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俺は女騎士の専属ヒーラーのはずなのに…なぜか“世界の破壊システム”の理不尽も治療する  作者: 積と和〝
第一章 異世界の村

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第4話 初戦闘、そして仲間になる理由

――宿の外で、それは“音もなく”近づいてきていた。


ただの獣じゃない。

空気が重い。

嫌な圧が、じわじわと周囲を侵食している。


「来るぞ」

セローナの声は短い。


次の瞬間。

闇の中から、黒い影が飛び出した。


「っ……!」

俺は思わず息を飲む。


狼型の魔獣――だが、普通じゃない。

体表が黒く、目だけが異様に赤い。明らかに“理性のない獣”じゃない。


「下がれ、ジネン!」

セローナが前に出る。


剣が一閃。

だが――

「速い……!」

魔獣は軽くそれを避けた。


そして次の瞬間、セローナに飛びかかる。

「セローナさん!」

間に合わない。

そう思った瞬間だった。


「ファイアボール!!」

ドンッ!!

横から飛んできた火球が魔獣を吹き飛ばした。


「や、やった!? あたし今のちゃんと当たったよね!?」

ジャスミーだ。

目をキラキラさせている。


「当たってる! でもまだ終わってない!」

俺が叫ぶ。


煙の中から、魔獣がゆっくりと立ち上がる。

焦げてはいるが――致命傷じゃない。


「再生してる……?」

セローナの声が低くなる。


「普通の魔獣じゃないな」


まずい。

正面戦闘だけじゃ押し切れない。


俺は判断する。

(ヒールは回復だけ。でも……)


さっき、ふと思ったことがある。

このスキル、ただ治すだけじゃない“気配”がある。


「セローナさん! 一瞬だけ時間稼ぎお願いします!」


「何をする気だ」


「試したいことがあります!」


「了解した」

本当に即答だ、信じてもらえている。

セローナが地を蹴る。剣が魔獣とぶつかる。

「ジャスミー! 支援!」


「う、うん! えっと……えっと……!」

ジャスミーの魔法が乱発される。

爆発、炎、風。


そのほとんどが制御不安定で、逆にカオスを増している。

「ちょっと落ち着いて撃ってください!」


「む、無理ぃ!」


だが――その混乱が、逆に魔獣の動きを止めていた。

今だ。

俺は駆け出す。


「ヒール……!」

対象はセローナでも、ジャスミーでもない。

魔獣だ。


「……え?」

セローナの声が一瞬止まる。


光が魔獣を包む。

傷が――癒えていく。


「ジネン!? お前何を――」

だがその瞬間、魔獣の動きが“変わった”。

暴走していた動きが、一瞬だけ“静止”する。


「……効いてる」

俺は確信する。

「こいつ……“狂わされてる”だけだ!」

治癒魔法が、異常状態を剥がしていく。

赤い目が揺れる。


そして――

魔獣は、ふっと力を失ったように倒れた。

動かない。

だが、息はある。


「……生きてる」

セローナが呟く。


「殺してないのか」


「殺す必要、なかったんで」

そう言うと、セローナは少しだけ目を細めた。


戦闘後。

宿の前は静まり返っていた。

さっきまでの騒ぎが嘘みたいだ。


「……すごいね」

ジャスミーがぽつりと言う。

「あたしの爆発、全部役に立ってた?」


「少なくとも、時間は稼げてた」


「そっか……じゃあ、無駄じゃなかったんだ」

少し嬉しそうに笑う。

やっぱり単純だ。


「ジネン」

セローナが近づいてくる。

「さっきのは……何だ」


「試してみただけです。治癒が“状態異常にも効く”のかって」


「結果は?」


「効きました。多分、呪い系とかもいけるかもしれません」

セローナは一瞬、言葉を失った。

「……それは、危険な力だ」


「そうですね」

俺も頷く。それは理解している。

治すだけじゃない。

“壊されたものを元に戻す力”。

それはつまり――戦況そのものを変える可能性がある。


「でも」

俺は続ける。

「誰かが苦しんでるなら、使いたいです」


静かだった。

セローナはしばらく俺を見ていた。

やがて、小さく息を吐く。

「……お前は、やはり変わっているな」


「よく言われます」


「悪くない意味だ」

そう言って、わずかに視線を逸らした。


(今の……ちょっと照れてないか?)

気のせいかもしれないけど。



翌朝。

村にひとりの訪問者が来ていた。


高い木の上に立つ、静かな影。

長い耳。弓。冷たい視線。

――エルフ。

「……ふむ」

その人物は、倒された魔獣の痕跡を見下ろしていた。

「人間にしては、悪くない」

小さく呟く。

そして視線を、宿の方へ向ける。

「治癒の異質な魔力……興味深い」


風が吹く。

その姿は、次の瞬間にはもう消えていた。

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