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俺は女騎士の専属ヒーラーのはずなのに…なぜか“世界の破壊システム”の理不尽も治療する  作者: 積と和〝
第二章 旅立ち

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第4話 北区の異常と、“失われた治癒不能領域”

ラグナ商都の北区は、最初から空気が違っていた。

石畳は同じはずなのに、歩くたびに“重さ”が違う。

人通りはある。

だが、どこか避けるように視線を逸らす。


「……ここ、嫌な感じがする」

ジャスミーが小さく呟く。


「全員が同じことを思ってる場所だな」

セローナの声は低い。

剣の柄に指がかかっている。


サンガーデンは足を止めた。

「結界がある」


「見えるの?」


「“見える”というより、“歪み”だ」

短い沈黙。彼女は続ける。

「この区域だけ、治癒魔法の干渉率が極端に低い」


「つまり……」

俺は呟く。

「治らない場所?」


「そういうことだ」

サンガーデンは即答する。


北区の奥へ進むほど、それは明確になっていく。

傷ついた人間がいる。

だが誰も近づかない。誰も治そうとしない。


「見捨てられてる……?」

ジャスミーの声が震える。


そのときだった。

路地裏から、かすかな声。

「……たすけ……」

反射的に走る。


「待て!」

セローナの制止より早く、俺は路地に入った。


そこにいたのは、少年だった。

だが――違和感。

呼吸はある。しかし“存在が薄い”。


治癒をかける。

「ヒール」

光。

しかし――消える。


「……まただ」

完全に拒絶される。


サンガーデンが後ろから追いつく。

「やはりここか」


「何が起きてるんですか」

俺の問いに、彼女は静かに答える。

「“治癒拒絶領域”」


セローナが顔をしかめる。

「そんなものが都市にあるのか」


「意図的に作られている」

その言葉に、空気が凍る。


ジャスミーが震えながら言う。

「誰がそんなこと……」

答えはすぐに出た。


「聖・女神教だ」

サンガーデンの声は冷たい。


少年の体に刻まれている紋様。

あの診療所と同じ“線”。

だが、さらに複雑。より深く、より根本的に。


「これは……人体実験か」

セローナの声が低くなる。

その瞬間だった。

路地の奥から声。


「正解です」

ゆっくりと現れる影。

白と黒の法衣。

北区監視官。

聖・女神教の“現地管理者”。

「ここは“欠陥領域”」

男は淡々と言う。

「治癒が届かないよう設計されています」


ジャスミーが怒鳴る。

「設計って……人を何だと思ってるの!?」


「資源です」

迷いのない言葉だった。


セローナが剣を抜く。

「やはりお前らか」


「抵抗は無意味です」

監視官は静かに続ける。

「この区域は“選別失敗個体の保管庫”」


俺は理解する。

(ここは“治療施設”じゃない)

(“切り捨てた結果の保管場所”だ)


少年を見る。

彼はもう意識が薄い。

だが“まだ繋がっている”。

(完全には切れていない)

なら――

「まだ間に合う」

「ヒール」

今度は単なる治癒じゃない。

“繋がり”を見る。


世界との接続。

生命のライン。

光が少年に触れる。

一瞬だけ抵抗。

だが――

切断されていた線が、ほんの少し繋がる。

「……っ」

少年が息を吸う。


監視官の目がわずかに動く。

「干渉成功率上昇……?」

初めて“揺れ”が見えた。


セローナが動く。

「今だ!!」

一閃。

監視官の防御が崩れる。


ジャスミーの火球。


サンガーデンの矢。

同時に叩き込む。


監視官は後退する。

「観測対象……再評価」

「危険度上昇」

その言葉だけ残して、霧のように消える。


再び静寂。

少年はかすかに目を開けている。

「……おにいさん……?」


ジャスミーが息を呑む。

「生きてる……」


セローナが言う。

「ここは“捨てられた場所”だ」


サンガーデンも続ける。

「そして、実験場でもある」


俺は拳を握る。

(治せる場所と、治せない場所がある世界)

(それを“作っている”存在がいる)


その夜。宿に戻った。

窓の外は静かだ。だが誰も眠れない。


遠く。

聖・女神教。

「北区干渉確認」

「治癒干渉体による“接続復元”発生」

「……計画再修正」


さらにその上位。

神心教の記録室。

「都市領域における歪み拡大」

「例外個体の影響確認」

「“管理対象外領域”へ移行警戒」


世界の均衡が、少しずつ崩れ始めていた。

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