第24話 異種格闘戦(前編)
長くなったので、エピソードを2つに分けます。
後編はできれは明日アップします(白目)
葵さんが、俺たちの修学旅行のグループの6人目のメンバーとして加わった。
彼女は神宮路さんのボディーガードであり修学旅行先でも神宮路さんの傍から離れるわけには行かないため、グループ入り自体に誰も異論はないはずだが、俺と敦史は当然のようにクラスの男子全員から大ブーイングを浴びせかけられた。
理由はもちろん、俺たちの班だけ男女混合グループであり、しかもアリスレーゼと葵さんという二人の編入生美少女を独占してしまったからだ。
なお神宮路さんも学園屈指の美少女には違いないのだが、クラスの男子からは全く文句が出なかった。
なぜなら彼女は次期生徒会長候補にして学力も学園トップクラス。さらには社長令嬢というおまけ付きのため、彼女に手を出そうという剛の者がウチのクラスにいないからだ。
そんなクラスの男子から俺以上に大量のヘイトを集めた敦史が「やれやれ」とため息をついて教室の隅っこに男子全員を集めると、なぜかやっかみの声が消えて、むしろ敦史への激励の声が上がったのだ。
「おい敦史、お前はどうやってアイツらを大人しくさせたんだ?」
「いや別に大したことは言ってないさ。仮にお前らが高嶺の花ばかり集められたグループに入ったとして、修学旅行を心から楽しむことができるかよく考えるんだなと言っただけだよ」
「・・・なんか実感がこもってるな」
神宮路邸での敦史は、急に顔を青ざめたり泡を吹いたりして、情緒不安定にもほどがあった。愛梨に何かを頼まれていた節はあったが、それを差し引いても「楽しそう」とはお世辞にも言えない状況だった。
「愛梨ちゃん狙いの俺からすれば、このメンバーは楽しむより気を使うことの方が多いし、唯一気楽に話せる女子がボッチ水島だけだからな」
「水島さんのことを、変な呼び方するなよ」
だが敦史の言葉には俺も納得できる部分がある。
「だが何となくわかる気がするよ。俺なんか毎日愛梨の機嫌を取らなくちゃいけないからマジでキツいわ。ほら噂をすれば、早速お出ましだよ」
ついさっき終業のチャイムが鳴ったばかりで、まだクラスメイトが帰り支度を終えてないのに、もう愛梨が2年A組の教室まで俺たちを迎えに来た。
そう、俺たちはこれから神宮路邸でなく、俺んちで修学旅行の打合せを行うため、愛梨も一緒に母さんの車で家まで送ってもらうのだ。
これは水島さんを勝手にアリスレーゼの世話係にしたことを根に持った愛梨の強い意向が働いた結果だ。
「お兄お待たせ。じゃあ早速ウチにって、まさかこの女も同じグループに入ったの・・・」
神宮路さんの隣でニッコリと微笑む葵さんを見て、愛梨は露骨に嫌な顔をした。だが葵さんは特に気にすることなく、愛梨に自己紹介を始めた。
「私は、さやかお嬢様のボディーガードの葵菖蒲よ。あなたは確か朝のホームルームの時にいた一年生ね。前園君の妹さんの・・・」
「・・・愛梨よ」
「愛梨ちゃんって言うのね。初めまして!」
「ふん!」
葵さんは笑顔で愛梨に握手を求めたが、愛梨はふてくされてままそっぽを向いてしまった。
帰り支度を終えた俺たちが教師専用の駐車場に行くと、待っていたのは母さんではなく兵衛先生だった。
「あれ師範代だ・・・お母さんはどこなの?」
愛梨と一緒に辺りを見渡すが母さんはどこにもおらず、兵衛先生が俺たちに事情を説明する。
「前園理事は臨時の理事会が入ってしまったため、俺がみんなを本宅の方に連れて帰ることになった」
「俺んちじゃなく、本宅に?」
俺がそう尋ねると、
「実はこれから道場で試合があるんだ。もしよければ俺の試合を見に来ないか」
「へえ、ウチの道場で試合なんて珍しいですね。でもそれだと午後のヨガスクールは・・・」
「今日は臨時休校だ。スクール生のおばさんたちはみんなギャラリーとして俺の応援をしてくれるらしい」
「応援がいるなんて随分と本格的な試合なんですね。なあみんなせっかくの機会だし、打合せの前に兵衛先生の応援でもしないか」
