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18話 すべての根源は収束する

 

 まず一つ。立場から説明しようか、と言って始めた。


「俺は、笠井淳子の先輩なんだ。うん? ちょっと違うな。元の世界。本来の世界のことだね。君がこの世界に足を踏み入れる前のね」


 僕は体が動いた。

 そんなはずはない。

 彼女がくれたメモには、2022年の継承者の欄に、朝霧めぐみと書かれていた。

 それが1989年、笠井淳子の先輩だっていうのか。


「いい加減なことを言うな。ちゃんと説明しろよ」

「はいはい。じゃ、順を追って説明しよう」


 彼はそう言うと、窓を見た。


「君がこの部屋に最初に来たとき、朽木琴音の中身は五十嵐淳子だった。それは合ってるよね? 君が謎を解いたんだ。いじめられて、絵を燃やされて、五十嵐淳子は自殺した。でも、君は事情を知ってしまって、五十嵐淳子から笠井淳子に変えた。ある意味、彼女の呪いを解いたわけだ。奇数の名前を偶数に変えたのって、君の計算だろう」


 そうだ。

 僕は彼女の生い立ちを悲しんで、両親からも見放され、唯一の理解者だった笠井ばあちゃんの名前で呼ぶことにしたんだ。

 五十嵐ではなく、笠井と。


「うん。理解しているようだね。名前が変わりすぎて、ややこしいよね。でもさ、よく聞いて。それが原因で、過去が変わってしまったんだ。君が、大晦日。五十嵐淳子が言った約束を反故にして、爪を切った。それが決定的だったよ」

「……ああ、分かっている」

「本当かな? 自信がなかったんじゃない?」

「うるさい。分かってるって言っているだろう」


 僕は、ついむきになって言い返した。


「ならさ、どうして卒業アルバムを探したの? これってそういう意味だと思ったけど?」

「それは……」

「うん、いいよ。俺が代わりに言ってあげる。それは……卒業アルバムの名前を見たかった。笠井なのか、それとも五十嵐なのか。で、見ての通り、笠井だった。どう、正解じゃない?」


 僕は目をつぶる。

 分かっていた。

 彼には嘘をつけない。

 そうだ、僕は彼女の名前を知りたかった。

 世界が歪んだ原因は自分にある。


 僕は何をしたんだ。

 これじゃまるで、僕が彼女を苦しめているみたいじゃないか。


「過去が改変されれば、未来も変わる。当然の流れだ。上流を堰き止めれば下流には住めない。どう、言いえて妙な例えだと思わない?」


 悔しいが間違えていない。

 僕は彼女の世界を根底から変えてしまった。

 後悔が大波になって押し寄せ、胸を押しつぶす。

 両足を踏ん張っていないと、膝から落ちそうだった。


「辛そうだね。一つ良い話もしよう。君が言った、シュレディンガーの猫。着眼点はよかった。実際、君と俺は観察者だ。認識してはじめて確定させることができる、箱の外側の人間なんだよ」

「なにが言いたい」

「そう慌てるな。良い話はオチが大切なんだから」


 彼は、指を立てて僕を牽制する。


「それは、俺一人では出来なかったことだ。これで分かるだろ?」

「知らないよ、そんなこと」

「君は今日、笠井淳子の運命を確定させたんだ。彼女は爪を使わない。そして、油絵を完成させる。大須賀乃愛にアドバイスしたように、彼女にもアドバイスを与えた。それで彼女はヒントを得たんだ」


 心臓が激しく動き出す。


「ちょっと待て! どうしてそれを知っているんだ!」


 彼は肩をすくめて、「簡単なことだよ。今日、準備室のはじまりの絵が変わったからさ。地図がモノクロで描かれていて、明らかに別物になっていた。まあ、それでも過去の世界じゃ、評価されないだろうけど」

「つまり、観察者が二人……」

「まあ、そういうことだ。時代が違う二人が同じ絵を見れば、過去も未来も確定する。ちなみにだけど、一度俺は過去に戻って笠井淳子にアドバイスをした。けど、未来は変わらなかった。やっぱりシュレディンガーの猫とは、当たらずといえども遠からずだな」

「そんな大切なこと……過去に行く前に、なぜ言わなかったんだ」

「あれれ、言ったよ。軽率な行動はしないで、ってね」


 僕が馬鹿だった。

 もう無理だ、踏ん張りきれない。

 膝の力が抜けて、座り込んだ。


 これじゃ朝霧めぐみの傀儡じゃないか。

 好き勝手に動かされ、言われた通りに動く。


「そう落ち込むなよ。どうせ、世界は未完成なんだ。なるようにしかならない」

「今、君がそれをいうのか……」

「あはは。でもさ、俺も悪いと思って、最後に選択肢を用意したんだ。これが、本当の最後だ。選択肢は二つ。どっちを選んでも、彼女は生きている。どう、聞きたくない?」


 彼はそう言って、一本ずつ、指を立てた。


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