第24話 異種格闘戦(後編)
ちょっと遅い時間の更新になりました。
いくらなんでも、俺がこの試合に出るのは無理があると思ったが、爺さんの続く言葉に俺は唖然とした。
『まさかワイドショーの奴らが、ヤラセ抜きのガチの勝負を挑んで来るとは思わんかった。全く大人げないことしやがって・・・』
この爺さん、マジで道場の宣伝目的のためにマスコミを利用しやがった。しかもヤラセ込みで・・・。
「ていうか爺さん! テレビが全部ヤラセというのは完全に爺さんの偏見だよ!」
『そんなことはない。こういうバラエティー番組にはお約束というものがあって、この展開にさすがのディレクターも焦ってワシに連絡を寄越してきたんだ』
「お約束って・・・まさか今からヤラセをする気か」
『いや、今はネットの監視があってヤラセは炎上案件だからできないそうだ。その代わりの提案として、お前と愛梨の二人が試合に出てくれたら勝敗に関係なくテレビ的に盛り上がるとディレクターが言っておる』
「つまり爺さんは、俺と愛梨をテレビ局に売ったと」
『そんな人聞きの悪い言い方をしなくてもいいじゃないか。ウチとしても、せっかく半グレ集団どもを壊滅させてネットの評価が星4を超えてきたのに、このままでは大量の星1を投下されかねん』
「アホか! 道場の星の数なんかどうでもいいわ!」
『頼む瑞貴、道場の星ために愛梨と二人でワシを助けてくれ・・・』
「仕方がないので俺は爺さんのために試合に出ようと思うが、愛梨はどうする」
愛梨を連れてディレクターたちの元に移動した俺は、爺さんから言われた事を聞かせた。だが、
「愛梨がそんなのに出るわけないでしょ! テレビに出てくるようなプロの格闘家と愛梨がまともな試合になるわけないじゃん!」
「だが爺さんとディレクターは、俺たち二人は負けてもいいって言ってるぞ。だからお前は一番最後の大将戦に出場にして、中堅を師範代が、副将を俺が戦うという順番で行くそうだ。それならいいだろ」
「ぜ・っ・た・い・に・嫌っ!」
そう言うと愛梨は頬を膨らまして、元いた場所に戻ってしまった。
まあ、愛梨がこの試合に出るのはさすがに無理があると俺でも思うし、アリスレーゼもトレーニングを積んではいるが、格闘技を教わっているわけではない。
「仕方がない、俺一人でよければ出場するよ」
ディレクターも「それで構わない」と俺に頷いたその時、俺たちの背後から突然声がした。
「愛梨ちゃんの代わりに、私が出ましょうか」
「え?」
後ろを振り返ると、神宮路さんの隣に座っていたはずの葵さんがいつの間にか傍に立っていて、ニッコリと微笑んでいた。
そう言えば彼女は、神宮路さんのボディーガードとしてわざわざ神宮路蒼天会長が招聘したほどの女性だし、少なくとも練習をサボり気味の愛梨よりはまともな試合展開になるはず。
だが大人たちの反応はバラバラで、伯母の幸子さんは人様のお嬢さんにそんなことをさせられないと難色を示し、師範代は爺さんと幸子さんの板挟みになって頭をかき、ディレクターは親指を立てて「いいね」と実にいい笑顔で笑った。
まあ実質ヤラセみたいな試合だし、俺は葵さんにお願いしてみることにした。
「じゃあ葵さんにお願いできるかな?」
「もちろんよ! だって瑞貴のためだもん」
「え? 瑞貴って・・・」
「あっ! ・・・ご、ゴメン。前園君のことをいきなり呼び捨てにしてしまって」
「いや瑞貴でいいよ。実は俺、女子から話しかけられることがほとんどなかったから、名前で呼ばれること自体が初めてなんだ。それにしても葵さんって、見た目は清楚で近寄りがたい雰囲気なのに、実際は随分とフレンドリーなんだな」
ひょっとして、この葵さんとも友達になれるかもと少し期待をする俺だったが、俺の言葉に彼女は完全に沈黙してしまった。
(ウソ・・・瑞貴がこの私を清楚って言ってくれた。くーーーっ、この10年間瑞貴のためだけを考えて、自分を磨き続けてきた甲斐があったわ! あーもうっ好き好き大好き瑞貴、心から愛してるわ。だから早く私をお嫁さんにもらってーーーっ!)
「・・・やっぱり、ダメかな?」
(マズいっ! 私が早く返事をしないから、瑞貴がこんなに困った顔をしている。もちろん瑞貴の頼みごとなら、私の答えは全てYESに決まってるじゃない。でもここは瑞貴の好みの女の子っぽく清楚で可憐で、そして強く!)
