お試し期間【アデルバード】②
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「ん~いい香り!!」
「凄いね、こんなに沢山屋台があるなんて」
アデルとともにやって来たのは食い倒れの町として有名な所だった。父からの許可もギルの時と同様魔道具を持つことで承諾が得られ今に至る。
「興味はあったんだけど私が食べれる量は限られてるし、沢山食べるアデルと一緒ならちょっとずつもらえるかなって」
「なんだかレイラっぽい選択で安心すると言うか、少し残念と言うか……」
「あっ!ほら!あれ美味しそう!食べたい!」
アデルの話もそこそこに吸い寄せられるように屋台に向かう私の腕を彼が引っ張る。しっかりと手を繋がれ彼が隣に並んだ。
「はぐれたら困るでしょ」
「……子どもじゃあるまいし」
「子どもとは思ってないよ」
意味深な笑みを向けられその視線を外すように前を向いた。
時たま見せるあの表情は何故だか胸がざわついて落ち着かなくなる。
宣言通り、端から端まで網羅する勢いで屋台から食べ物を買っていく。
小売りのものも多く、更に予想以上にアデルの胃袋に入っていくため私は一口ずつ美味しいものを沢山食べることが出来た。
しかしその食べ歩きの最中も唐突な彼の行動に翻弄される場面も多く。
「ん、美味しい……もちもちしてる」
「よくもまぁ甘いものばかり食べれるね……」
「あれ、ごめん、苦手だったっけ?」
「いや、苦手ではないけど……そこまで食べれはしないかな」
前世で言うクレープのようなお菓子を食べていると横から顔が近づき、これで十分と言いながら一口齧って離れていく。ジュースを飲めば間接的に口は触れるし、手で摘まめるものは食べさせてほしいとねだる始末。運んだ指をわざと唇に当ててくるものだから恥ずかしさもあっていくつも口の中に詰め込んであげた。
一通り周り終わると両親へのお土産とともに飴細工を手に持ちながら川べりで休憩をとる。
悪いとは思いつつもアデルの上着の上に腰かけさせてもらい器用に作られた飴の花を愛でた。
「お腹一杯だし、お土産も買えたし、満足満足」
「よかった、ずっと楽しそうで何よりだよ」
あれだけ食べたのにもかかわらず見た目の変化どころか余裕がありそうなアデルを不思議そうに見つめる。私のお腹もスカートも今にもはちきれそうだというのに。
「そんなに見つめられると照れるんだけど……」
「……どこに今食べたのが吸収されてんのかと思って……」
「ちなみにもう少しいけるよ」
「……こわぁ……」
いくら性別や体格の違いがあるとはいえこんなにも違うのか。今まで食べた量を頭の中で計算しつつ大人しく飴を舐めていると名前が呼ばれる。見上げた先で先ほど見たような表情を浮かべたアデルと目が合った。
「……レイラは僕のことどう思ってる?」
「……」
「僕はね、君に救われた時から君しか見てなかったんだ……おじ様に君と兄弟になる提案をされた時のこと覚えてる?」
「……貴方に名前を付けた日のことでしょう?」
「覚えててくれて嬉しいなぁ……あの時僕はレイラと結婚したいから兄弟にはしないでほしいっておじ様に言ったんだ」
「……?!あの時から?!貴方まだ七歳だったよね?!」
「年齢なんて関係ないよ、人だって物だって好きなものは好きになるでしょう?」
新たな事実を知り唖然とする私を横目に彼は続ける。
「……君が攫われた時は生きた心地がしなかった……目の前で連れ去られる場面を何度も夢に見て、帰ってきた君の温度に安堵して……あの日からより一層、君を守ることに僕は重きを置いていた」
「……そう、だったの……ごめん、全然気づかなくて」
「僕も隠していたからね、それなのに君ときたらそこでまた拾ってくるし、妙なのに懐かれるし……」
「あ、は、は……」
ギルにも似たようなことを言われたのを思い出し、恐らくジルからも同じようなことを言われるのだろう。付き合いが長い彼らの言葉は重い。
「でも僕を含め全員に君が平等だったことは苦しい反面、救いだった……特別な者がいないという事実は僕にもチャンスがあるということだったから」
こちらに視線を向けたアデルの真剣な表情に心臓が音を立てる。
目線の高さも、身体の大きさも、腕の太さだって違う。分かっていたつもりなのにいつの間に彼はこんなに大人になっていたのだろうか。
「やっと、一人の男として意識してくれた?」
「……改めて、って言う方が正しいかな……」
飴細工を盾に顔を隠すと徐に彼が私が持つ飴細工の花びらを一片齧って割り、その欠片を咥えたまま指で私の唇をなぞった。反射的に開いた口に飴が入り、彼の唇が触れる寸前に齧って飴が割れる。
「……あま……」
「……っ??!!?」
「……もう一回やる?」
「いい!!」
流れるように行われた行為に頭が追い付かないまま私は反対側に顔を向ける。今自分がどんな顔をしているか全く分からない。くすりと笑う声とともに地面においていた手が上から包むように重なった。
「そう言えば最後の日まで休みとれたから一緒に過ごそうね」
「……ん」
あと何日残っているのか頭の中で数えながら身体の火照りを逃がすように目の前の飴細工を思いっきり齧った。
お読みいただきありがとうございました。




