お試し期間【ダニエル】②
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・地名とは一切関係ありません
「……ここ、本当に植物園なの?公園じゃなくて?」
「?えぇ、これでも一部ですよ」
目の前に広がる人工池の広さに想像していた植物園の大きさが覆される。あまりにも広大な土地に色とりどりの花や樹木が植えられ陽の光を浴び輝いていた。あまりの広さにその場で立ち尽くしているとダニーから声がかかる。
「おすすめの場所があるので案内しますね……手を、取ってもよろしいですか?」
「あ、ごめんね……あまりにも広くて驚いちゃって……案内よろしくね」
差し出された手を重ねると大きな手に包み込まれる。ギルとはまた違う感触だと思い返した直後、その思考を放棄する。今はダニーのことだけを考えなければ。
向かう途中にも飽きることなく様々な植物が植えられており、私が興味を示すとダニーは丁寧に説明してくれた。
「詳しいね……」
「……実は殿下に召し上げられなければ植物に係わる仕事に就きたいと思っていたのです」
「そうなんだ……諦めちゃったの?」
「いえ、今はまだ無関係ですが側近の仕事の中には農産物に係わることもあります……そちらの方で力を発揮できれば、と」
花に触れながら語る彼の姿は同年代とは思えないほど大人びて見えて同時に自分の幼さが浮き彫りになる。将来のことを私はこんなに真剣に考えたことがあっただろうか。
「あ、着きましたよ」
植木のトンネルを抜け目の前が開けると一面に白やピンクの小さな花をたくさんつけた木が並んでいた。前世の記憶が思い起こされ懐かしさが込み上げ胸が締め付けれられる。
「……桜……?」
「……似たような木を見たことがありましたか?こちらはハタンキョウという木です」
「……懐かしいな……ずっと昔に似たような光景を見たことがあって……」
「……それは……いえ、何でもありません」
何かを言いかけたダニーが途中で口を噤む。私たちはその場で暫くその光景を静かに見つめていた。
「ごめん、さっき何か言いかけたよね?」
つい感傷に浸ってしまい、暫く後に現実へと戻った私はダニーとともに木の下で休憩をとる。
ランチセットを持って来ていたのでその場で軽食を取り、ゆったりとした時間の中で思い出したように質問をした。
「……いえ、その……」
「ん?」
「……つまらない、嫉妬です……貴女は誰とともにその光景を見たのかと……」
「……その光景を知ってるのは私一人だよ、もう二度と見れないしね」
「そう、ですか」
私の答えに安堵したような声を滲ませた彼は徐に私の方へ手を伸ばす。
その手の行き先を見守っていると頭の上から耳の方へ手が動かされた。
「花が付いていました……お似合いですよ」
どうやら頭に落ちた花を飾ってくれたらしい。
今ここに鏡がないのが残念だと思っているとふと手元に落ちた花を拾い彼の胸ポケットに差し込んだ。
鏡を見なくても分かる、絶対にダニーの方が似合っている。
「お返し」
「……無防備すぎませんか」
差し込むためにのばした手は彼に捕まり引かれたことでバランスを崩した私が彼の方へ倒れ込む。すっぽりと腕に収まると優しく抱きしめられた。
「……好きです」
絞りだすように掠れた声が耳に響く。私は動くことも返事もすることも出来ずにただその彼の告白を聞いていた。
「……貴女の凛とした姿に、人を知ろうとする姿勢に、そしてその優しさに……ボクは救われた」
「……私そんな大層なことしてないよ?」
「貴女にとっては些細なことで、そして特別なことでもないのでしょう……けれどもそういうところにボクは惹かれました」
抱き締める手に力が入り、辛うじて踏ん張っていた足がずれてダニーに身体を預ける格好になってしまう。隙間が無くなるほど密着すると彼の少し早い心音が聞こえてくる。
「どういう結果になったとしてもボクたちが友人というのは紛れもない事実……けれども、もし、少しでも貴女がボクを望んでくれたのなら……ボクはボクの全てをかけて貴女を守りともに生きていきます」
「……ダニー」
「……すみません、もう少しだけ、こうさせてください」
彼の腕に包まれながら舞い散るハタンキョウを見つめる。
かつての景色を塗りつぶすような光景を目を逸らさずに受け止めた。
「……眼鏡かけ続けてくれたのは私のため?」
「……えぇ、貴女以外の女性など興味はありませんし、それに……似合っていると、レイラが言ってくれたので」
「うん、今の眼鏡も似合ってるよ」
「……嬉しいです」
身体が離れ向かい合う。想いを吐き出したからか幾分すっきりとしたダニーと目が合った。
「……こんなにかっこいいのに、眼鏡一つで敬遠されるなんて馬鹿げた世界だよねぇ」
「……急に褒めないでください……!!」
一拍置いて真っ赤になった彼が顔を隠すように両手で覆った。
彼越しに見たこの景色を私は忘れないだろう。
「今日はありがとう」
「いえ、楽しめたのなら何よりです」
自宅まで送ってもらい玄関先で立ち話をしていると不意に彼が私の頬に触れ顔を近づけた。
近付いた距離に咄嗟に後ずさるがそれを許さないとでも言うように腰に手が回る。
「まっ……!」
「……では、また学校で」
耳元で囁かれたと思えば唇にほど近い箇所にキスを落とされ彼が離れていく。
その箇所に手をやり真っ赤になりながら震える私を横目に満足げな彼は踵を返した。
「あいつわざとやりやがったな!!」
「……見ました?あの顔……腹が立ちますね」
急に聴こえた怒声に思いっきり肩を揺らすとこちらを見て憤っているギルとジルがいた。両親への報告のために来ていたのだろうか、怒りつつも必要以上に私に近づかないのでちゃんと約束を守ってくれているのだろう。
触れられたところが熱を持ったように感じる。
まだまだ日数が残っているというのにこの調子で私の身は持つのか心配になってしまった。
お読みいただきありがとうございました。




