06話 絵の行方
彼はアルバムを閉じて、手元に引き寄せた。
勝ち誇った顔もしなければ、自慢することもない。
沈黙で、自分の正しさを僕に突きつけていた。
客が帰る足音で、我に返った僕は椅子を引き、立ち上がった。
「帰るときくらい、挨拶したら?」
上から睨みつけたが、彼は視線をすっと横にずらした。
「帰るの?」
笠井ばあちゃんが、テーブルを拭いていた。
「あ、うん。ごちそうさまでした。幾ら?」
「五百円でいいよ」
「……いつもすみません」
「気しないで。元気ないようだけど、大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
支払いを済ませて、引き戸を開ける。
横目で、朝霧めぐみを見た。
彼と目が合うと、「また、会おう」といって笑みを浮かべた。
何か言ったようだが、後手で引き戸を締めた。
最後の最後まで、憎まれ口を叩いた。
「好きにしろ」
自転車に跨ると、店を後にした。
蒸し暑い風に当てられ、行く宛もなく彷徨った。
蝉が、狂ったように騒ぎ立てている。
分かっていた。
現実に蓋をして、見ないようにしてきた。
気づけばきっと、前に進めなくなる。
自分の弱さが、残酷な真実へと変えてしまった。
「くそ……」
甘い夢を見ていた。
彼は現実を見ていた。
これが朝霧めぐみと僕の違い。
開き直るわけにもいかず、正すこともできない。
彼の選択は、正しかったのかもしれない。
笠井淳子を永遠の円環から解き放ち、真実を知らせる世界。
僕が狂わせたばかりに、彼女は知らず生きている。
真実。
たったこの二文字の言葉が、僕の足を重くさせる。
ブブー、ブブー。
マナーモードがポケットで振動する。
自転車を止めて、取り出した。
相手は、大須賀乃愛。
外出して、一時間以上は経っていた。
「もしもし……」
「先輩、どこに居るんですか?」
「ごめん」
「もー、構図描けたので、あとでいいので見てくださいね。私、これから用事で帰りますから」
「ああ、わかった」
少し間を取ると、
「そういえば、朽木先輩がさっき来てましたよ。相沢くんは、何処に行ったて」
「……あ、そう」
「それじゃ、また連絡しまーす」
今は、彼女の元気が羨ましい。
純粋にそう思う。
無い物ねだり。
再び重い足を動かし、学校を目指した。




