第30話 反撃②
更新が遅くなってすみません。
連載を再開します。
あと本エピソードには現実に存在する組織名が出てきますが、本作はあくまで「剣と魔法のファンタジー」ですので、そちら方面での正確さはご容赦下さい・・・。
自衛隊が攻撃を開始するまでの短期決戦ということもあり、敦史と愛梨を含めた15名の戦闘員による攻撃は苛烈を極めた。
全員が思念波補助デバイスを使った「思念波弾」を全力斉射し、俺とアリスレーゼもそれに合わせて「マナキャノン」を撃ちまくる。
俺たち二人も思念波弾を試してはみたが、どうやらマナキャノンの方がより強力な攻撃が繰り出せるらしく、そんな俺たちの隣に陣取って興味深そうに観察を始める藤間主任。
一応俺たちの上官にあたるらしいが、そんな暇があったらお前も攻撃しろよ。
一方、敵の攻撃から俺たちを守るのが葵さんを含めた5名の近接戦闘員の役目だ。
可動式バリケード自体が思念波補助デバイスになっていて、戦闘員たちが「気」を送り込むことで強力なバリアーが展開し、全員を繭のように取り囲む。
そしてバリケードをゆっくり前進させながら、魔力で附魔された敵の大型ボーガンを片っ端からはじき返していく。水島さんがここにいたら、絶対これをやらされていたんだろうな。
オーク騎士団を挟んで京都市街方面にもほぼ同数のUMA室戦闘員が陣形を整えており、総勢約40名でオーク騎士団を抑え込んでいるが、敵の数に比例してそのバリアーも強固になり、オーク騎士団とその中心にいる召喚士に致命傷を与えられないまま、時間と共にオークの個体数だけが徐々に増えていく。
その結果、敵の攻撃力が増して俺たちの劣勢が否めなくなると、敵の軍勢は京都方面の戦闘員たちにその圧力を強めていった。
敵の攻勢を受けてじりじりと後退する友軍のピンチに、指揮官を含め周りの戦闘員たちの表情にも焦りの色が見え始める。
だが誰一人として彼らを助けに行こうとはせず、命令に従って敵への攻撃を続けている。
ただ一人、葵さんを除いて。
「指揮官! すぐに彼らを助けに行きましょう。我々近接戦闘員が敵のバリアーを破壊しますので、突撃の指示を!」
「ダメだ。我々に与えられた任務は、自衛隊が攻撃を開始するまでここを防衛することだけだ」
「自衛隊ならそこにいるじゃないですか! どうして彼らは攻撃を始めないのですか」
「・・・いいからキミは黙ってバリアーを展開しろ」
「くっ・・・了解」
一応命令には従うものの明らかに不服そうな表情の葵さんに、俺は声をかける。
「俺には葵さんの気持ちがよくわかるよ。本気でオークを封じ込めたいなら、向こうの部隊が突破されないように戦力を補充しないといけないのにな」
「そうよね。敵への突撃はともかく私たち5人が向こうに回るだけでも少しはマシになるはずなのに、ひょっとしたら現場の状況が上層部に正しく伝わってないのかしら」
「あるいは上層部が間違った判断を下しているかだ。俺たちに指示を出しているのは誰だ?」
「誰って、それはあ・・・東京にいる公安UMA室長の小田島さんが指揮を執っているはずよ。でも自衛隊の指揮は別で、そちらはわからない」
「ひょっとして警察と自衛隊の連携がうまく取れてないのかな」
「そんなことはないと思うけど、実際の所は私にもわからないの」
「ふーん・・・」
だが俺たちの必死の防衛にも関わらず、オーク騎士団の攻勢はさらに激しさを増していった。
葵さんの意見を一度は却下した指揮官も、さすがに業を煮やして本部に上申したようで、ヘリ部隊や機動隊が京都方面の支援に回ってオーク騎士団に対し援護射撃を始めた。
