第2話 聖域突破と、“世界が拒絶する場所”
聖・女神教本拠地へ向かう道は、道ではなかった。
正確には、“進むほど現実が薄くなる領域”だった。
森は同じ形を繰り返し。
空は一定の色から変わらない。
足元だけが、どこか不安定に揺れている。
「……これ、道っていうか」
ジャスミーが顔をしかめる。
「空間のバグだよね」
セローナは前を見たまま言う。
「正面から入れるわけがない場所ってことだ」
「そういうことだろうな」
俺も頷く。
ここは“侵入を前提にしていない世界”だ。
サンガーデンが足を止めた。
「来る」
その瞬間、空間が“折れる”。
現れたのは人ではなかった。
鎧でもない。魔物でもない。ただ、“境界そのものが形を持ったような存在”。
「聖域防衛機構」
サンガーデンが低く言う。
「侵入者確認」
無機質な声。
「存在階層:未登録」
「排除対象」
セローナが即座に動く。
一閃。だが――剣が“届く前に止まる”。
「……っ」
空間そのものが固い。
ジャスミーの魔法も発動しない。
「またこれ!? なんで全部止まるの!」
「この領域は“拒絶層”だ」
サンガーデンの声が冷たい。
拒絶、つまり“存在してはいけないものを排除する仕組み”。
(ここは戦場じゃない、フィルターのようなものだ)
防衛機構が一歩踏み出す。
その瞬間――世界が“押し潰される”。
重力でも圧力でもない。“存在の否定”。
「っ……!」
セローナが膝をつく。
ジャスミーも息が詰まる。
サンガーデンですら、わずかに動きが鈍る。
俺は一歩踏み出す。
その瞬間、俺は理解した。
(これは攻撃じゃない。“ここにいることを否定する仕組み”だ)
「ヒール」
反射的に放つ。だが――消える。
届く前に“拒絶されている”。
(なら)
俺はもう一段階深く“見る”。
世界の層。拒絶の構造。
見えた。
これは防御じゃない。
“存在許可のチェックポイント”。
通過できない者は、存在ごと消される。
「なら、上書きする」
俺は手をかざす。
「ヒール」
今度も“治癒”ではない。拒絶そのものへの干渉。
光が広がる。一瞬、防衛機構が止まる。
「……認識異常」
セローナが動く。
「今だ!」
今度は通る。
ジャスミーの魔法が炸裂する。
サンガーデンの矢が“境界の核”を射抜く。
防衛機構が後退する。
「侵入許可不整合」
「再評価」
そして消える。
森は元に戻らない。
だが“進める道”が一つだけ開く。
ジャスミーが息を吐く。
「今の……ギリギリだったね」
「ギリギリじゃない」
セローナは淡々と言う。
「毎回だ」
サンガーデンが俺を見る。
「お前の干渉がなければ突破できなかった。拒絶破壊だったな」
俺は自分の手を見る。
(治す)
(戻す)
(書き換える)
もう線が曖昧だ。
その夜。開いた先の森の奥で遠くに“白い建造物”が見える。
聖・女神教本部の外郭。
ジャスミーが小さく言う。
「ほんとに来ちゃったね」
「来るしかなかった」
セローナは迷いがない。
サンガーデンが静かに言う。
「ここから先は“層の内側”だ」
「神心教の管理領域でもない」
つまり完全に敵の本丸。
俺は一度だけ深呼吸する。
(ここから先は)
(戻れない)
そして歩き出す。白い建造物へ。
“女神復活”という名の、世界初期化装置へ。