他のみんなも先生の試合には興味があるようで、特に敦史がメチャクチャはしゃぎだした。
「あの有名な半グレ集団、MEGA御武倫を壊滅させた煌流翔波拳を生で見られる! もう修学旅行の打合せなんかどうでもいいから、早く見に行こうぜ」
兵衛先生の車は母さんのよりも大型のワゴン車で、俺たち7人を余裕で乗せると前園家本宅に到着した。
だが夜の乱闘事件以来久しぶりに来る本宅周辺は、なぜか学園以上に報道陣でごった返していた。
「なんでこんなにたくさんの報道陣がここに・・・」
本宅の敷地内には、どこかのテレビ局が機材を持ち込んでおり、スタッフたちが庭の中を忙しそうに駆け回っている。
近所の人たちはそれを遠巻きにして中の様子を興味深そうに覗いており、入り口付近ではレポーターらしき男性がマイクを握って、テレビカメラを前に何やら実況をしている。
俺たちは報道陣を避けるように、直接本宅に車で乗り付けると、兵衛先生の後について渡り廊下から道場へと向かった。
「兵衛先生・・・いや師範代、まさかとは思いますが今日の試合ってテレビ中継をするとか?」
「実はそうなんだ。例の乱闘事件の映像がニュースに流れてから、前園代表の所には色んな団体から試合のオファーが殺到していたんだ。その中にはテレビ局が推す格闘団体からの申し込みもあり、昼間のワイドショーの枠を使って試合の実況生中継が決まったんだ」
「テレビ局が推してる? まさかその格闘団体って、たまにテレビでやってる総合格闘技の・・・」
「ああ、その格闘団体だよ。代表が言うには、道場の宣伝にはWEBの星を細かく集めるのもいいけど、やはりテレビに取り上げてもらった方が集客力が断然違うらしい」
「また道場の宣伝かよ、爺さん・・・」
俺たち高校生は昼間のワイドショーなんか見てないから、ウチの道場で試合の生中継をするなんて誰も知らなかった。
だが待てよ、この試合は爺さんとテレビ局の利害が一致して決まったものだよな。一方で、あの事件から2週間以上経つのに、まだ学校の正門の前には報道陣が集まっている。
まさか爺さん、学校の宣伝目的でマスコミを利用しているんじゃないだろうな・・・。
道場に入ると、試合の準備が既に整っていた。
道場の中央を挟んで両チームの選手が正座で並んでおり、いつの間にか道着に着替えた師範代がチームの大将の位置に座ると、両チームの選手が全て揃った。
道場の壁際にはスクール生のオバサンを中心にたくさんのギャラリーが埋めつくし、そのど真ん中ではテレビカメラがスタンバっている。
試合形式は5人制の団体戦で、相手チームは総合格闘団体の若手のホープと呼ばれる人達だった。
スター選手はさすがに一人も来てなかったものの、いずれも実力派揃いのメンバーである。
「おい瑞貴・・・マジかよこのメンバー、すげえ!」
敦史も興奮するほど知名度のある相手チームの選手に対し、ウチの道場からも師範代以下門下生のトップクラスを選抜しており、少なくとも一方的にやられるような展開にはならないと思う。
逆に心配なのは大将の師範代だ。
なぜなら俺たちと一緒に学校から帰って来たばかりだし、どう考えてもウォーミングアップをしている時間はなかったはすだ。
相手はぶっつけ本番で勝てる相手ではない。
そんな心配をよそに、レポーターが俺の姿を見つけると、テレビカメラをこちらに向けて実況を始めた。
「おおっと、煌流翔波拳の関係者席に例の黒髪王子の姿を見つけました! 制服姿のところを見るとこの試合を見学するため学校から急ぎ駆けつけたようです。そして彼の両隣には、いつものように金髪の美人姉妹がピッタリと身体を寄せており、その他にもクラスメイトたちが並んでおります。さあこの後、黒髪王子の参戦は果たしてあるのでしょうか。それではマイクをスタジオにお返しします」
カメラの前でレポーターが勝手に盛り上がっているが、こんなガチのメンバー相手に高校生の俺が参戦するわけないだろ!
