表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: 綺常 虎依(きつね こより)
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/65

第56話 何も考えたくない

*注意 このお話は、自殺・自傷描写を含みます。閲覧にはご注意下さい。


 1DKのボロアパートの一室。影静は、恋詩の目を覗き込む。


「目赤くなってる?」


 恋詩が瞼の下を引っ張り目をこちらに見せる。日本人によくいるこげ茶色の虹彩。

 充血もなく、傷ついている様子はない。


「いいえ赤くなっていませんよ、いつもと変わりありません」

「なんかさっき変な感じがしたんだよな」


 昔からたまにあるんだけどさと恋詩は付け足す。

 

「あれの影響か?」


 あれ。それはきっと黄金の輪のような紋様の力だろう。

 世界が少年を守るように動く力。


「どうでしょうか」

「光ってる様子はないんだよなぁ」

「あれの正体はまだ良く分かっていません。紋様が浮かんでいる時だけ力が発動しているとは限りませんよ」

「うーん」


 あの力は見るからに不安定だ。感情の高ぶりに反応する? おそらく、それだけではない。

 

「まぁ、いいや」恋詩は、動きやすいスウェットに着替える。


「どこに?」

「ちょっと走ってくる、身体動かさないとなんかスッキリしてねえし」

「分かりました、気をつけていってらっしゃい」

「うい」


 恋詩はスマホだけ持って、ランニングへ向かった。


「……」


 影静は思考を再開する。

 あれは結局何だ? 最初に発現したのはあの腕のない武者と戦った際。

 彼を逃がすために、狭間へ落とした。そして恋詩は、奇妙な力に目覚め、戻ってきた。

 

「……本当に、あれはあの時に目覚めたのでしょうか」


 狭間の力で変異した? だが、そんな都合のいい変異が起こるとは思えない。

 まず、初めからおかしくないか? 恋詩は出会った時、突然狭間に飲み込まれ、あの世界に来たと言っていた。


 そして、鬼に襲われ”運”よく逃げ延び、山の中で影静わたしを見つけ封印を解いた。

 

「……」


 よくよく考えれば、不可解な点ばかりだ。


 普通、人間が鬼に襲われ、逃げ切れるものなのか? 


 逃げた先が、都合よく影静わたしの封印場所だった?


 まず恋詩は何故、狭間で人間のままでいられる?


「考えすぎでしょうか」


 恋詩は嘘を言っていない。術を使わないでも分かる。

 

(あの力の源は)


 ”魂”由来のモノに近い気がする。叛鬼師などの人間が使う”魂”を代償とした技。

 だが、普通の人間が急に力に目覚めるなんてことがあるのか? 

 儀式もなしに? 


(私は、あれを知っている)


 どこで? 誰か、顔を塗りつぶされた誰か。

 と思考しているといつもの”感覚”が来た。記憶の混濁。


(あぁ、今日は少し痛みますね)


 影静わたしには刀になる前の記憶がない。

 あれ? 本当に刀になる前の記憶だけがないのか?

 

「……」


 窓の外を見る。

 夕暮れ。だが、空は分厚い雲が覆いかけていた。

 空気が重い。


「少し、荒れそうですね」


 嫌な気配だ。





 



 風が強い。ある高台の階段近く。そこに、御堂朱里はいた。

 高台から少し離れた場所には木目に塗装された柵があり、その先には崖になっていた。


 時刻は20時過ぎ。陽は暮れ、世界は夜に覆われる。

 人の姿は全くない。


 ここに来たのに理由はない。ただ、家にいると頭がおかしくなりそうで、出かけたかった。気づけば、こんなところまで歩いて来ていた。


「ここ、恋詩と来たことあったなぁ」


 過去の記憶が蘇る。確か冬だっただろうか。

 高台にあるベンチに2人並んで座って、手を繋いで。


 ”ずっとこうしていたい”そんなことを自分は言った気がする。


 寒さで白くなる吐息と少年の手の温かさが記憶に残っている。


 何よりもあの時間が幸せだった。

 少年と一緒に過ごす時間。あの時だけは、自分の身分も忘れ、ただの朱里として過ごすことができた。


 でも、あの時間はもう手に入らない。

 自分で捨てたから。少年に傷を残して。


「……私は」


 なんのために生まれたんだろう。

 人々を守るため? ”鬼”を殺すため? それとも仲間を守るため?


 姉、許嫁、部隊の仲間達の姿を思い出す。

 皆、共に苦難を乗り越えてきた大切な人たちだ。

 

 大切。本当に? 


 本当にそう思っているのか。


「……」 


 本当は”みんな”どうでもいいんじゃないか?


 分かっていただろう。ただ、お前は何も考えず御堂という家に、叛鬼衆という生まれに従っただけ。


 なのに、叛鬼師として何よりも大切な神術を使えなくなった。


 いや、『なのに』ではなく『だから』……か。


 神術には本人の思いも関係する。


 だって自分は、戦う意味を持ってないんだから。

 神様は心を知っているのかもしれない。


 少年を捨てて、自分の心を偽って、神術も使えなくなって、戦えなくなって。


 自分にはもう、何もない。


「フフ」

 

 いや、あるにはあるか。子を産む肉としての価値は。

 例え、神術が使えなくなったとしても自分に流れる血は、御堂家本家のもの。

 1000年近く”神術”を扱うために、”鬼”と戦うために、繋げてきた血と肉体。


 まだ、その血には価値はあるだろう。


「気持ち悪い」


 顔を上げ、眼前に広がる景色を見る。

 少年と一緒に育った町。もう何も魅力を感じない。


 一歩。一歩と柵の方へ近づく。


(わたし、何しようとしてるんだろう)


 しっかりとした柵を乗り越え、崖下を見る。


(高いなぁ)


「……」


 あぁ、気持ち悪い。

 吐きそうだ。


 全部どうでもいい。

 何も考えたくない。


 忘れたい。

 

 足が勝手に動く。

 

 心のすみ。微かに幼馴染の少年の姿が思い浮かぶ。


(少しは悲しんでくれるかなぁ)


 そして後一歩、踏み出そうとした時。


「何やってんだよお前」


 声が聞こえた。昔からずっと聞いていた声。

 好きな声。


 振り返ると、薄っすらと赤い髪の少年がそこにはいた。

 ランニングでもしてきたようなスウェット姿。

 

 少年、恋詩は怒ったようにこちらを見ていた。

 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