第30話 反撃③
対戦車ヘリの砲口から射出された弾丸は、オーク騎士団を覆う多重バリアーをどんどん侵食していくと、最前面にいたオークの肉体を瞬く間にミンチに変えてしまった。
その第一斉射が終わり、第二陣のヘリとポジションを入れ替わる間に、破壊されたバリアーを慌てて再展開しようとするオーク騎士団。
そこにはさっきまでの余裕が一切失われ、突然自分達を襲った空からの圧倒的な暴力に、恐怖の色がありありと浮かんでいた。
「たった一撃で10体以上のオークを蜂の巣に・・・でも奴らには思念波補助デバイスの攻撃しか通用しないんじゃなかったのか」
可動式バリケードの撤収作業を急いでいた葵さんに話しかけた俺に、藤間主任が代わりに答える。
「リッターのバリアーには強度限界があり、それを超える攻撃なら思念波で中和しなくても破壊が可能だ。リッターとのこれまでの戦闘データを解析して、その強度が装甲車レベルであることは突き止めていた」
「装甲車レベル、つまり警察の武器では太刀打ちできなかったが、自衛隊の武器ならオークを倒せると。だったら最初から自衛隊が戦えばこんなことにはならなかったのでは」
「日本以外の国ならそうしていただろうが、自衛隊には法律の縛りが多く、我々警察のように国民を守るために即応できる組織ではないんだよ」
「いわゆる専守防衛ってやつか?」
「それもあるが、普通の軍隊がネガティブリスト方式で行動できるのに対して、自衛隊はポジティブリスト方式で・・・いやそんな話は後だ。撤収を急ぐから君も彼女のバリケードの収容を手伝ってやれ」
「り、了解・・・」
葵さんのバリケードをヘリに積み込むと、そのまま俺たちも同じヘリに乗り込んだ。母さんと神宮路さんも回収するよう頼むと、どうやら重傷を負った乗客を治療するために既にここを離れたらしい。
そして俺たちを乗せたヘリがすぐに離陸を開始すると、一度上空で待機して後続機を待つとのことで、ここから離れるまでの僅かな時間だが、俺はオーク騎士団と自衛隊の戦いを確認するため窓の下を覗いた。
眼下では、俺たちが戦っていた時には最終的に100体を軽く超える規模まで膨らんでいたオーク騎士団だったが、既にその数を大きく減らしている。
もはやオーク騎士団に反撃する力はないようで、いつ止むとも知れない銃弾の雨にさらされて、さっきまで仲間だった者たちの成れの果ての血と肉片の海に、自らが仲間入りするのをただ待つばかりであった。
だがオーク騎士団の中心にあって彼らを率いていた召喚士の姿は既になく、敗戦を悟って自分のもといた世界に帰ってしまったのかも知れない。
だとすれは、召喚士にとってオーク騎士団はただの使い捨てのコマ。
オークたちはこの日本に転移させられた途端、自分の世界に帰ることすら許されず、ここで蜂の巣になって無惨に死ななければならないのだ。
なんともやるせない気持ちで彼らを見ていると、隣に座るアリスレーゼも複雑な表情で話しかけてきた。
「あのオークたちも、こうして見ると本当に憐れな存在よね・・・」
「だな。でもこれが敵を殲滅するということで、自分達の生命を守るために必要なことなんだと思う」
「そうね・・・。それにしてもオーク騎士団の強さはわたくし自身が身をもって理解したつもりですが、それをあんな一方的に虐殺できるなんて、この国の軍隊は恐ろしく強いのですね」
「俺も今日初めて実感したよ。さっき大坂城で話していた火縄銃が400年以上かけて進化した姿を、その日のうちに目の当たりにするとは思わなかったがな」
「あれがそうなのね・・・」
アリスレーゼがそう呟いて、再び窓の外を眺めていると、俺たちの隣に藤間主任が腰を下ろした。
「高校生の君たちには少し刺激が強すぎたかもしれないが、今回の作戦は政府が事前に検討していた対応オプションの一つなんだよ」
「つまり、こうなることが始めからわかっていたと」
「結果まではやってみなければ分からなかったが、なるべく被害を抑えつつ敵を殲滅するにはこうするしかなかった。もちろん対戦車ミサイルなんて武器もあるけれど、市街地でそれを撃たなければならない状況を避けられたのは、我々戦闘員がオークを抑え込んだ成果だと言える」
「対戦車ミサイル! まさか他にも強力な武器を使用する可能性が」
「今回の襲撃では関係ないが、海から攻めて来た場合には海上保安庁と海上自衛隊がその任にあたるし、空から攻めてくる場合は航空自衛隊が対応する。その辺りはリッターに限らず日本の敵対国家に対するのと大きな違いはない」
「するとイージス艦やら戦闘機も・・・」
キョトンとした表情のアリスレーゼは藤間主任の話を全く理解していないようだが、オークのようなファンタジー世界の怪物と現代兵器のミスマッチには最早違和感しか感じない。
だが藤間主任は少しため息をついて呟いた。
「計画通りとは言っても、今回の戦いでは乗客はもとより警察関係者にも多くの殉職者が出てしまった。それに辺り一帯もかなり破壊され、復旧には時間と費用が必要になるだろうな」
窓から見える惨状を見て俺とアリスレーゼもため息をつくと、俺たちのヘリが動き出して現場から急速に離れていった。
激しいプロペラ音の中、藤間主任が全員に聞こえるように大声で話す。
「葵くん以外のみんなは、いきなりの実戦にも関わらず期待以上の働きをしてくれて感謝する。だが我々の任務はまだ終わった訳ではない。京都市街地では今もオーク騎士団と機動隊の戦闘が行われている」