「コホン・・・じゃあ前園くん、いいえ瑞貴。二人で残りの選手全員をぶっ倒してしまいましょう!」
そして葵さんは真剣な表情をすると、道場の中央に向かってのっしのっしと歩いていった。
「ち、ちょっと待てよ葵さん! キミは大将だから、出番は一番最後! それに制服のまま戦う気かよ!」
ちょうどCM明けのタイミングで、葵さんが道場の中央で仁王立ちをする姿をバッチリ放映されてしまったため、葵さんが出場することが既定路線となった。
未だに反対する幸子さんをディレクターが抑えている隙に師範代が出場選手の交代を審判に告げると、それを聞いて大いに盛り上がるギャラリーたち。そしてレポーターのテンションも最高潮に達した。
「さあ、いきなり2敗して後がなくなってしまった煌流翔波拳は、ついにメンバーを入れ替えて来た。大将の兵衛師範代を中堅に据えて登場してきたのは、前園家嫡流の御曹司、黒髪王子こと前園瑞貴選手と、そのクラスメイトの謎の女子高生だーっ! さあ黒髪王子の実力が明らかになるのは・・・CMの後っ!」
またCMかよ! と心の中でツッコミを入れつつ、俺と葵さんはそれぞれ副将と大将に位置に正座をしてその時を待った。
そしてADのCM明け5秒前の合図で師範代がゆっくりと立ち上がると、道場の中央へと進んでいった。
その第3試合の相手は、総合格闘技チームの中でも最も巨漢の男。かつては横綱にも手が届き得る才能の持ち主として大いに期待されながら、騒動ばかり起こして最後は部屋から追放された角界の異端児。
総合格闘技界最強の相撲レスラーだ。
師範代もウチの道場では身体が大きい方だが、相手は2mに迫ろうかという怪物であり、並んで比べると大人と子供ほどの差があるように見える。
そんな二人が道場中央で礼を取ると、審判の合図で試合が始まった。
相手選手は師範代に対し余裕の表情を見せ、「先に一発打たせてやる」といった風に手招きをしている。それを見た師範代はニヤリとほくそ笑むと、両足を少し開いて両脇をしめ、腰のあたりで両拳を軽く握って丹田に意識を集中させた。そして、
「うおおおおーーーーっ!」
雄たけびと共に沸き上がった膨大な量の「気」が、まるで竜巻のように師範代を中心に吹き荒れた。
「師範代は本気で勝つつもりだ。だがこの量はいくらなんでも・・・」
師範代の強さは実は折り紙付きで、古武道の世界ではいろんな試合で優勝をしており、全国屈指の強さを誇っている。
そんな師範代が、爺さんと同じ赤いオーラを全身にまとうと、一発打ち込ませるために相手選手がわざとガードを開けた腹部めがけて、赤く輝く左足で思いっきり蹴りを叩き込んだ。
ドグォーーーンッ!
相手選手の巨体に左足がめり込んでひしゃげ、肉体同士がぶつかり合って衝撃音が発生すると、男が宙を舞って数メートル先の畳に全身を叩きつけられた。
バギャッ! ドガーンッ!
推定200kg超の重量が勢いよく落下したため、道場が地震のように振動する。
相手選手は油断をしていたのか、それとも攻撃を受けてすぐに意識を喪失していたのか、全く受け身を取ることなく床に激突し、苦悶の表情のまま微動だにしなかった。
「勝者、煌流翔波拳・兵衛師範代!」
審判が慌てて試合を終了させると、救急医療チームが選手を場外に運び出して応急措置を始めた。
試合開始直後の瞬殺劇とその後のスタッフたちの慌てぶりに、何が起こったのかすぐに理解できなかったギャラリーたちは、やがて自分たちの馴染みのトレーナーの勝利を理解すると大声援を上げた。
一方、相手選手の状態を懸命に伝えていたレポーターも、ギャラリーの盛り上がりに応える形で、すぐにテレビ用に表情を作り直すと、
「衝撃の試合展開に会場は騒然としておりましたが、気を取り直して試合再開と行きましょう。さあここで煌流翔波拳が一矢報いて1勝2敗となりました。この後はいよいよ黒髪王子の登場です!」
レポーターのその言葉に道場は大歓声に包まれ、俺は静かに立ち上がった。そして葵さんに言葉をかけて道場中央へと向かう。
「じゃあ行ってくるよ。ここで俺が負けたら、たぶん葵さんは戦わなくてもいいはずだし、もし俺が勝ってしまっても無理して勝つ必要はない。キミには道場の評判なんか関係ないんだし、ケガをしないことだけを気をつけて適当にやってくれ」
だが葵さんは俺の背中に向けて、それを否定した。
「瑞貴ならきっと勝てるし、私はそんな瑞貴を超えて最強になるの」
「最強に・・・そうか。ではそうなるように、お互いベストを尽くそう」
彼女の言葉を聞いて、俺はどこか懐かしい気持ちになっていた。そう言えばアイツもよく同じようなことを言ってたな。
・・・俺を超えて最強になるか。
幼い頃、隣に住む少女と修行に明け暮れていた日々が頭をよぎると、なぜだかこの試合には絶対に勝たなければならない気がした。
「よし、行くか!」
俺は気合いを入れ直すと、彼女に振り返ることなく前に向かって歩きだした。
そして試合に勝利してこちらへと戻って来る師範代とハイタッチを交わすと、俺は副将として道場の中央に立った。
次回、瑞貴たちの戦いが始まる。
お楽しみに。
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