第3話 都市の裏側と、“神心教の影”
ラグナ商都に来て三日目。
表の都市は、変わらず賑わっていた。
だが裏側は違う。
静かに、確実に“歪み”が広がっている。
「また患者が増えてる」
宿の一室でセローナが地図を広げる。
「昨日の診療所、別の地区にも同じ症状だ」
「広がってるってこと?」
ジャスミーが顔をしかめる。
「それ、普通の感染じゃないよね」
「違うな」
サンガーデンが即答する。
「“同時多発”ということだ」
俺は思い出していた。
あの診療所の紋様。
そして“切断されたような魂の状態”。
(点じゃない)
(線でもない)
(これは……面だ)
「調査する必要があるな」
セローナが立ち上がる。
「情報源が必要だ」
「でもどうやって?」
ジャスミーの問いに、サンガーデンが視線を向ける。
「この都市には“情報屋”がいる」
短い沈黙。
「神心教系の裏組織だ」
「神心教……」
その名前は何度も聞いた。
この大陸のほぼ全ての人間が信仰する“表の宗教”。
だが――
その裏がある。
夜。都市の地下通路。
薄暗い石造りの通路を進む。
「ここ本当に大丈夫なの?」
ジャスミーが小声で言う。
「大丈夫じゃなかったら来てない」
セローナは少し強く言った。
奥に進むほど、空気が変わる。
魔力の流れが“濁る”。
「ここだ」
サンガーデンが止まる。
扉の前、そこには小さな刻印。
――神心教の印だ。
扉が開く。
中には、薄暗い部屋。
そして一人の男。
「ようこそ」
穏やかな声だが目は笑っていない。
「情報を買いに来たのか、それとも“真実”を知りに来たのか」
セローナが前に出る。
「神心教のことを聞きたい」
男は少しだけ沈黙する。
「……あまり表で話す内容ではないが」
視線が俺に向く。
「君は“治癒の異常個体”か」
空気が一瞬で変わる。
「知っているのか」
俺の言葉に、男は微笑む。
「知らない者はいない。聖・女神教が追っている“歪み”だ」
ジャスミーが息を呑む。
「じゃあ神心教は……味方?」
男は即答しない。代わりに言った。
「神心教は“秩序”だ」
「聖・女神教は“再構築”だ」
「そして君たちは――」
視線が俺に戻る。
「“例外”だ」
「例外?」
サンガーデンが静かに問う。
男は続ける。
「この世界には“神の設計”がある」
「それを守るのが神心教。壊して作り直そうとしているのが聖・女神教」
なにも声がでない。情報の重さが違う。
ジャスミーが小さく呟く。
「なにそれ……宗教じゃなくて戦争じゃん……」
「最初からそうだ」
セローナが低く言う。
男は続ける。
「そして君の力は、そのどちらにも属さない。“設計外”だ」
俺は言葉を失う。
男の目が細くなる。
「一つ忠告を」
「神心教も聖・女神教も、君を“人”として扱わない。どちらも“資源”として見る」
セローナが剣に手をかける。
「脅しか?」
「事実だ」
そして部屋を出るとき男は最後に言った。
「都市の北区に行け」
「そこに“答えの欠片”がある」
夜の都市を俺たちは歩く。
空は静かだが、静かすぎる。
「……全部繋がってきたな」
ポツリとセローナが言う。
ジャスミーが小さく笑う。
「ねぇ、これさ、普通の冒険じゃないよね」
「今さらか」
サンガーデンが一言。
「世界そのものの観測だ」
俺は空を見上げる。
(神心教)
(聖・女神教)
(そして“例外”の俺)
全部が、少しずつ重なっていく。
そのとき――
遠くで鐘が鳴った。
都市の北区から。
誰も気づいていない。
だがその音は。
確かに“始まり”だった。




