたんでしょ、多分……だから私にもあまり伝わらなかったんじゃないかな」
「……今は、ちゃんと伝わってますか?」
「うん、どうにか平静を保ってるけどめっちゃ照れてるから今」
私の言葉に意外だと言うように彼の目が見開く。
次の瞬間には勝機だと言わんばかりに顔を近づけた。
「思ったより私にもチャンスはありそうですね」
「ち、近いんだけど……」
「すみません、近付かないとよく見えなくて」
「こんな時ばかり……!!」
笑うジルとの距離が不自然なものではなくなって安堵する。しかし、したたかに距離を縮めてくる彼はその日から遠慮というものが無くなり私は翻弄されまくることになった。
お読みいただきありがとうございました。




