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04話 忘れていた真実 ①

 

 新校舎から飛び出た僕は、一目散にある場所を目指した。

 リスポーンした時点が、すでにズレていた。

 それを可能にするのは一つしかない。


「まったく、何を考えてるんだ」


 心の内にある言葉が、自然と吐き出される。

 立ち漕ぎで、目的地を目指す。


 ガラガラ。


 引き戸を開け放す。

 ポスターには目を向けない。

 向ける先はそこじゃない。


「おい、朝霧。なにをやった!」


 弾む息をそのままに、僕は口を開いた。

 目の端で、笠井ばあちゃんの驚く顔がちらりと見えた。


「いきなりどうした? まあ、落ち着きなよ」


 来るのが分かっていた、というような口ぶりに、イライラはさらに上昇する。

 テーブルのコップにお茶を注ぎ、僕に寄越した。


「えっ、それは……」


 コップの先。

 彼の目の前には、卒業アルバムが置いてあった。


「座れよ、他のお客さんに迷惑だろ?」


 そう言われ、我に返る。

 数人の客の視線が、僕に集まっていた。


「す、すみません」


 小声で、頭を下げると、椅子を引いて腰掛けた。


「太郎ちゃん、いらっしゃい。びっくりするじゃない、大声だして」

「ごめんなさい」

「元気なことは良いことだけど、怒っても何も解決しないわよ」

「……はい」


 笠井ばあちゃんは、ニコリと笑い、「お昼まだでしょ? いつものでいい?」と言いながら厨房へ入っていった。


 握りこぶしを膝の上に乗せたまま、彼の前にある卒業アルバムを凝視する。

 それを知ってか知らずか、


「久しぶりだね、一年ぶりかな?」

「さあ、覚えてない」


 僕を、わざと試している。


「そう怖い顔するなよ。互いに誤解があったかもしれないけど。ほら、それを証拠に、今まで一度も会わなかっただろう?」

「君と世間話をしに来たわけじゃない」


 彼は肩をすくめて、表情を歪める。


「君はせっかちだね。まあいい、これのことだろう?」


 指先で、表紙をなぞる。


「一足先に、借りたんだ。君が来ることも分かっていたし」

「どういうことだよ」


 声のトーンは抑えたが、たぎる思いは収まりそうにない。


「真実を知ってどうする? 増えた絵の謎、彼女の幸せ、継承の終わり。それから、自分の安心。それを全部解決って。ちょっと欲張りじゃないか? 駄々をこねる子どもじゃないんだから」

「子どもで悪かったな。僕が何を考えようと勝手だろう」


 彼は、呆れたように肩を竦める。


「考えるだけなら良いよ。でもね、君は全部、手に入れようとしている」

「どうして」

「そりゃ、分かるよ。君は僕だし、僕は君だ。ここに来たことがそれを証明している。違うか?」


 どうにもやりにくい。

 全てを見透かされているようで、ウソがつけない。


「絵のことだけど、まあいい。あと、この卒業アルバムなんだけど、どうして君より先に僕が持っていたか?」


 彼は、卒業アルバムに手を置いて、僕を見る。


「見れば、君はきっとこう思う」


 アルバムから手を離し、僕を指さした。


「彼女を元に戻すことは出来ない、って後悔するからさ」


 その指先を僕は睨みつけながら、心の内を当てられたようで、釈然としなかった。

 それでも僕は見たかった。

 彼が言った言葉が、果たしてどうなるのか。


「心配するのは勝手だが、後悔するかどうかは自分で決める」


 手を伸ばせば届くその先に、卒業アルバムは真実を隠すように閉じられていた。


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