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彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: 綺常 虎依(きつね こより)
二章

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第55話 チョコアイスパフェ


 自宅のオンボロアパート。俺は帰り道で見た怪しい奴らについて話した。修行の一環として右手の中指一本で逆立ちをしながら。


「わかんっ、ねぇっ、けどっ」


 隣では影静も同じように指一本で逆立ちしながら話を聞いている。

 

「恋詩が見たのは叛鬼衆の関係者だと思います」


 指一本で逆立ちをしているはずなのに、影静は顔色一つ変えず呟く。

 クソ、かっこいいな。


「だよっ、な」


 叛鬼衆。この世界の陰陽師みたいな人たち。超能力のような技を使い、異形を殺している奴ら。そして幼馴染であり、元恋人だった少女、朱里が属している組織。


 と、思考に気を取られた瞬間、俺はバランスを失った。


「一旦、休憩にしましょう」


「……っはい」


 自宅からそう離れていない場所を、叛鬼衆の人間が嗅ぎ回っている。その目的はおそらく、俺らを探すため。

 

「おそらく私が狭間を感知した範囲を逆手にとって、ある程度の位置を予測したのでしょう」


「やっぱバレるのは時間の問題かなぁ」


「どうでしょうか。彼らはさっき恋詩が言っていたように正確な場所には辿り着いていません。取り敢えず、しばらくあちらの世界に行くことは辞めたほうがいい」


 俺達が反対側の世界に行くときは、狭間を開く必要がある。

 狭間が開くと、発生する独特な感覚がある。世界に黒い”何か”が出てくるような感覚。

 間違いなく叛鬼衆もそれを理解しているだろう。


 もし彼らが近くにいる状況で狭間を開けば、バレる可能性が高まる。


「でも、良いの? 影静。しばらくは化物退治できなくなる」


「……少し対策を考えます。それまでは彼らに頑張ってもらいましょう。私たちの存在が露見すれば、面倒事になるのは間違いありませんから」


「了解」


 俺達の存在がバレれば、今まで通りの生活とはいかないだろう。

 叛鬼衆は国との繋がりがあると以前、影静が言っていた。


 俺は……指名手配犯とはいえ、志波という男を殺している。


 なら最悪、逮捕なんてこともありえる。

 いや逮捕どころか、秘密を知ったとして処分されるとか、記憶を消されるとかそういうのある気がする。そんな技術が存在しているかは分からないが。

 

 それに影静は特別だ。魂とかその生物が持つ”力”を吸収できる能力がある。

 そして狭間を開き世界を行き来する能力も。


 あれはきっと叛鬼衆にはできない。


「……」

 

 バレたくない。俺は今の影静との生活を守りたい。

 

