第8話 神心教の最終通告と、“世界の選択権”
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村は、いつも通りの朝を迎えた。
鶏が鳴き、畑に人が出て、子どもが走る。
昨日、世界ごと消されかけた場所とは思えないほど――普通だった。
だが、その“普通”は守られたものだ。
偶然じゃない。
俺たちが、選んで残した現実。
丘の上、俺たちは並んで立っていた。
村を見下ろしながら。
「来るな」
サンガーデンが静かに言う。
その声には確信があった。
空が揺れる。
だが今回は、聖・女神教ではない。
もっと静かで、もっと深い“介入”。
視界が一瞬だけ白くなる。
そして――“空間が切り替わった”。
気づけば、俺たちは別の場所にいた。
上下も距離も曖昧な、無限に広がる白。
「……またこれ系?」
ジャスミーが眉をひそめる。
「いや」
サンガーデンが首を振る。
「これは“上位層の直接接続”」
そのとき“声”ではなく、“意識”が流れ込む。
「観測対象、確定」
「例外変数・加賀自然」
姿はない。だが、確実に“何か”がいる。
あの時の――観測者。
セローナが前に出る。
「用件はなんだ」
応答は即座に来る。
「最終通告」
空間に映像が広がる。
世界の各地。
都市、村、森、海。
すべてが“初期化候補”として表示される。
「現在、この世界は不安定状態にある」
「例外変数の影響により、循環構造が崩壊」
ジャスミーが小さく呟く。
「……あたしたちのせいってこと?」
「正確には、例外変数の存在による結果」
サンガーデンが冷静に言う。
「つまり、世界はお前を中心に崩れ始めている」
俺は黙って聞く。それはもう、分かっていたことだ。
「よって選択を要求する」
空間が静止する。そして、三つの光が浮かぶ。
「第一選択」
「例外変数の排除」
光が一つ、消える。
俺が消えれば、世界は元に戻る。
シンプルな答え。
「第二選択」
「世界の初期化」
別の光。
すべてをリセットする。
村も、リーナも、全部消える。
「第三選択」
「例外変数による再構築」
最後の光。俺が、この世界を書き換える。
セローナが言う。
「ふざけるな」
ジャスミーが続く。
「どれも最悪じゃん」
サンガーデンは静かに言う。
「だが、避けられない」
観測者が続ける。
「選択期限は近い」
「決定しない場合、強制初期化へ移行」
その言葉に、空気が凍りついた。
俺はゆっくり息を吐く。
視線の先に、三つの光。
(消えるか)
(全部消すか)
(全部背負うか)
そのときリーナの声が頭に浮かぶ。
『また戻ってきてくれる?』
ジャスミーの笑い。
セローナの背中。
サンガーデンの視線。
(選ぶしかない)
俺は顔を上げる。
「……第三で」
空間が揺れる。
「確認」
「例外変数による再構築を選択」
セローナが小さく笑う。
「最初からそれしかないだろ」
ジャスミーが苦笑する。
「重すぎるんだけどその選択……」
サンガーデンは静かに頷く。
「だが、一番“人間らしい”」
観測者が最後に告げる。
「では、最終段階へ移行する」
「例外変数を“再構築因子”として解放」
その瞬間、何かが“外れる”。
俺の中の制限。世界との境界。
すべてが、開く。光が溢れる。
次に目を開けたとき。
俺たちは、村に戻っていた。
だが世界はもう――同じではない。
空の奥に、“歪み”が見える。
遠くの大地が、揺れている。
セローナが言う。
「始まったな」
サンガーデンが続ける。
「最終段階だ」
ジャスミーが小さく呟く。
「もう引き返せないね」
俺は村を見る。
リーナが、そこにいる。
「……やるしかない」
世界は今、“書き換えられる側”から“書き換える側”へと変わった。




