表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: 綺常 虎依(きつね こより)
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/65

第63話 御子

※残酷な描写あるので注意です! 


「あー、殺すつもりでやったんだけどな」

 

 男は呟く。その右肩から下は異形のモノとなっていた。


(あの刀の能力か)


 十二郎は思考する。鬼道を開く能力だけではなく、使用者を異形化させる事も可能らしい。

 明らかに先程までの男とは違う。薬物を使用したかのように、興奮状態になっている。


(何をするか、わからんな)


 再度神の”力”を全身へと循環させる。

 瞬発力、持久力、反射速度、耐久力、全ての能力が人間を遥かに超える。


 青白い雷が、十二郎の身体を包む。


 そして地を駆けた。衝撃と共に、十二郎は男の目の前にいた。

 

「死ね」


 十二郎の右手に青白い電があった。

 そして男の頭部を掴む。神の”雷”。自らの手に触れた瞬間、人間の脳、神経系、心臓、呼吸全てが壊れ、完全に停止する。十二郎は確実に破壊するように、出力を大幅に増やす。これを流せば、山如き大きさの”鬼”ですら機能を完全に停止するだろう。


 そして神の”雷”を流———せなかった。


「なぜ」

  

 そして理解した。十二郎の右腕が身体から離れていた。

 完全に右腕が切断されている。


「腕一本もーらい」

「っっっっっっ」


 血飛沫が空中に舞う。ショックで意識がとびかける。

 十二郎はとっさに舌を噛んだ。痛みを上書きし、無理やり意識を保つ。

 

 完全に見えなかった。異常な速度だ。

 ——と匹敵するだろう。


「お」


 十二郎は、残った左手に神の”力”を集中さ——

 衝撃が十二郎を襲う。


 白。衝撃で視界が白く染まる。全てが捉えきれない。

 壁を通り抜け、夜空が見える。

 

 外まで吹き飛ばされた。

 薄っすらと理解する。


「なめるッなッッ!!!」

 

 十二郎は吹き飛ばされながら、姿勢を制御する。

 そして、残った左手で地面を掴む。地面が削れていき、十二郎は止まった。


「はぁ、はぁ」


 血で出来た線が修練場まで続いている。自らの腕からの出血が、道を成していた。

 神の”力”で無理やり身体を動かし、自らが吹き飛ばされた穴を見る。


「ハハ、飛んだ飛んだ」


 男は笑いながら、穴から出てくる。

 右手は異形の腕、左手にはあの刀。そこに疲労は見えない。

 

(近づくのは不利か)


 十二郎は、残った左腕に”神の力”を込める。

 そして光が男に走る。雷音が機関銃のように夜の町に響き続ける。


 絶縁体である空気を通るため、威力は格段に落ちるが、これでも十分な殺傷能力がある。

 だが、雷を放ちながら十二郎は奇妙なことに気づいた。


「……どういうことだ」


 放出した雷撃が、男に辿り着く前に拡散していた。

 まるで、神の”力”そのものが男へ攻撃したくないとでも言うように。


「なんだこれ、ハハ」


 男はその光景に楽しそうに笑う。

 

(これも、あの刀の力か?)


 十二郎は思考する。何故かは分からないが、先程までは可能であった中距離の攻撃が通じなくなっている。おかしな力が働いている。だが、中距離ではなく、同じように近距離で戦えば刀の間合いに入り殺される。


 ならば——


 奥の手を出すまでのこと。


「あ?」男は十二郎の動きが変わったことに気づいたのか、訝しがる。


「纏え、武御雷(タケミカヅチ)

 

 それが御堂十二郎の奥の手だった。

 膨大な神の”雷”が、身体から迸る。

 先程までとは、比べ物にならない雷光。


 その身は雷神と同一である。

 

(長くは持たない)


 十二郎は”力”で無理やりバランスを保ち、地を思いきり駆けた。

 それは雷速、数値にして秒速数万キロメートル。


 思考と反応速度すら神如き速さとなり、十二郎は男へと走る。

 左手の先に、神の”力”を集中させる。稲妻で出来た短剣が、現れる。


 これが最後だ。


 男は先程まで十二郎がいた位置を見ていた。

 反応などできるわけがない。


 できるわけが——






 男の腕は動いているように見えた。






 視界が光に包まれる。

 十二郎は男の後ろにいた。


「……」


 視線を下に向ける。そこには左腕が無かった。

 血が滝のように流れ落ちる。


「化物が」

「はは、ラッキー」


 振り向くと、男の足元に自らの左腕が落ちていた。

 もう使える”力”は残されていない。両腕も失った。

 

「……私の負けか」


 男の姿が消え、次の瞬間には男の右手に首を握られていた。鉤爪が首にくい込み、そのまま身体を持ち上げられる。


 男は笑いながら、十二郎を見る。


 そして十二郎は気づいた。男の瞳に金色の輪のような紋様が浮かんでいることに。


(馬鹿な)


 あり得るわけがない。なぜ、なぜ、なぜ。

 なぜ、お前がその瞳を持つ。


 それは神の寵愛を受けた”御子”の証。


 叛鬼衆でない者に。儀式を行っていない者に。

 その瞳が出現することはありえない。


「ありっ—え—い」首を強く掴まれているから、言葉を発することが出来ない。

「あ? 何いってんの? 命乞い?」首を更に強く締められる。

 

