第2話 最初の都市と、“治癒が通じない病”
旅を続けて一週間。
俺たちは最初の都市に辿り着いた。
石造りの高い城壁。
人の流れ。露店の喧騒。
村とは違う、“人の密度そのもの”が違う場所。
「……ここが都市か」
セローナが周囲を見渡す。
「空気が濁ってるな」
「村の方がマシだった説ある?」
ジャスミーの言葉に、誰も否定できなかった。
都市の名は《ラグナ商都》。
交易の中心地であり、同時に情報が集まる場所でもある。
だが一歩踏み入れた瞬間から違和感はあった。
人が多いのに、どこか活気が薄い。
「病が出てる」
サンガーデンが短く言う。
「それも普通の病じゃない」
「また“聖・女神教系”か?」
「可能性は高い」
即答だった。
宿を取る前に、俺たちは一つの依頼を受けることになる。
都市の診療所。
“原因不明の昏睡患者が増えている”。
「治癒魔法で解決できるなら報酬は出す」
受付の男は疲れた顔でそう言った。
だがその目には、希望が残っている。
診療所の中は静かだった。
いや、静かすぎる。
ベッドに横たわる人々。
呼吸はある。
だが目覚めない。
「……魔力反応が変」
ジャスミーが呟く。
「これ、病気じゃないよね」
「違う」
サンガーデンが即答する。
「“外部干渉”だ」
俺は一人の患者に手をかざす。
「ヒール」
光。
だが――反応がない。
「……効かない?」
初めてだった。
治癒魔法が“完全に無視される”。
「どういうことだ」
セローナが低く言う。
俺はもう一度、違う角度から見る。
魔力の流れ。体内の構造。
だがそこに“欠損”すらない。
まるで――
(“魂の接続が切られている”)
そのとき、サンガーデンが一歩前に出る。
「これを見ろ」
診療所の奥。壁に刻まれた小さな紋様。
見覚えがある。
「聖・女神教……」
セローナの声が冷える。
「やはりここにも来ているか」
サンガーデンは静かに言う。
「これは治療ではない」
「“選別の失敗作”だ」
ジャスミーが顔をしかめる。
「選別って何の……」
「人だ」
短い答えだった。
その時だった。
診療所の奥で音がする。ガラスが割れるような音。
「来るぞ!」
セローナが剣を抜く。
次の瞬間――
白い装束の影が現れた。
「治癒個体、確認」
無機質な声。
「回収対象外施設、処理開始」
セローナが一歩前に出る。
「またお前らか」
だが影は反応しない。
すでに“会話する存在ではない”。
戦闘は一瞬だった。
だが都市の中という制約がある。
全力は出せない。
「くそ……広すぎる!」
ジャスミーの魔法が散る。
サンガーデンの矢が建物を貫く。
「抑えろ、壊すな!」
セローナの叫び。
その中で俺は再び“見る”。
患者たちの構造。そして気づく。
(これは病じゃない)
(“リンク切断”だ)
誰かが意図的に、人の“生きる情報”を切っている。
「そこだ」
俺は一点を指す。
「この紋様が起点です」
セローナが斬る。一閃。
壁の紋様が砕ける。
その瞬間――
空気が戻る。
患者の一人が息を吸う。
「……っ」
「目が……」
治り始める。
サンガーデンが小さく呟く。
「解除されたか」
ジャスミーは安堵するように座り込む。
「よかったぁ……ほんと無理かと思った……」
だが俺は違和感を拭えない。
(これは“治療”じゃない)
(解除しただけだ)
つまり――
原因はまだどこかにある。
その夜。都市の宿に戻った。
窓の外は喧騒だが部屋の中は静かだった。
「……また一歩進んだな」
セローナが言う。
「敵の規模が読めてきた」
「でも、まだ全体が見えない」
サンガーデンが続ける。
俺は窓の外を見る。
(聖・女神教)
(神心教)
(この世界の“上”にいる何か)
全部が少しずつ繋がっていく。
そのとき、誰かが宿の前を通る。
黒いローブ。一瞬だけ視線が合う。
だが次の瞬間には消えていた。
遠くで。
「対象都市接触確認」
静かな声だった。
「解析進行中」
「“治癒干渉体”は想定以上に進化」
「……計画修正」
世界は、もう後戻りできない位置にある。




