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02話 新校舎の絵

 

 翌日。

 蝉の声で目が覚めた。

 ソファから体を起こし、冷蔵庫に向かう。


 牛乳をとり、口をつけて飲んだ。

 台所には、コップが二つ。


 目は行くが、見ないふりをした。


 顔を洗い、着替えて、爪切り暖簾をくぐる。

 偶数で揃った爪切り。


 もう増えることはない。


 それでも付けたままにしているのは、僕への贖罪だ。

 僕は振り切るようにドアを開け、足を踏み出した。



 自転車で行けばすぐの距離。

 裏門に着いた。

 新校舎建設と共に、門も新しくなったが、鍵はそのままだった。


 鍵を取り出し、開ける。

 砂利道も整備され、一本道が続く。


 四階建てだった旧校舎は、新校舎になり六階建てに生まれ変わった。

 近代的な建築様式で、清潔感が漂う。

 外階段も廃止され、全面ガラス張りの一階フロアが外からでも見えた。


 ガラスの向こう側で女子生徒が、手を振るのが見えた。

 声まで聞こえてきそうな元気の良さ。


 正面玄関につくと、向こうからやってきた。


「先輩、おはようございます!」


 自動ドアが開く前に、声が届いた。


「ああ、おはよう」

「ちょっと遅刻ですけど、今日はオーケーです! さあ、行きましょう!」


 勢いそのままに、腕を回してくる大須賀乃愛を躱しつつ、二階へ上がる。


 廊下の突き当り。

 元は図書館もどきだった場所が、今は真っ白なプレートに図書室と書かれている。


 静かな引き戸を開けると、カウンターの奥に書庫が並ぶ。

 窓には黒幕のカーテンが引かれ、紫外線から本を守っている。


「こっちです」


 腕を諦めた乃愛は、僕の手を握り引っ張っていく。

 二クラス分の広さの奥に、準備室と書かれたドアがあった。


 真新しいドアを開けると、油の匂いが鼻を突く。

 大型バスの車内を丸ごと一つ分切り出したような広さ。


「乃愛、遅い!」


 一歩遅れて入った僕の耳に届く。

 そして、一瞬息を飲んだ。

 慣れているはずなのに。

 頭では分かっているはずなのに。

 無意識に体が反応する。


「ごめんなさい、朽木先輩」

「まったく、あなたの絵なのよ。私に描かせないで」


 大須賀乃愛はぺろりと舌を出して、頭を下げる。


 彼女と一瞬目が合うが、すぐに逸らされた。

 嫌われてこそいないと思うが、去年のことでまだ尾を引いている。


 あの時、彼女の意見を無視して、僕は絵を完成させた。

 それが、数ある選択肢の一つだった。


「相沢先輩、こっちです。ここ、わかります?」


 大須賀乃愛に導かれ、キャンバスに近づく。

 その前に座っていた、朽木は席を立ち、「じゃあ、私、帰るから」と言って出ていった。


「はい、お疲れ様でした」


 大須賀乃愛の声に見送られて、彼女は退室した。

 通り過ぎるとき、彼女の視線に気づいたが、僕は振り向かず、少しだけ頭を下げた。

 今はそういう関係なんだと、心の中で何度も呟いた。


「うわ、やっぱり朽木先輩って、絵が上手ですね」


 キャンバスを喰い入るように眺める。


 そして僕は、視線だけを上に向ける。


 天井付近に飾られた絵。

 三十八枚に増えている。


 まずはこの謎を解く必要がある。


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