そして足下のクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出すと、俺たち全員にそれを配った。
「大した物ではないが、これでも飲んで体力を回復してくれ」
すると、俺たちの中でも特にぐったりした様子の敦史がスポドリを一気に飲み干すと不服そうに言った。
「もう疲れたし、オークなんか見るのも嫌だよ。スポドリなんかいらないから、ホテルに帰らせてくれ」
「君たちにはすまないと思っているが、もう少しだけ頑張ってくれないか。さすがに市街地で対戦車ヘリを投入するわけにもいかないし、むしろこちらが警察の本来業務なんだよ」
「俺は警察じゃねえ!」
「・・・一応給料は出るし、バイトだと思ってもう少し頑張ってくれないか」
「え? これ給料がでるのか・・・」
「まあな。公務員の俸給とはいえ危険手当もつくし、一般的な高校生バイトよりはかなり出せるはずだ」
「かなり出せる! し、仕方がないからもう少し頑張ってみるか。・・・もちろん金のためじゃなく、日本の平和を守るためだ」
「いや敦史・・・それどうみても金のためだろ」
俺は敦史の態度にため息が出てしまった。
指令室の椅子に疲れ切ったように腰掛けた小野島室長は、閣議決定がギリギリでまとまったことに安堵しつつ、次なる戦いの舞台となる京都市街戦に向けて現場指揮官に指示を送り終えたところだった。
オペレーターから各地の被害状況が報告される中、隣に座る雨宮研究主幹がリアルタイムで分析していた戦闘データを改めて確認する。
雨宮主幹はそれを待っていたかのように、大型スクリーンの一面に彼我の戦力パラメーターを表示させ、今回の戦闘結果について話し始めた。
「今回の戦闘で得た成果は二つ。一つは理論値通りに対戦車ヘリの機銃が敵のバリアーを破壊できることが実戦で確認できたこと。これで仮にリッターの大規模侵攻が起こった場合でも、我が国の防衛戦力で対処可能なことが実証されたわ」
「彼らの思念波バリアーに通常兵器でも対処が可能ということが分かっただけで、人が密集する大都市に彼らが出現したらどんな結果になるかわからないぞ」
「きっと市街戦が始まって大惨事になるでしょうね。でもそこは偉い人が判断すればいい話で、私たちは敵を物理的に排除可能かどうかだけを考えればいいの」
「研究者であるキミはそうかもしれんが、現場を預かる私はそう言う訳にはいかん」
「・・・それもそうね。では話を私たちUMA室戦闘員に絞ると、今回の得た二つ目の成果は、前園瑞貴とそのクラスメイトたちの戦力が想定以上だったこと」
「・・・まあそうだな」
「あら? 随分と浮かない顔ね。まだ高校生とは言え6人もの即戦力を得たんだから、もっと喜びなさい」
「私の立場だと、そう能天気には喜んではいられないのだよ。まあいい、説明を続けてくれ」
「ええ。そして、藤間くんから送られてきた戦闘データから分析した6人の能力がこれよ」
そう言って雨宮主幹は、画面に6人のパラメータを表示させた。
適性値 特異能力
・前園アリスレーゼ 300 不明
・前園瑞貴 250 念動力
・前園愛梨 200 未来予知
・神宮路さやか 200 治癒
・水島かなで 150 治癒
・伊藤敦史 150 不明
・神無月弥生 200 時空超越
「この適性値は、エリート集団であるUMA室戦闘員を母集団としてその平均値を100、標準偏差を15になるよう規格化した指数。つまりIQと同じと考えれば、彼らの能力がいかにあり得ない数字かが容易に想像できると思う」
「ふむ、IQ200の天才なんて滅多にお目にかかれるものではないし、それがこれだけ集まってると考えれば、確かにあり得ないな」
「しかも興味深いのが、全員が明稜学園高等部の生徒ということよ。まさかあの学校、密かに能力者を集めて訓練でもしていたのかしら」
「さすがにそれはないと思うが・・・」
「でも偶然では絶対に片付けられない話だし、私はあの学校の実態をちゃんと洗い直した方がいいと思う。いずれにせよ、弥生ちゃんと同じレベルの天才が6人も加わったし、すごい成果だと思わない?」
「まあな・・・しかし彼らがここまでとは」
「特に注目すべきは前園アリスレーゼと瑞貴の二人。あの二人は適性値もあり得ないけど、マナキャノンと呼んでいる思念波攻撃がリッターと同じものなのよ。そしてこちらの方がエネルギー効率が高く、研究素材としても申し分ないのよね」
「研究素材って・・・キミの気持ちも分からなくはないが、彼らはまだ高校生で本当は実戦にだって使いたくないんだぞ」
「・・・さっきから随分と否定的な態度をとるのね」
「そりゃそうだろ。神無月くんのことも含めて、我々がやってることは法令違反であり、本当は彼らが高校を卒業するまで表に出したくなかったんだから」
「そうは言っても、リッターがいつ襲撃してくるか分からない以上、彼らはとても貴重な戦力よ。国民の生命を守るためなら、変な法律は全部変えちゃえばいいだけだし、修学旅行から戻ってきたらすぐ研究所に呼ぼうと思うけど構わないわよね」
「ダメだと言っても勝手に呼ぶんだろ。だが神宮路会長にはちゃんと根回ししておけよ。会長が溺愛している孫娘がいることを忘れるな」
「それぐらい分かってるわよ。一応私も神宮路電子工業からの出向者だし、自分の会社の社長令嬢を雑に扱ったりしないから」
「ならいいが、くれぐれも気を付けてくれ」
次回、本章エピローグ。
お楽しみに。
できれば次の土曜に更新できるようにがんばります。




