01話 青春切符
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本編は、『爪切りの継承』と、『爪切りの継承 〜 十一月三十一日 〜』の二篇をお読みいただいた方、前提にストーリーが進んでおります。
未読の方は、是非この機会にお読み下さい。より、本編がお楽しみ頂けます。
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長かった期末テストが終わり、一週間後には夏休みが始まる。
ふと思い出す。
色褪せ古ぼけた水着姿のポスター。
通い慣れた定食屋に入ると、必ず目が合う。
『夏、楽しい旅をしよう! 君の夏はこれから始まる!』
そんな謳い文句が、脳裏に浮かぶ。
まだ、青春切符は売っているだろうか。
僕は即座に頭を振る。
1983年と書かれていたことを思い出した。
まだ引きずっている。
時間は止まってくれない。
「先輩、最近元気ないですよね」
隣を歩く大須賀乃愛は、僕の顔をじっと見てそう言った。
「そうかな」
「そうですよ。私、ちゃんと見てますから」
余計なお世話だ、とは言えなかった。
彼女は偶数の名前を持つ。
この意味を、僕はまだ誰にも話していない。
ポケットの中で、真鍮の爪切りが揺れる。
責任がある。
それだけは忘れないようにしている。
「ちょっと先輩。話聞いてます?」
「あ、うん。聞いているよ」
「じゃあ、今日はどこでお昼たべます?」
「そうだな、どこがいい?」
大須賀乃愛は、ちょっと膨れた顔をしながら、
「お昼の話、してませんけど? でも、いいです。いつもの定食屋にしましょう。マボ―豆腐定食、ピリ辛で美味しいですよね」
彼女の元気の源は、きっとピリ辛なんだろう。
それにしても、マボ―豆腐とは。
あの時は一緒に食べた人は、僕の大切な人だった。
僕は彼女の幸せを望んだ。
彼も同じ。
そう思うと少しだけ胸のつかえが収まった気がした。
「あー、今違う女こと考えてたでしょ?」
眉間を厳しく寄せて、下から覗く。
子犬だな。
僕は何も言わず、前を向いて歩いて行った。
いつもの団地に戻ると、ダイニングのソファに体を押し付けた。
ふっと息を吐く。
モノクロのカーテンが揺れ、日差しを遮ってくれる。
電気をつけなくても、部屋は仄かに明るい。
もうすぐ夏が来る。
5月。
僕はリスポーンした。
ゲームで言う、復活地点。
四つ目の金属の爪切りを使ったからだ。
笠井淳子が繰り返した世界。
この爪切りを使って、彼女は永遠とも思える1年B組の中で生き続けていた。
だから、僕は元に戻した。
彼女と出会う前の世界に。
朝霧めぐみが作った世界を巻き戻した。
笠井淳子は、今、朽木琴音として生きている。
本来なら、僕が彼女と出会い、爪を切り、絵を完成させ、一緒に生きるはずだった。
僕はその世界を無かったことした。
後は、ゲームと同じだった。
一度見て、体験したシーンは忘れない。
どう動き、どう選択をすれば、間違えないのか。
正しい選択で進めるのか。
分岐点の全てで、僕は彼女——朽木琴音と会わない選択をした。
それが正解だと思ったからだ。
継承は僕の手で終わらせる。
ポケットに手を伸ばし、真鍮の爪切りを取り出す。
これは、世界を改変する爪切りだ。
朝霧めぐみが使い、僕がイレギュラーを起こし、歪に曲がった世界が生まれた。
その世界で、彼女の幸せはない。
だから僕は、リスポーンした。
これが僕が出した答えだった。
それなのに、自然と視線の先はリビングの奥へと向かう。
彼女が居た部屋。
扉が開き、彼女が残した服が見える。
モノクロのフリルが少し動いた気がした。
捨ててしまえば、と思うたび、胸の奥が騒ぐ。




