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07話 多勢に無勢

 

 裏門から鍵を開けて入る。

 一本道を歩き、正面玄関から二階の図書室にある準備室へ向かう。


 外の暑さが嘘のように涼しい部屋で、僕の体は熱を帯びた。


「待ってたよ。乃愛から連絡行ったでしょ?」

「あ、うん」


 入口に立ち、一歩も前に進めない。

 口内が渇き、呼吸するたびに喉の奥が痛い。


「なにしてるの、さっさと入れば?」

「……はい」


 ドアを閉め、その場に立つ。

 彼女は、キャンバスの前に座っている。

 姿が見えない。

 眉毛の上で切り揃えた前髪が想像できた。


「これ、あなたのアイデアでしょ?」

「え?」

「あの子が、この構図を描けるわけないわ。違う?」

「……ええ、僕が教えました」


 はっきり聞こえるほどのため息。


「ねえ、私に恨みでもあるの? 私のすることを否定しまくって。楽しい?」

「そ、そんなことは……」

「じゃ、なに? 新手のストーカーとか?」

「全然違う。そんなんじゃない」


 ふーん、言いながら、キャンバスから体をずらした。


 数ヶ月前。

 彼女と手を取り合い、僕は歩いた。

 それが今、嘘のように遠い。


「この構図じゃ、今までの継承が無駄になるのよ。もしかして、知ってて邪魔してない?」

「そんなことない」

「ふーん。とてもそうとは思えない。去年だって、あなた。勝手に描いたわね。あれだけ言ったのに、無視して」


 ゴクリと唾を飲み込む。


「その件は、もう話し合いしましたよね?」

「そうだけど。私は納得してないから。それに、これ。今日は、あなたの真意を聞かせてもらうわよ。でないと、先輩としてこのまま続けさせるわけには、いかないから」


 キャンバスを叩く。

 二重瞼の瞳が、僕を射抜く。

 揺るぎない意思。


 なのに僕は既視感に襲われ、膝から崩れそうになる。


 継承。


 彼女はそう言った。

 この世界で、彼女は守る側の人間だ。

 そして、僕との記憶も消えている。


 だが、僕は全てを覚えている。


 どうしてこうなったのか。

 鍵は、38枚に増えた絵だ。


 それを証明する。

 いいや、彼から与えられた謎を解かない限り、前には進まない。

 その先には、必ず彼女の幸せがあるはずだ。


 願った幸せが。


「ここじゃ、あれだから。ちょっと付き合いなさい。時間はあるでしょ?」


 彼女は、僕の返事も待たずに部屋を出ていく。

 着いて来ているのか、一度も振り向かない。


 僕はまた、彼女の背姿を見て歩いている。

 横に並んだときもあった。


 僕はきつく目を閉じ、振り払う。

 感傷に浸るのは、すべてが終わってからでも遅くない。


 今は、38枚の絵と、彼女の継承を止めなければいけない。

 結果、彼女に嫌われることになろうとも。


 目的のためには、手段を選ばない。

 それが僕の役割。


 朽木琴音。

 あなたは、笠井淳子として生きるべきなんだ。


 彼女が足を止めたのは、一階フロアにあるテラス席。

 全面ガラス張りの窓から、夏の日差しが降り注いでる。

 クーラーがよく効いているのか、暑さは感じない。


 三つある丸テーブルの一つに、彼女は腰掛けた。

 どこに座っても、彼女と対面する。


 一番離れた場所に座り、視線は自然と外へ。

 そこに、生徒たちが歩いてくるのが見えた。


 なるほど、そういうことか。


「あなたには、私に説明する義務がある。あなたがなぜ、こんな愚かなことを繰り返すのか」


 思わず、鼻で笑ってしまった。


「義務。そっか」

「なにがおかしいの?」

「いや別に。文化祭の絵一枚に、大層だなと思って」


 彼女が口を開くその前に、自動ドアから数人の生徒たちが入ってきた。


「朽木先輩、お疲れ様です」


 数人の生徒が朽木先輩に挨拶をし、僕たちが座る丸テーブルを取り囲む。

 文化祭の実行委員。

 彼らは継承を守る気だ。

 圧倒的な数の重圧で。


 多勢に無勢。


「The sheer weight of numbers」


 いいだろう。

 望むところだ。


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