「おやすみ」


「おやすみなさい恋詩」


 トレーニングの後、シャワーを浴びて寝ることにした。

 薄暗い部屋で隣にいる影静を見る。


「どうしました……寝られませんか?」


「いや、おやすみ」


 穏やかな表情で影静は目を閉じる。その姿にほんの一瞬だけ死んだ母親を思い出す。

 とは言っても顔は真っ黒に塗りつぶされていたが。


*


 ”しゃりん”とスマホが鳴った。

 ”遅刻?”というメッセージ。


 ——町中央の公園。いつもの待ち合わせ場所だ。

 そろり、そろりと気配を消す。俺の視線の先には、私服姿の柊子と一ノ瀬の姿。


 二人の死角を意識し、音を立てないように近づく。

 たぶん今の俺は、めちゃくちゃ気配が薄い。影静の修行でこういうのもできるようになった。まぁ、影静から見たら全然だろうけど


 そして柊子の耳元で「おはよう」とイケボで囁いてあげた。


「ひゃあああああああああ」飛び跳ねる柊子。

「恋詩くんおはよう」普通に声をかける一ノ瀬。


「あんたいつも普通にできないわけ!? めちゃくちゃ鳥肌たったんですけど!」

「一ノ瀬おはよう」無視して一ノ瀬にあいさつを返す。


「無視すんなっ」

「いたっ」肩殴られた。


 俺達は昨日約束した通り、最近できたらしいチョコスイーツのお店に行くことにした。



 お店へ向かう途中、一ノ瀬が思い出したように言った。


「なんかさ、最近ヤバい事件多いよね」


「そうね。5日前くらいだっけ? 色んな所で同時に交通事故とか起きたの」


「テロとかガス漏れとか言われてたけど……あれから新情報出てこないよね」


 ニュースもあんまりやらなくなってきちゃったし、と一ノ瀬は付け足す。


 2人が言っている事件の裏には狭間が関係している。

 叛鬼衆のアジトを2体の異形が襲った事件。


 あの日、開いた狭間は巨大で、色んな人が気を失った。

 もちろん、2人には本当の事は言えない。言って信じてはもらえないだろうが。


「二人とも気をつけろよ、最近何が起こるかわかんないし」


「恋詩も気をつけなよ、要らない事に首突っ込んじゃ駄目だからね」


「あはは、確かに。恋詩くん気づいたらとんでもない所にいそう」


「ええ、自分ではそんなつもりないけどな」


 いや、あるかも。最近色んなとこに突っ込みがちだ俺。


「恋詩はまだ心がガキだからね」と柊子。

「酷い」なんてこと言うんだ。


「フフ、でも柊子ちゃんは、そういう恋詩くんがいいんだよね?」

「ばっ、何言ってるの! 私、違、ちが……くないけど」

 最後は小声になり、顔真っ赤な柊子。


「……」

「あはは、恋詩くんも顔赤くなってる」


 やめて。清純な男子高校生をからかわないで。ほんとに意識しちゃう。


 「「……っ」」


 顔が熱い。

 クソ、気まずいって!



 チョコスイーツの店に到着し、大きなカップに入ったチョコアイスパフェ食べた。ホイップクリームが乗ったチョコレートパフェは死ぬほど甘かった。


「はい、撮るよ」一ノ瀬がスマホの内カメラをこっちに向け3人で写真を撮る。

「んっ」とピースする柊子。俺もする。なんか高校生っぽいな、これ。


「あとでグループに送っとくね」

「ありがと結衣」


 柊子と一ノ瀬は途中で食べきれなくなった。さすがに女子が食べるにはデカすぎた。

 残ったスイーツを押し付けられ、代わりに全部食べた。


 うっ、腹が。


「カラオケ行く? ボウリングでもいいよ」と柊子

「なんか歌いたい気分。カラオケに一票入れます」と一ノ瀬。

「じゃあカラオケ行くか」と俺。


 そんなわけで、チョコスイーツのお店の後は、カラオケに行った。

 パフェ分のカロリー消費したかったから、めちゃくちゃ歌った。


「じゃあまた月曜日」


「おう」


「二人ともバイバイ」


 夕方までカラオケで歌い俺達は帰宅することになった。

 手を振る一ノ瀬と柊子に手を振り、俺も帰路につく。

 

 時間は19時過ぎ。少しずつ陽が暮れようとしていた。

 静かだ。通り過ぎる電車の音と風の音。


 なぜか1人になると、ほんの少し寂しさを覚えた。

 さっきまであんなに喋っていたのに。

 

「——でね、——言ったの」


 大通り。前から手を繋いだ小学生くらい男の子と女の子が歩いてくる。

 活発そうな少年と、落ち着いた黒髪の少女。


 遊びの帰りなのだろう。仲良さそうだ。


「……」


 昔の記憶がフラッシュバックする。

 幼馴染の少女と、過ごした日々。


「はぁ、俺引きずりすぎだろ」一人呟く。


 でも、あの頃の俺にとって、朱里だけが心の支えだった。

 誰からも必要とされなかった。たった一人の家族すらも。


 そんなガキが、唯一仲良くしてくれる少女を好きにならないわけがなかった。

 いや、好きというよりも依存という言葉の方がしっくりくるか。


 昨日、学校で見た少女の姿を思い出す。

 パッと見ると、いつもと変わらない様子だったが、違う。

 憔悴している。そんな言葉が浮かんだ。


 彼女は普通の人間じゃない。叛鬼師と呼ばれる存在。

 きっと何かあったのだろう。

 もちろん、ただの寝不足かなんかで俺の勘違いの可能性もある。


 どちらにせよ、もう俺は彼女とは関係がない。

 助けることはできない。


「あぁ、クソ。なんかモヤモヤしてきた」


 家に帰って荷物を置いたら、少し走りに行こう。

 気分を晴らすには、身体を動かすことが一番だ。警戒されてるから裏の世界に行くことは出来ないということもあるし。


 なんか急に目の奥が痛い気がする。

 念のためスマホで確認しても変わった様子はない。あの黄金の輪のような紋様も浮かんでいない。

 ゴミでも入っただろうか。

 

 ”しゃりん”スマホが鳴る。

 見ると一ノ瀬が今日の写真をグループに載せていた。


 3人で写った写真。


「……」


 なんとなく、こうして普通に高校生としていられるのも後少しな気がした。








お読みいただきありがとうございます。面白い、続きが気になると思ってくれたら★評価、ブックマーク、感想良ければお願いします! 作者の執筆意欲の源なので!

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