そして試合が間もなく始まろうとしていた。
両チームの先鋒の選手が道場中央で向かい合うと、審判から注意事項が簡単に説明される。
今日の試合は総合格闘技ルールが適用され、噛みつきや急所攻撃などいくつかの反則事項を除けば、基本的に何でもありの5分、1ラウンド制。
5試合で最大25分で済むため、昼間のワイドショーの枠に収まるよう意識されたお手軽ルールとなっている。
そしてADからCM明けの合図が出されると、審判が試合開始を告げて第1試合が始まった。
相手の先鋒はキックボクシングの選手で、序盤から猛ラッシュを繰り出して来た。一方、ウチの選手はそれを上手く捌いてダメージを全て受け流しているが、相手の手数に押されて攻勢に転じることができず防戦一方の展開が続いている。
俺は「気」を練るとそれを目と耳に集中させ、両選手の気の流れを確認する。
相手選手が「気」を使っている形跡はないが、そもそもの地力が優れており、それに比べてウチの選手は地力で劣る分を「気」で穴埋めすることで、どうにか五分に持ち込んでいる。
「こうやって間近で見ていると、総合格闘技の選手がマジで強いことが実感できるよ」
隣に座るアリスレーゼも、俺と同様に両選手の気の動きを目で追っている。両者の対照的な戦い方について俺に色々尋ねてきたが、あっという間に試合時間の5分が経過し、相手選手の判定勝ちとなった。
「ねえミズキ、どうして相手選手の勝ちなのでしょうか。このまま戦っていれば、すぐに相手のスタミナが切れて、ウチの門下生が優勢に立つと思いますが」
「今回は試合時間が5分しかないから、KOではなく判定で決まる確率が高いんだよ。だから相手チームみたいに最初から全力で戦う方が有利なんだ」
「つまり戦場の場所や時間帯、天候、戦力差、局面に応じて同じ相手同士でも有利不利が変化するように、今日の試合では短期決戦の強さが試されているのね」
「戦場を例に挙げるところがアリスレーゼらしいが、たぶんそれで間違ってないと思う」
続けて2試合目が始まった。今度の相手は空手だ。
さっきの選手よりも小柄だが、その分身体のキレは鋭く、繰り出す攻撃は一撃必殺の威力を持っている。そして何より身体全体に青い気が充満している。
「あの空手の選手は「気」を使ってるぞ。しかも俺と同じ青い色の気だ」
アリスレーゼもそれに気づいたようで、俺たちは空手選手の気に注目して、試合を追った。
相手選手は、ウチの選手のように打撃の瞬間に気を1ヶ所に集中させることはしなかったが、均等に気を充満させることで、全身のブースト効果を得ていた。
「気の集中を行わないから、一撃の破壊力は損なわれるもののその分身体全体のバランスがよくなり、トータルで見れば総合的な攻防力は上昇している」
「ですがオーラの総量が少し足りないですね。やはり煌流翔波拳のオーラの修練方法は特別だと存じます」
俺とアリスレーゼが意見を交わしていると、突然俺たちのすぐ後ろの扉から伯母の幸子さんが道場に飛び込んできて、試合中の師範代に駆け寄ると誰かと通話中と思われるスマホを手渡した。
そして伯母さんの後ろにはテレビ局のディレクターらしき男もいて、スマホで誰かと話しながら、3人で相談を始めた。
それに気を取られていると、あっという間に試合時間が経過し、審判が相手選手の判定勝ちを宣言した。それにため息をつくヨガスクールの練習生たち。
次に負けたら、そこでこの試合は終了だ。
テレビ的にも道場の経営的にもあまり嬉しくない展開に、俺は中堅の選手を本気で応援しようと姿勢を正したのだが、師範代が突然立ち上がるとスマホを持って今度は俺のところにやってきた。
そのスマホからは、
『わしじゃ、聞こえるか瑞貴』
「なんだ爺さんか・・・」
『瑞貴に一つ頼みがある。このまま試合が終われば、テレビ的にも道場の経営的にもよくない。すまないがお前が試合に出てくれんか』
「プロの格闘家相手に、冗談だろ・・・」
次回、突然参戦を求められた瑞貴は・・・。
お楽しみに。
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