だがさっき藤間主任が言っていたようにオーク騎士団には警察の武器が全く通用せず、弾幕が全てバリアーで弾かれ、戦況はほとんど好転しなかった。
「やはりヤツらのバリアーを無効化しないと、オーク騎士団は倒せないようだ。なぜ他のみんなは思念波補助デバイスを持たずに拳銃で攻撃してるんだ」
「それを使えるのは警察官でも1割に満たないのよ。さらに実戦レベルで使いこなせるようになるのはそのごく一部で、全国から集められて訓練を受けた精鋭が私たち戦闘員なのよ」
「敦史や愛梨でも使えるのに、まさか・・・」
「そんな私たちでも、遠隔攻撃だけではオーク一匹倒すことができない。つまりさっき私たちがやったように、近接攻撃でバリアーを破壊した上で思念波弾でトドメをさす。現時点ではそれしか勝つ方法がない」
「でも今それをすると、増えすぎたオークに対処しきれず、近接戦闘部隊が返り討ちにあってしまう」
「だから私の意見に、指揮官が首を縦にふらなかったんだと思う」
「つまり万事休すか・・・」
ほぼ同時刻の東京都千代田区永田町。
首相官邸では緊急の閣議が開かれ、京都市の南部に突如出現したオーク騎士団への対処、具体的には自衛隊の治安出動命令について議論が交わされていた。
閣議では国家公安委員長の魚住から状況の報告がなされると、戦後初となる自衛隊の治安出動命令の発動を内閣総理大臣の黒川に求めた。
だが閣議メンバーの中には慎重論を唱える閣僚も少なくなかった。
「そのリッターとかいう暴徒に対しては、これまで警察が対処していたんだろ。わざわざ自衛隊を出動させなくてもいいのではないのか」
「治安出動と言っても、やることは武力の行使。災害救助と違って本当に国民の理解が得られるのか。内閣支持率も下がってるし、下手をしたら内閣総辞職だ」
「それに隣国との関係も冷え切っている中で自衛隊を出動させれば、国際世論も敵に回しかねない」
「秋の臨時国会のネタを、わざわざ野党にくれてやる必要もないからな」
治安出動のハードルの高さはある程度予想していたものの、ここにきて世論や支持率を気にする閣僚たちの態度に魚住は苛立ちを隠せなかった。
「今は支持率など気にしている場合ではない! 現場では既に多くの犠牲者が出ており、手をこまねいていてはそれこそ内閣総辞職どころでは済まされないぞ」
「だが自衛隊の武力行使となるとさすがに・・・君のところの特殊部隊や機動隊を全てつぎ込んで、何とか制圧できないのか」
「京都に駆けつけられる部隊は全て投入済みだ。早く手を打たなければ、それこそ取り返しのつかないことになる」
「だがしかし」
閣議は全会一致が原則であり、防衛大臣の田ノ内も魚住ともに閣僚一人一人に反論していくが、肝心の内閣総理大臣の黒川は、どちらに味方をすることなく、ただ黙って議論を聞いているだけだった。
「総理、事態は一刻の猶予もありません。ご決断を」
額に脂汗をにじませた魚住が黒川総理に決断を迫り、田ノ内からも陸上自衛隊が既に現場に到着して攻撃態勢も整っていることを付け加えた。
そして全閣僚が口を閉じて黒川総理の決断を促すに至って、ようやく彼はその重い口を開いた。
「アメリカはどういう反応を示しているのかね」
総理がそう質問すると外務大臣が、
「リッターは東アジア情勢とは直接関係がなく、現時点では日本の国内問題であるとの認識です。具体的にはテロリストへの対応に準ずる扱いですが、彼らに関する詳細なデータ提供は求められております」
「だろうな。では近隣諸国の反応は」
「本日の件については何も言及してきませんが、従前から我が国に送り込んでいる工作員を使って、リッターの正体や思念波デバイスの技術情報を盗み出そうと躍起になっています」