「まあ、いいや」男は左手に持つ刀で十二郎の腹部を刺した。


「ぐっ」

「なあ、痛い? 痛いよなあ」


 男は刀を動かす。痛めつけるように。

 尋常ではない痛みが、脳に響く。だが、常時強い痛みに慣れ続けたためか、意識が飛ばない。


「俺もさっきの痛かったなあ」男は十二郎の姿を嘲笑うように、腹部の刀を動かす。

 もはや腹部の感覚はなかった。


「ッハッ」

 

 口から血が出る。男の顔が十二郎の血に染まった。


「……」


 男の笑みが消える。

 

「あー、じゃあ殺すわ」


 男が腹部から刀を抜く、そして振りかぶる。


 十二郎は、その一瞬。視界に家族の姿を見た。

 両親。妻。息子の子供の頃、そして共に戦い散っていった仲間たち。


 まさしく走馬灯であった。


(これが死か)


 十二郎は目を閉じた。

 もっと自分は早く死ぬと思っていた。


 むしろ、叛鬼の者として生まれ、戦って戦って、よくここまで生き延びたものだ。

 やっと先に行った仲間の元へ行ける。







 そして死が————




 

 

 音が響いた。

 まるで金属同士が打ち合うような衝撃音。


 一瞬の浮遊感と共に、身体が後ろに引っ張られる。


「なん——だ」


 誰かが十二郎の前に立っていた。銀色に輝く髪。それを後ろで纏めた女。

 黒に染まった刀で男の刀を受け止めていた。


 龍堂偉月(りゅうどういつき)


「あ?」

「……本当に、佐藤さんなんですね」


 偉月の表情は見えない。


「誰だっけ、あんた」

「……怪我をした猫を覚えていませんか」


 偉月は男に語りかける。


「なんだっけ、あれ、頭がおかしい、覚えてる俺は」

「……」


 男が偉月の刀を打ち払い、後ろへと下がる。

 そして異形と化した右手で頭を抱える。


「……偉月さん? なんで」


 憑き物が落ちた。そんな表情だった。普通の、人間の表情。


「うっ、何」男の金色の輪が浮かぶ瞳。御子の目が、一際大きい輝きを放つ。

 男が身を捩る。異形と化した男の右腕、それが人の肌を取り戻していく。

 

「……御子の目。私とお揃いですね」


 偉月の姿が消えた。

 そう十二郎が認識した時には、その姿は男の目の前、偉月が男の頬に触れていた。

 優しく、壊してはいけないものを触るように。


「え」


 次の瞬間。男の動きは完全に止まっていた。 

 その左手に持つ刀も、停止している。

 時間を止められたかのように。


「佐藤さん、少し待っていてくださいね」


 偉月が振り向き、十二郎の方を見る。

 その目には、銀色に輝きを放つ輪の紋様があった。


「殺せッ! あいつを! 早く!」十二郎は力を振り絞り偉月に吠える。

 だが、偉月が男に振り返る様子はない。


「十二郎様、申し訳ありません。彼はこちらで貰います」と偉月は言った。

「は、ッふざけるなッ!! それは、明確な裏切りだぞッ」

「いえ、これは龍堂家当主、龍堂隆成の指示です」

「あんの馬鹿がァァァ」十二郎の叫びが響く。


 十二郎の脳裏に、ある女の姿が浮かぶ。

 偉月は表情を変えず、十二郎に近づく。


「止めますね」

「ま——」


 偉月が十二郎に触れる。

 そして——十二郎の全ては止まった。流れ出る血も完全に、停止している。


 


 




「偉月様、これは」無事だった叛鬼師の男が、偉月に近づく。

「まず十二郎様の治療を。相当な出血量です」

「ハッ、医療班! 十二郎様はここだ!」と男は他の叛鬼師に呼びかける。

「……よくこの出血量で意識を保っていたものです。降臨者でなければ間違いなく命は無かったでしょうね」偉月は十二郎の姿を見る。

「偉月様、あの者はどうしますか、今ここで——」


 男が言うのは、今も停止している薄っすらと赤い髪の少年のこと。

 偉月は男に答える。


「あの方は、私が対応します。気にしないでください」

「……よいのですか」


 偉月は男の言葉を無視し、少年に近づく。

 そのときだった。


「偉月様! 待って下さい!」


 偉月が振り向く。


 そこには、黒髪の少女がいた。御堂朱里。


「なんでしょうか、朱里さん」

「彼を、恋詩をどこに連れて行くつもりですか、殺すんですか」


 偉月から見て、その表情は殺し合いをしていたとは思えないモノだった。

 

「彼は、龍堂が保護します」

「保護?」

「彼は御子ですから」


 偉月は少年に近づく。そして後ろから抱きしめるように包み込む。







 瞬きよりも速く、音もなく、龍堂偉月、佐藤恋詩、そしてその刀の姿は叛鬼衆東部統括本部より消えた。何一つその場には残されていなかった。

 

 


  

 

お読みいただきありがとうございます。面白い、続きが気になると思ってくれたら★評価、ブックマーク、感想良ければお願いします(*゜∀゜)! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 チッ、傲慢クソジジイは命を拾ったか…。こういう奴って死にそうで死なないというか、生き汚さや悪運は無駄に強いですよね。 それでは今日はこの辺りで失礼致します。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