第31話 エピローグ①
エピローグをいくつかの視点から書きました。
まずは、敦史とかなでの視点から。
その後、市街地に潜入したオークを全て掃討するのに深夜までかかり、俺たちがホテルに戻れたのは翌朝だった。
京都市内には外出自粛要請(藤間主任によると日本には外出禁止令を出す法律がないらしい)が出され、朝の京都はまるでゴーストタウンのように静まり返る中、俺たちはパトカーでホテルまで送り届けられた。
疲れ果てた俺たちはホテルの部屋に着いた途端そのまま爆睡し、次に目が覚めた時は既に夕食時で、部屋に食事を運んでもらって食べると再び爆睡して完全に目が覚めたのは最終日である4日目の朝だった。
「あ~あ、この修学旅行中は結局何もなかったな」
敦史がベッドに転がりながらブツブツと文句を言っているが、
「何もなかったってお前、メチャクチャ色んなことがあったじゃないか」
俺は敦史に呆れながらこの修学旅行を思い返した。
今回巻き込まれた「オーク騎士団襲撃事件」は、電車の乗客や京都を訪れた観光客、それにUMA室戦闘員などの警察関係者を含めると142人の死者と300名を超える負傷者を出した大惨事となった。
客室のテレビをつけると、朝の報道番組でも桂川周辺の映像が映し出されていて、生々しい戦闘の傷跡に軍事評論家が専門的な観点から解説をしていた。
平和な日本の、しかも京都で発生した大規模戦闘に海外メディアの関心も極めて高く、被害状況もさることながらオークという人間以外の知的生命体の襲撃と、彼らと武力衝突を起こした日本政府の対応に注目が集まっていた。
内外メディアの共通点として、警察の対応についてはとても高く評価し、市民を守るために命を落とした警察官の職業意識の高さに敬意を払うと同時に、思念波弾という特殊な武器を駆使した戦い方に、日本のアニメの影響を重ねてみる向きもあった。
その一方自衛隊の対応については賛否が分かれた。肯定的な意見としては、被害を最小限に抑えつつ脅威を完全に排除できた陸上自衛隊の練度の高さが上げられたが、否定的な意見は主に制度上の課題であり、欧米メディアからは現場に到着していながら攻撃せずにずっと待機していたことを疑問視する一方、近隣諸国のメディアは自衛隊を実戦投入したこと自体を問題視する論調であった。
そして国内左派メディアは政府与党が支持率向上のために戦後初となる治安出動命令を出したパフォーマンス政治だと強く批判し、右派メディアは自衛隊の行動を縛っている法的制約をなくすために、直ちに憲法改正すべきだとの主張を展開した。
「詳しくはわからないが、今回の件で自衛隊には制度上で課題が多いことだけは分かったよ」
俺がそう言ってベッドに横になると、敦史が俺の近くに来てスマホの画面を見せて来た。
「イケメンってほんと羨ましいよ。いいよなお前は、今回の修学旅行でしっかり成果を出せて」
「またその話かよ。さっきから何もなかっただの、俺には成果かあっただの何の話を・・・こ、これは!」
敦史のスマホには、俺が記憶を失っていた時のオークとの戦闘の様子が映し出されていたが、画面の中の俺は水島さんを胸にしっかり抱きしめながら、一人だけ高速再生しているような速さで群がるオークを一方的に叩きのめしていた。
撮影したのは電車の乗客で、音声の大半は乗客たちの歓声で埋め尽くされていたが、映像の所々で余計なヤジが入っていた。
『イケメンにあれをやられると、普通の男に勝ち目なんかないよな。オークの味方をしたくなってきたぜ』
『あのJK、大怪我をしてるはずなのにメチャクチャ幸せそうな顔してるよ。何を見せつけられているんだ俺たちは・・・』
『おいおい、もう一人の美少女が怒ってこっちに戻って来たぞ。対オーク戦の後は三角関係勃発かよ』
「・・・何だこれは」
変なヤジはともかく、葵さんが言っていたように俺がオークに攻撃を仕掛けると、バリアーを無視していきなりオークの手足が吹き飛んでいる。
