14話 目的が手段に変わる
ひたすら謝った。
他にない。
事情は説明できない。
したところで、テレビの見すぎだと言われて、笑われるだけ。
謝った。
「ごめんなさい」
「もういいわよ、太郎ちゃん。私も怒ってないし、あの子も驚いただけで怒ってないから」
「……はい」
「で、どうしたの?」
テーブルにはお茶の入ったコップがひとつ。
両手を膝にのせて、頭を下げる。
言葉に詰まる。
来たあとのことは、考えてなかった。
いや、考えてはいた。
ただ、中学生というポジションが全てを白紙にした。
残ったのは、彼女に会える。
それだけだった。
「まあ、いいわ。お茶飲んだら、帰りなさい。夕ご飯は、うちで食べるの?」
「……はい」
「わかったわ。用意しておくね」
「……うん」
業務用クーラーの音。
視線を少し上げると、ポスターと目が合った。
真新しい水着姿の女性が微笑んでいる。
その奥で、制服姿にエプロンをつけた笠井淳子が忙しそうにしていた。
折角会えたのに、なんて声をかければいいのか分からない。
「おばさん。私いくね」
「夏休みに手伝って貰って悪いわね。いってらっしゃい」
「はーい」
そんなやり取りが耳に入る。
どうする。
どうすればいい。
考えろ、考えろ。
高校一年生の彼女。
僕との接点はなんだ。
考えろ、考えるんだ。
諦めるな、接点は必ずあるはずだ。
奥から、彼女が出てきた。
上目遣いでそっと覗くと、脇目も振らず通り過ぎた。
引き戸が開く。
その瞬間、僕は口を開いた。
「爪切り」
囁くように言った。
「え?」
効果はあった。
彼女の手が止まり、僕に振り向く気配が伝わった。
「なに? 爪切りがどうしたの?」
「……うん。いいアイデアだと思って」
「ちょっと、あなた。来なさい!」
彼女に有無を言わせず僕を連れて、店を出た。
暑い日差しが全身を包む。
「ねえ、どういうこと?」
「……うん」
次はどうすればいい。
考えがまとまらない。
焦る気持ちが込み上げてきて、全てをぶちまけたい誘惑に駆られる。
喉にぐっと力を入れる。
「もういい」
彼女は回れ右をして、歩き出した。
その背姿に、既視感を覚え、つい口に出してしまった。
「文化祭、見に行くから」
ピタリと止まる。
振り向き、僕を見た。
「あなた、一体なに者なの?」
その後、僕は自転車を押して彼女と並んで歩いた。
出し惜しみはなしだ。
僕が言った答えは、
「ふーん。近所のお兄ちゃんから聞いたんだ」
「そ、そうだよ」
あながち嘘ではない。
それでも、ぎりぎりセーフだろう。
「で、私を訪ねてきた、と」
「うん」
前を向いたままだったが、彼女の表情は想像が出来る。
僕だって、突然そんなことを言われても、信用するはずがない。
しかも、見ず知らずの年下なら余計に警戒する。
だが、他に方法はない。
なかったことにする。
彼女の幸せを願う僕には、もう手段を選んでいる場合ではない。
「それで、どこまでついて来るつもり」
立ち止まり、見下ろしてくる。
その前髪は、眉の上で切り揃えられていた。
赤縁のメガネが、夏の日差しにキラリと光った。




