お試し期間【アデルバード】
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「ごめんね、アデルバードのやつ急に上官に捕まちゃって」
「いえ、忙しいのはわかっているので」
アデルは騎士団に所属しているためそうそう抜け出すことが出来ない代わりに、騎士団への訪問は決められた時間の中であれば制限が緩く私のような一般人でも許可証さえ持っていればすんなりと入ることが出来るのだ。戸籍上私とアデルは親戚なので許可証をとるのも比較的簡単だったらしい。
最初こそ私みたいな小娘が行くことに抵抗を覚えていたのだが、アデルが出入り口で待っていてくれるおかげで一人で中をうろつくことが無く、だんだんと顔見知りの騎士の方も増えて今では見学が楽しくなっているほどだ。
今日も顔を出しに来たのだが待っていたのはアデルではなく、彼の友人であるハピルさんだった。
アデルから言付けを預かったらしく待っていてくれたらしい。今は彼に連れられて休憩所で一緒にアデルを待っている。
「お、ハピルが女性連れとは珍しい」
「いいでしょ、でも残念、俺じゃなくてアデルバードだよ」
「あぁ、この子がそうなのか」
あっという間に彼らの友人と思われる騎士の方に囲まれてしまい、程よい筋肉のついた身体に眩しい笑顔が向けられて心の中で暴れまわる。この世界の顔面偏差値は決して低くはないのだ。
私の周りにいる四人とはまたタイプの違ったイケメンを目に焼き付けながらおしゃべりに花を咲かした。騎士という肩書だけでも美味しいというのに騎士道精神なのかレディに対する扱いも心得ているので自分が姫になったかのような気分になってくる。
「久々に女の子と話したかも~ここに入ると中々出会いもないからなぁ」
「ほんとそう、ここに出入りできるのは誰かの婚約者がほとんどだし……スコット嬢もそうなんでしょ?」
「えっと、私の方が保留にしてまして……あの、アデルって私のことなんて言っているんですか……?」
「婚約者」
「天使」
「女神」
「運命の神に選ばれた人」
「嘘ですよね?!」
予想外過ぎる返答に思わず突っ込んでしまう。婚約者は百歩譲って良いとしても残りは何だ。私のようなものに使っていい言葉ではないと思うのだが。しかし周りの反応を見る限り本当らしく私は恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。
「照れてる姿もかわいいねぇ、いつもアイツが隠すように連れていくから気になってたんだよね」
「お前……アデルバードに聞かれたら殺されるぞ?ただでさえこの前までは機嫌が最悪だったのに」
「従兄弟なんだっけ?アイツのこと保留にしてるなら俺とかどう?」
「……全員論外」
「え……?」
聞きなれた声より幾分低い声が聞こえ全員が後ろを振り向く。私も顔を上げるとアデルが見たことのない顔をしてこちらを見ている様子が伺えた。
「だから言ったのに……」
「ハピル、レイラを連れてきてくれてありがとう」
「いーえ、じゃあまたねスコット嬢」
「あ、ありがとうございました……!」
私の周りにいた騎士の人たちには目もくれず一直線に目の前に来ると急に上着がかけられ抱き上げられる。暗くなった視界と突然の浮遊感に慌ててアデルの肩に捕まった。
「ちょ……?!」
「……二度と近づかないように」
「……はい……」
低い声とか細い返事が聞こえるとアデルが歩き出す。上着ごと抱えたせいか顔を出すことが出来ず何を言っても止まらないのでそのまま身を預けていると、扉が開く音とともに視界が開かれる。申し訳程度の花壇がある一角にベンチがありそこにおろされた。
「……アデル?」
「……何を言われた?」
「え?」
「君があんな顔するなんて……」
アデルが膝をついて私の頬に触れる。心なしか怒っているような気配を感じ疑問に思う。先程より赤みは引いたが触れる手を冷たく感じるのでまだ熱は持ったままなのだろう。というか、何を言われたかをアデルが聞くのか。
「ちょっと、貴方私のこと周りになんて言っているのよ!恥ずかしくて死にそうだったんだけど!」
「……婚約者?」
「それはまだいいけどそれ以外の!噂が独り歩きしてるじゃない!」
「……あぁ……ダメだった?僕からはそう見えているんだけど」
「二度と使わないで」
漸く自分の発言のせいだったと理解したのか今度は機嫌がよくなり、頬を一撫でした後離れて隣に座った。流れるように私の手を取りにぎにぎと手を動かす。一度それを許すと毎回するようになってしまい、楽しいのかと聞けば楽しいし感触が気持ちいいと言われ飽きるまでは放っておくことにした。
「あ、そうだ……やっと外泊許可が下りたから最終週の休日どこか出かけよう?」
「やっぱり大変なんだねぇ……アデルは行きたいところある?」
「僕は特に……レイラは?行きたいところがあれば付き合うよ」
「そうだなぁ……」
アデルはすでに成人している上、騎士という最強のボディーガードも兼ね備えているので多少離れた場所でも父は反対しないだろう。隣に居る彼を見つめて思いついた箇所が一つあった。
「……一か所、心当たりがあって」
「じゃあそこでいいよ、場所さえ教えてくれれば後は僕に任せて」
「どこに行くかも分からないのにそんなに簡単に返事していいの?」
「レイラの行きたい場所でしょ?僕はレイラといられれば正直場所なんてどこでもいいし」
握られた手が持ち上げられ手の甲に唇が触れる。
柔らかい感触と流すようにこちらを見る目に言葉が詰まった。
せっかく熱が引いたのにまた熱くなる感覚に視線を逸らす。
「そういう顔、他の人には見せないでね……さっきので分かったと思うけどここには男しか居ないんだから」
「……私みたいなのに本気で口説こうとする人はここにはいないわよ」
「……ここにいるけど」
「……アデルは……別でしょ、それにアデルにならいいんでしょ?」
「っ、どこで覚えてきたのそんな……」
予想と違う反応に彼の方を見れば照れているのか、頬がゆっくりと染まるのを見て新鮮な気持ちになった。アデルが学校を卒業してからは会う回数も激減し、いつの間にか大人になってしまったと思っていたが昔のような表情を見せる彼に懐かしい気持ちも芽生えてきた。
「……絶対不本意なこと思われてる」
「……昔と変わらない所もあるんだなぁって」
「ほら、やっぱり」
苦い顔をしながら溜息を吐いたアデルは顔を隠すように彼が私の方へもたれかかる。重くはないが彼の髪が触れてくすぐったい。
「じゃあお父様に確認したら改めて場所とか伝えるね」
「うん……よろしく」
約束とでも言うように彼が小指同士を絡めるのをみてまた昔のアデルを思い出してしまった。
お読みいただきありがとうございました。