これって一体、どうなっているんだ・・・。
だが敦史も真面目な顔をすると、
「この前の話の続きだけど、水島と葵、二人のどっちと付き合うのかそろそろ真面目に考えた方がいいぞ」
「今はそんなことよりも・・・いや、そうだな。どっちと付き合うか・・・か」
俺を守って瀕死の重傷を負い、最後に気持ちを告白してくれた水島さん。
あの愛梨が最大限の警戒をするほど、なぜか俺のことが好きだという葵さん。
敦史は実の姉だと思っているが、言葉は交わさなくても彼女の気持ちはハッキリと伝わって来た、異世界王女アリスレーゼ。
この3人の中から1人を選ばなくてはならない。
◇
あの事件で瀕死の重傷を負い、警察病院に入院していた私は、驚異的な回復を見せたことですぐに家の近くの病院に転院することができた。
その修学旅行は3日目以降が中止になり、私以外に被害の出なかった学園の生徒たちは、全員無事に帰宅することができたそうだ。
それから数日が経ち、前園くんたち班のメンバーが全員揃って私のお見舞いに来てくれたんだけど、今回もまた前園くんの顔をまともに見れず、ほとんど言葉も交わすことなく彼は帰ってしまった。
そんな不甲斐ない私に、お母さんの説教がまた始まった。
「かなでったら全く! また前園くんと一言もしゃべらなかったけど、それで本当に普通に話ができるようになってるの」
お母さんは腰に手を当て私に呆れ顔だが、
「・・・だって恥ずかしくて、前園くんの顔なんかまともに見られないよ」
私が顔を真っ赤にして布団にくるまってしまうと、何かに気がついたお母さんは、
「・・・あれ? その態度はひょっとして」
そして布団を強引にめくって、私の顔をジッと見るお母さんの顔がニンマリと笑った。
私はすぐに目をそらすと、
「そっか告白したのね。頑張ったわね、かなで」
「・・・うん」
「だからか。前回のお見舞いの時と違って、前園くんの距離感が近くなっていたというか、かなでのことをとても優しい目で見ていたというか」
「えっ?!」
「それで、彼からはOKをもらえたの?」
「・・・まだ」
「そっか、やっぱりもらってなかったか」
私と違ってとても鋭いお母さんが前園くんのことで何かに気づいたらしく、告白がバレた恥ずかしさよりもその言葉が気になって、私はお母さんに尋ねた。
「やっぱりって、どういうこと?」
私がお母さんの方を向くと、少し何かを考えた後、ゆっくりと話し始めた。
「これは私の勘だから、ひょっとしたら間違っているかも知れないけれど、それでもいい?」
「お母さんの勘・・・うん、教えて」
「わかった。前園くんはたぶん、かなでの告白に応じようかどうか迷ってると思う。でも他にも気になる人がいて一人に決められないでいる」
「ええっ! わ、私と付き合ってくれるかも知れないってこと?!」
「少なくともお母さんにはそう見えたけど」
「うそっ! 前園くんが私なんかと・・・」
「そんなに慌てないの。最初に言ったでしょ、彼には気になる人が他にもいるって」
「他に・・・それって誰なの?」
前園くんの周りには、学園でもトップクラスに可愛い子が集まっているし、クラスの女子のほとんどは彼のファンクラブに所属している。他のクラスや違う学年の女子生徒からも大人気だ。
それを妹の愛梨ちゃんが全て蹴散らして、特定の相手とお付き合いしないまま今に至ってるんだけど。
「彼が誰を気にしているのかまではわからないけど、今日お見舞いに来てくれた女子全員が彼のことを好きだと思う」
「ぜ、全員・・・」
今日来てくれたのは前園くんと伊藤くん以外は全て女子で、アリスレーゼさんと愛梨ちゃん姉妹の他は、クラス委員長の神宮路さんと、そのボディーガードとして転校してきたばかりの葵さんの4人。
愛梨ちゃんは積極的に動いているけど実の妹だし、それ以外の3人についてはハッキリとした恋愛感情は見てとれなかった。
私が黙っていると、お母さんがため息をつきながら話を続けた。
