お試し期間【ジルベルト】
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「……もしかして兄さんから何か聞きました?」
「えーーーーーーーっとね……」
「隠し事が下手すぎますご主人様」
「……ごめん」
ジルと過ごすようになったのは良いのだが頭の片隅にギルから言われた言葉が棘のように刺さって消えず、不審に思ったジルに二日目に問い詰められた。
「その……国籍を取った経緯を少し……」
「あぁ、そのことですか?私が決めたことですよ」
「そ、そうなんだ……」
簡単に返ってきた答えにこちらの方が戸惑ってしまう。
しかし、すぐにちゃんと理由もありますよ、という呟きがあった。
「……私もご主人様のことは好きですが、同じくらい兄さんのことも好きなんです……だから私たちのどちらかが選ばれた場合、兄さんと離れ離れにならないようにしたかったんです」
「……ジル……」
「勿論一妻多夫制とは言っても兄さんが選ばれたなら私はその肩書だけ貰えればいいんです……もし私が選ばれたのなら……兄さんはどうするかは分かりませんが」
「……なんかやぶさかではないみたいなこと言ってた気がする……」
「では、きっと私と同じような気持ちでいてくれるのでしょう」
そこまでの話は兄弟の中でもしていなかったのか安堵したように微笑む彼にその突飛な行動の理由が分かってほっとする。どちらにしろ彼らのどちらかを選んだ時には必然的に多夫になってしまうことにはなるのだが。
「……まぁご主人様が私たち二人を選ぶという可能性も無くは無いですからね、それはそれで嬉しい話ですが」
「嘘でしょう?!」
にこやかにとんでもないことを言うジルに頭を抱えていると、でも想像してみてください、と後ろから囁かれる。肩に置かれた手が腕を伝い掌で繋がり、目を覆うように手がかぶせられる。
「私たちが二人でご主人さまに仕えるのですよ?兄さんと過ごした日々は楽しくありませんでしたか?日によって変えてもいいですし、三人で何かをするのもきっと素敵ですよ」
彼に言われるまま三人で過ごす未来を思い描く。ダンスをするようにステップが踏まれくるりと回った私は彼の魔力に酔いそうになっていることに気づき慌てて距離をとった。
「魔法使ったでしょ!!具体的に想像しちゃったじゃない!!」
「ふふ、流石に気づくのが早いですね……でも可能性を潰して欲しくなかったんです、もう二度と使いません」
丁寧に頭を下げたジルに、絶対ね、と念を押してそれ以上咎めることはしなかった。
その日以降は特別これといった問題も無くジルとともに日々を過ごした。
しかしどこかジルの態度に違和感を感じて、どうにかその原因を突き止めようと彼を観察し始めて早五日。漸くその原因と思われることが分かった。
「……ジル、何か遠慮してる?」
「……いいえ?」
「じゃあ、諦めてる?」
「……いいえ」
敷地内の庭を散歩している最中、思い切って確認をしてみる。にこやかに否定されたが長年彼を見てきた私は騙されない。
「図星でしょ、爪擦ってるし」
「……なんでそんなこと知ってるんですか」
「いつから一緒にいると思ってるの、それとも私が貴方を見てないとでも思った?」
立ち止まってしまった彼を追い抜かし、振り向いて向かい合う。
その顔が泣きそうになっていることに気づいて驚いた。
「……私はいつも一番になれなかったじゃないですか」
「え……?」
「魔法の扱いだって、学校の成績だって、婚約の打診だって、兄さんの次であり、別の人の次でした」
「……」
「兄さんと一緒に居なければ、私のことを兄さんと見分けられない人もいる、兄さんがダメなら私にと声をかける人も多い、なら、私は……私のことは誰が見ているんですか……?」
「ジル……」
「今回だってそうです、ご主人様は私のことをちゃんと見てくれている、私という個人をちゃんと知ろうとしてくれているのに……兄さんや他の人と比較されるのが怖くて私は一歩が踏み出せない……!」
「……!ジル、落ち着いて!」
彼の周りで光が弾けたのを見て魔力が溢れかけているのが分かった。このままだと暴走し、ジルも周りにも被害が出てしまう。咄嗟にブレスレットから障壁魔法を展開するが私とジルの魔力差を考えると数分も持たないだろう。
「いい子でいないと誰も気にかけてくれないでしょう?ご主人様だって、私が国籍を取ったことに驚いていた……私がそんなことするはずがないと思っているから……三人で過ごしたいというあれが私の本心だとしても!」
「そんなことない!確かに驚いたけど、私はそれを否定しないから!」
「なら私を選んでくれますか?私をご主人様の一番にしてくださいますか?」
「それは……約束はできない」
「……正直ですね、ご主人様は」
諦めたような表情に焦りが募る。今のままだと暴走に拍車がかかってしまう。
一度深呼吸をして彼に近づいた。
「……私が一度でもジルとギルを間違ったことがある?」
「……ないです」
「ジルにギルを重ねたり、二人を比較したことあった?」
「……」
「それにジルのこと大事に思ってなかったら今私は障壁の外にいるはずだよ」
障壁という言葉にジルは自分の状況を理解したらしい。
慌てて私から距離をとろうとして障壁にぶつかった。
「魔力暴走……!なんでご主人様まで障壁の中にいるんですか?!早く出てください!」
「やだよ、それにジルなら自分で抑えられるでしょ?」
正気を取り戻した今の彼なら問題ない、残りの距離を走って縮め彼に抱きついた。
お読みいただきありがとうございました。




