第10話 崩壊前夜と、“守るという選択”
聖・女神教の襲撃から一夜。
村は、静かだった。
だがその静けさは、安心ではない。
嵐の前の沈黙だった。
「……来るな、これは」
セローナが朝の見回りから戻り、低く言った。
「次は“試験”じゃない。本気だ」
その言葉に、空気が重くなる。
村の中央。
俺たちは自然と集まっていた。
セローナ、ジャスミー、サンガーデン。
そして――リーナ。
「お前はここに残れ」
セローナの言葉は即断だった。
リーナは一瞬だけ固まる。
「え……?」
「戦力外だ。巻き込む必要はない」
その言葉は正しい。
だが。
「嫌です」
リーナは即答した。
震えているのに、目は逸らさない。
「私、ここにいます」
「邪魔になるだけだ」
「それでも」
声が少し震える。
「ジネンさんたちが戦ってるのに、何もできないのは嫌です」
沈黙。
俺は少しだけ考えた。
(この子は戦えない)
(でも、戦場に立つ意味は“戦うことだけじゃない”)
俺は一歩前に出る。
「リーナ」
「はい……」
「怖い?」
「……怖いです」
「…」
「でも、ここにいたいです」
その目は真っ直ぐだった。
セローナが小さく息を吐く。
「……勝手にしろ」
それは許可だった。
リーナの目が少しだけ揺れる。
サンガーデンが静かに言う。
「戦えない者は“役割”を持て」
「役割……?」
「情報、支援、精神維持。戦場ではそれも戦力だ」
ジャスミーがうなずく。
「あたしも最初ただの爆発魔法だったし!」
「それは問題だろ」
即ツッコミ。
少しだけだが空気が緩んだ。
⸻
その夜、村の外。
俺とセローナは見張りに立っていた。
「なあ」
セローナが言う。
「お前は逃げてもよかった。でも逃げなかった」
「…何か理由があるのか?」
少しだけ間。
「……守りたい人がいるからです」
セローナは黙る。
風が通る。
「なら、死ぬな」
短い言葉、でも心に響いた。
⸻
村の中では。
ジャスミーが魔法の調整をしている。
「次は絶対ちゃんと当てる……!」
小さく拳を握る。
その横でサンガーデンは弓を整えている。
「精度は上がっている」
「ほんと!? ねえ褒めた!?」
「事実だ」
無表情。だが少しだけ、空気が柔らかい。
リーナは村の中心にいた。
避難用の食料をまとめている。
震えながらも、手は止めない。
(私にできること……)
「リーナ」
俺が声をかける。
「ジネンさん……」
「これ、頼める?」
簡単な薬草の仕分けだった。
戦闘とは関係ない。
でも――意味がある。
「はい」
少しだけ笑う。
「私、役に立てますか?」
「十分です」
その瞬間、リーナの表情が少しだけ変わった。
安心。そして――決意。
夜が更ける。村は静かだ。
だが誰も眠っていない。全員がわかっている。
これは“前夜”だ。
そして遠く。
「対象地域の防衛反応確認」
聖・女神教。観測者の声。
「次の回収作戦へ移行」
「対象ジネンおよび随伴個体」
「抹消ではなく“確保”を優先」
静かに。残酷に。
「女神復活の器として最適化を行う」
⸻
村の外。
俺は空を見上げる。
「来るな……」
誰に向けた言葉でもない。
でも、確かに思った。
(ここは、終わらせない)
隣にはセローナ。
少し離れてジャスミー。
さらに奥にサンガーデン。
そして村の中にリーナ。
守るものが、はっきりしていた。