「転校生の葵さんって娘? 彼女が前園くんを見る目が凄かったわね。それを察知した妹ちゃんとの水面下のバトルが見てて面白かったわ」
「水面下のバトル?! 私、全然気がつかなかった」
「そういうところよ、かなでが人付き合いを苦手にしている理由は。周りの人の様子にちゃんと関心を持てば、もっと友達が増えると思うけどな」
「そ、そうね、お母さんの言う通りだと思う。・・・そう言えば、前園くんのお姉さんのアリスレーゼさんがいつも彼にべったりなのは気になってたけど」
「そうなの。あそこの姉妹って、どうして自分の兄弟に恋愛感情を持てるのか、本当に不思議ね」
「じゃあ、アリスレーゼさんは前園くんのことを」
「私が見た限り完全に異性として意識しているわね」
「やっぱりそうなんだ・・・。でも愛梨ちゃんもアリスレーゼさんも前園くんの姉妹だし、お付き合いするとすれば葵さんしか・・・」
私はそこまで言って、お母さんが「全員」と言ったことを思い出した。
「あれ? じゃあ神宮路さんは・・・」
「葵さんの後ろに控えていたクラス委員長の子よね。彼女も前園くんに好意を持っているように感じたわ」
「まさかあの神宮路さんが?!」
「彼女がどうかしたの?」
「神宮路さんって、社長令嬢で大金持ちなのに性格もよくて周りへの気配りがとてもよくできるの。それに凄い美少女の上に学年トップの成績で頭もよく、次期生徒会長候補の筆頭に上げられているの」
「へえ・・・そんなすごい娘がこの世にいるのね」
「うん。あまりにも凄すぎて、男子生徒の中に神宮路さんを彼女にしようとチャレンジする人が一人もいないらしく、噂では同じ生徒会長候補の芹沢くんと密かに付き合っているとか、どこかの会社の御曹司と既に婚約してるとか」
「いわゆる高嶺の花ってやつね」
「神宮路さんは高校生男子なんか相手にしていないと思っていたのに、まさか前園くんのことを」
「そんなすごい子がライバルなんて、いよいよかなでが選ばれる可能性は少なそうね。せっかく告白したのに申し訳ないけど、彼のことは諦めて初恋の想い出に留めておいた方が、かなでも傷つかないと思うけど」
「前園くんを諦める・・・」
お母さんのその言葉に、私の心には絶望感が一気に押し寄せて来た。何もなかった私の人生に希望が持てたのは前園くんに恋をしたから。
葛城さんたちにイジめられ、鮫島の金づるになるために乱暴される直前だった私を助けてくれたのが前園くんだった。
そしてオーク騎士団と一緒に戦って、お互いに助け合った前園くん。
今の私があるのは彼のおかげであり、彼のいない人生なんてもうあり得ないとさえ思っている。
どんな形でもいいから、彼とずっと一緒にいたい。
「ご、ごめんなさい、かなでっ! あなたがそこまで前園くんのことを想っていたなんて・・・」
「・・・え?」
「だって今のあなた、すぐにでも自殺しちゃいそうな顔じゃない。余計なこと言って本当にごめんなさい」
「自殺って、私が?」
お母さんが慌てて私を抱き締めたけれど、そっか、私ってそんな顔をしていたんだ。でも彼を失ったら、本当に死んでしまうかも知れないな。
あーあ・・・あの時は思わず告白しちゃったけど、完全に失敗だったかも。これで前園くんが他の子を選んでしまったら、もう彼の傍にはいられない。
そう考えると涙がどうしようもなくこぼれ落ちてしまった。するとお母さんが、
「かなで、絶対に死んじゃダメだからね。むしろ今は断られた方が、友達として長い付き合いができるということもあるし、長い目で見れば人生何が幸いするかわからないの。だから何があっても絶対に諦めずに、気長に待ちなさい」
「何があっても諦めずに気長に待つか・・・うん、そうだよねお母さん。友達もいない陰キャの私が、あの前園くんのことで悩めること自体が贅沢だよね。私、前園くんが誰を選んでも、彼の傍にいることを絶対に諦めない」
「そうよかなで。死んじゃうことを考えれば、人生は長いんだから何だってできるわよ」
次回もお楽しみに




