第9話 聖・女神教、“正式介入”と初の強制戦闘
その日、村は妙に静かだった。
風が止まり、空気が重い。
鳥も鳴かない。
「……嫌な感じがするな」
セローナが剣に手を置いたまま呟く。
「森が“静かすぎる”」
サンガーデンも同じ違和感を抱いていた。
ジャスミーは落ち着かず、杖を握り直している。
「ねぇ……これ絶対なんか来るやつだよね……?」
そして――
俺も感じていた。
(これは……“待たれてる”)
村の外れ。影が落ちる。
木々の間から、数人の人影が現れた。
白と黒の混じった法衣。整った動き。感情のない目。
「対象確認」
淡々とした声。
「治癒個体・ジネン。および随伴個体三名」
セローナの表情が変わる。
「聖・女神教か……!」
その言葉に、空気が凍る。
先頭の男が一歩前に出る。
「我々は聖・女神教、回収部隊。目的は対象の保護および移送」
「なお、拒否は想定していない」
「ふざけるな」
セローナが即座に剣を抜く。
「保護だと? 人を攫う言い訳にしては下手すぎる」
男は微動だにしない。
「我々は女神復活のための最適化を行っている。選別された個体は必要不可欠」
「……選別?」
ジャスミーが震える。
「それって……あたしたちも?」
「可能性はある」
即答だった。
その瞬間――
「拘束開始」
空間が歪む。見えない鎖が地面から伸びる。
「っ!」
サンガーデンが矢を放つ。
だが矢は途中で止まる。
「魔力封鎖結界……!」
セローナが舌打ちする。
「本気か」
男は静かに続ける。
「対象ジネン。確保優先」
視線が俺に集中する。
「……やっぱりか」
俺は一歩前に出る。
「なぜ俺なんですか」
男は答える。
「治癒ではない。“再構築”の兆候が確認されている。それは女神の器に最も近い」
「意味がわからないです」
「理解は不要」
この組織は“対話する気がない”。
その瞬間だった。
「ジネン!!」
セローナが前に出る。
拘束が足に絡みつく。
「っ……!」
動きが止まる。
ジャスミーも同じく拘束される。
「いやぁぁぁ! なにこれぇぇぇ!」
サンガーデンだけが矢を構え続けているが、動きは制限されている。
「……ここまでか」
男が淡々と手を上げる。
「回収開始」
そのとき。
「待って」
俺は言った。
空気が止まる。
男が視線を向ける。
「何だ」
「俺が行けば、他は解放するんですか」
「条件次第」
やっぱり交渉は成立する。
(なら――)
俺は一瞬だけ考える。
リーナの顔が浮かぶ。この村の人たち。
セローナ。
ジャスミー。
サンガーデン。
そして――
(まだ終わるわけにはいかない)
「なら」
俺は一歩踏み出す。
「全部、守れるなら考えます」
その瞬間――
「ダメだ!!」
セローナが叫んだ。
拘束を無理やり引きちぎろうとする。
「お前が行く必要はない!!」
「そうだよジネン!!」
ジャスミーも叫ぶ。
「あたしらまだ何も返せてない!」
サンガーデンも静かに言う。
「選ばれる必要はない」
初めて、感情が混じっていた。
俺は一瞬だけ笑った。
「でも、誰かが選ばないと終わらないですよ」
静かだった。
その言葉で空気が変わる。
その瞬間――
「契約成立とみなす」
男が手を上げる。
拘束がさらに強くなる。
「ジネンのみ回収」
そのときだった。
「させるか!!」
セローナが完全に拘束を破壊する。
剣が閃く。
「この程度で止まると思うな!」
初めて本気の一撃。
拘束が切れる。
「なっ……」
男の表情が初めて崩れる。
戦闘が始まる。
だが――これは勝つための戦いではない。
“逃がすための戦い”。
「ジャスミー!」
「いくよ!」
爆発。視界が乱れる。
「サンガーデン!」
矢が結界を破る。
「セローナさん!」
「走れ!」
俺の手を掴む。
⸻
村へ戻る道を走る。
背後で爆発音。
だが追ってこない。
「なぜだ……」
サンガーデンが呟く。
「本命は“観測”だ」
彼女の声は冷たい。
「今日は試験。次は……本番」
村に戻るとリーナが立っていた。
状況を理解していない顔。
「……ジネンさん?」
俺は一瞬、言葉を失う。
(これ以上巻き込みたくない)
でももう遅い。
聖・女神教は“ここ”を見ている。
遠くで。
「対象、逃走確認」
「だが問題なし」
静かな声。
「次回回収時刻を設定」
「対象環境の“破壊”も許可」
その言葉と共に――
世界が、少しだけ歪んだ気がした。