「そうか・・・。ちなみに京都府知事からの治安出動要請は」
今度は防衛大臣がうんざりした表情で、
「左派の知事が、そんなものを出すわけないじゃないですか」
「念のために確認しただけだ。だが、あの太平洋戦争でも空襲の被害のなかった京都が攻められるとはな」
そう呟くと、黒川総理は黙って天井を見上げた。
俺たちはその後も懸命に戦ったが、自衛隊が攻撃に参加することもなく、ただ時間だけが過ぎて行った。
俺たちは少しでも援護ができるようにと前線を押し上げ、騎士団との距離もあと30メートルまで迫り、思念波弾の威力も距離に反比例して威力を増した。
当然彼らからの攻撃もし烈さを増し、葵さんたちのバリアーも既に限界を超えていたが、そこまでしても戦況が好転することはなく、東京からの指示により、とうとう俺たち戦闘員に撤退命令が出た。
「我々にできることはどうやらここまでだ。君達を無駄死にさせるわけにはいかんので、ここで撤退する」
ただ撤退するのもそう簡単ではなく、まず最初に京都方面に展開した機動隊が撤退を開始し、十分に距離が離れたことを確認すると次に遠隔攻撃部隊がヘリに乗り込んで順次上空へと飛び立って行く。
その間、俺たち大阪方面の部隊は全力で思念波弾を撃ちまくり、バリアーを全力展開してしんがりを務める京都方面の近接戦闘部隊の援護射撃をする。
「彼らが一人でも多く脱出できるように最後の力を振り絞れ! その後我々は後ろの電車を盾にしつつ後退して、遠距離攻撃部隊から順次ここから退避する」
「了解!」
京都方面の友軍のために、この後市街地に侵入したオーク掃討戦があるのも忘れて、この場にいる全員が全力で攻撃を加えた。
その結果オーク騎士団にも無視できないダメージが加わり、こちら側への対処を余儀なくされる。
「よし、敵の戦力がこちらに向いたぞ!」
そして敵からの怒涛の攻撃が押し寄せ、数で劣る俺たちはその圧力に押されてジリジリと後退する。
「自衛隊はまだ攻撃を開始しないのか!」
「自国民の命が奪われているのに、なぜ彼らは攻撃をしないんだ!」
黙々と任務を続けていた戦闘員たちも、この危機的状況でも上空で微動だにしない自衛隊に不満の声が上がる。
やがて奮闘むなしく京都方面部隊の守備が崩壊し、近接戦闘員たちがオークの軍勢に飲み込まれる。
「畜生っ!」
そして部隊が総崩れになり、近接戦闘員を置き去りにしてヘリ部隊が上空に飛び立っていく様子を愕然と見送る俺たち大阪方面部隊。
「・・・オーク騎士団に、俺たちは負けたのか」
「いくら文民統制と言っても、自国民を守れないなら自衛隊なんて意味がないんだよ・・・」
事ここに至って公然と批判を口にする戦闘員たち。葵さんと俺も上官である藤間主任に怒りをぶつける。
「一体どうなってるんですか! なぜ自衛隊は私たちを見殺しにするんですか!」
「その小田島室長という奴は何を考えているんだ! 勝手に俺たちを戦闘員に任命して、こんなおかしな作戦に巻き込みやがって。もう我慢の限界だ。俺たちは彼らを助けに行かせてもらう!」
藤間主任もこの状況ではさすがに黙り込んで何も言わなくなり、葵さんも俺に賛同して自分のバリケードを放棄した。
だがインカムで誰かと話をしていた指揮官が、
「ようやく自衛隊に治安出動命令が出たようだ。総員退避っ!」
指揮官のその言葉通り、上空の自衛隊機が突然動き出すと、オーク騎士団に接近して包囲を完成し、その機関砲が一斉に火を吹いた。
なるべく早くアップするつもりですが、気長に待ってもらえると嬉しいです。
では、次回もお楽しみに。




