第8話 初めての討伐依頼と、“仲間強化スキル”の覚醒
村襲撃未遂から三日がたった。
しかし空気はまだ重いままだった。
だが止まってはいられない。
「討伐依頼が出た」
セローナが紙を置く。
「森の奥に出る魔獣群の排除」
「今度は外か……」
ジャスミーが不安そうに笑う。
「本格的に冒険者っぽいね」
「遊びじゃない」
サンガーデンの声はいつも通り冷静だ。
だが、その視線は俺に向いている。
「今回の戦闘は、お前の能力次第で変わる」
「……プレッシャーかけますね」
「事実だ」
即答だった。
⸻
森は静かだった。
静かすぎる。
鳥の声がしない。
「いるな」
サンガーデンが矢を構える。
次の瞬間――
茂みから黒い影が飛び出した。
「来る!」
セローナが前に出る。
剣が閃く。
だが数が多い。
五体、六体、いや――もっといる。
「ジャスミー!」
「う、うん!」
火球。だが制御が甘い。
爆風が味方側にも影響する。
「ちょっと! あたしも危ない!」
「黙れ、今は撃て!」
カオスだった。
押されている。
前線が崩れかけた瞬間――
「……っ!」
セローナが片膝をついた。
肩に深い傷。
「まずい……」
ジャスミーの顔が青ざめる。
「セローナが……!」
サンガーデンの矢が数体を貫くが、追いつかない。
(間に合わない)
そう思った瞬間だった。
俺の中で“何か”が繋がる。
(違う……治すだけじゃない)
視界に見える。
セローナの“魔力の流れ”。
傷だけじゃない身体の限界値。
そこに“ズレ”がある。
「……そうか」
俺は一歩踏み出す。
「ヒール」
光。だが今回は“治癒”じゃない。
セローナの体全体へ流れ込む。
「……っ!?」
セローナの目が見開く。
「力が……戻る……?」
違う、戻しているんじゃない。
“底上げしている”。
「セローナさん、今です!」
彼女は立ち上がる。
動きが違う。速い。重さがない。
「……何をした」
「わかりませんけど……いけます!」
剣が一閃。
一体、二体――まとめて斬り伏せる。
「なにこれ……すご……!」
ジャスミーが呆然とする。
サンガーデンがわずかに目を細める。
「……強化魔法に近いが、それとは違う」
俺は気づく。
(これ……仲間の“状態そのもの”を調整してる)
治癒じゃない。強化だ。
戦闘は一気に終わった。
セローナが最後の一体を仕留める。
静寂が訪れる。
「……勝ったな」
短く言うセローナ。
だが視線は俺に向いていた。
「ジネン」
「はい」
「今のは何だ」
「……正直、俺もよくわかってません」
正直に答えるしかない。
するとサンガーデンが言う。
「治癒の拡張能力」
「拡張……?」
「“修復”から“最適化”へ変質している」
その言葉に、空気が少し変わる。
⸻
帰り道。
ジャスミーが隣で言う。
「あたしも強くなれるの?」
「たぶん」
「じゃあさ!」
ぱっと顔を上げる。
「あたし、もっと役に立てる?」
「もう十分役に立ってますよ」
「ほんとに?」
「はい」
その言葉に、ジャスミーは少しだけ照れた。
少し離れた場所でサンガーデンが静かに呟く。
「……成長速度が異常だな」
その視線の先には、俺がいる。
「治癒という概念そのものが変質している」
そして――
「聖・女神教が欲しがる理由もわかる」
その言葉は、風に消えた。
⸻
その夜。
村に戻ると、リーナが走ってきた。
「おかえりなさい!」
いつもの笑顔。
だが少しだけ違う。
不安が混じっている。
「ケガ、してないですか?」
「大丈夫」
「よかった……」
その安心の顔を見て。
俺は思う。
(この子だけは、巻き込みたくない)
でも同時に――
(もう、巻き込まれてる)
⸻
遠く。闇の中。
「対象の進化確認」
聖・女神教の観測者。
「治癒から強化へ移行」
「回収難度、上昇」
「……ならば」
低い声が響く。
「直接介入を開始する」




