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俺は女騎士の専属ヒーラーのはずなのに…なぜか“世界の破壊システム”の理不尽も治療する  作者: 積と和〝
第二章 旅立ち

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第9話 崩壊前夜の都市と、“初めての選択”

ラグナ商都に異変が出始めたのは、その日の夕刻だった。

最初は小さな違和感。

次に、空の色。

そして――人々の“記憶の揺らぎ”。


「……おかしい」

セローナが街並みを見ながら呟く。

「同じ会話が繰り返されてる」


通りを歩く商人が、同じ場所で同じ商品を並べ直す。

笑っていた人間が、数秒後には同じ笑いを繰り返す。

ズレているのに、誰も気づいていない。


「これ……時間じゃない」

サンガーデンの声が低い。

「“記録の巻き戻し”だ」


ジャスミーが顔を青くする。

「なにそれ……時間戻ってるってこと?」


「違う」

サンガーデンは即答する。

「世界が“保存状態”に入っている」


俺は嫌な感覚を覚える。

(初期化前のバックアップ、その前段階か)

つまり――もう“戻れない状態”に入っている。


そのときだった。

空が一瞬だけ“白く”なる。

音が消える。街が止まる。


「来るぞ」

セローナの声が鋭くなる。


空間に、裂け目。

そこから現れるのは――今までと違う存在。

黒ではない。白でもない。

 “透明”。

存在しているのに、存在していない。

「領域初期化開始個体」

無機質な声。

「対象領域:ラグナ商都」

「保存解除」


ジャスミーが震える。

「保存解除って……やめるってことじゃなくて……」


「消すってことだ」

セローナがいう。


その瞬間、空気が圧縮される。建物が“薄くなる”。

人の輪郭が揺れる。現実が剥がれていく。


「ヒール!」

俺は反射的に手をかざす。

だが――今までとは違う抵抗。

“世界そのもの”が拒絶している。

(間に合わない)

直感で理解する。

これは個別の問題じゃない。

都市という“層”が消される。

「セローナ!」


「わかってる!」

彼女が前に出る。

一撃、だが空間そのものがずれる。

刃が届かない。


サンガーデンが矢を放つ。

だが矢は途中で“存在を失う”。

「消されている……」


ジャスミーが叫ぶ。

「どうすればいいのこれ!?」

答えはない。

ただ、時間だけが減っていく。


そのときだった、俺の中で、何かが“切り替わる”。

今まで見えていた世界の構造が、さらに一段深くなる。

(これは修復じゃない)

(“保存状態の上書き”だ)

状況を理解する。

なら――

「戻せばいい」

俺は一歩踏み出す。


「ヒール」

今度のそれは、単なる治癒じゃない。

“状態の巻き戻し”ではなく――“保存状態の再定義”。

光が広がる。都市全体ではない。

だが“空間の一部”が戻る。


「……干渉確認」

透明な存在が初めて揺れる。


セローナが動く。

「今だ!!」

空間の“ズレ”を斬る。


ジャスミーの魔法が通る。

サンガーデンの矢が“存在”を固定する。


透明な個体が後退する。

「再評価」

「対象は保存破壊干渉体」


そして消える。


都市は完全には崩壊していない。

だが、確実に“欠けた”。


セローナが息を吐く。

「ギリギリだったな」


ジャスミーはその場に座り込む。

「今の無理ゲーすぎるでしょ……」


サンガーデンは俺を見る。

「お前は今、“初期化領域”に干渉した。つまり、世界のルールを一段上書きした」



その夜。都市の空は不自然なほど静かだった。

まるで嵐の前に“呼吸を止めている”ように。


聖・女神教本部では。

「領域初期化失敗」

「対象ジネンによる再定義干渉確認」

「第十段階へ移行」


神心教中枢…。

「世界保存構造への干渉を確認」

「例外個体の影響拡大」

「最終観測者へ再接続要請」


世界は、“最終局面”へ進み始める。

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