第12話 指揮者との戦闘──“治癒が戦術を壊す瞬間”
結界の外。
霧の中に、静かに立つ男がいた。
聖・女神教、回収部隊指揮者。
感情のない目。整いすぎた動き。
「対象ジネン」
低い声。
「回収優先度を最大へ修正」
その瞬間、周囲の空気が“変質”した。
「来るぞ」
セローナが剣を構える。
ジャスミーは息を飲む。
「これ……さっきの連中とレベル違う……」
サンガーデンが静かに矢を引く。
「術式が重い。単体で結界級だ」
つまり――
一人で“軍”の一部みたいな存在。
男が一歩踏み出す。
その瞬間、地面が沈む。
「っ!」
セローナが受ける。
だが押される。
「重い……!」
ただの一撃じゃない。
“圧力そのもの”が攻撃になっている。
「ジャスミー!」
「うん!!」
火球……だが――消える。
男の周囲で“魔力が霧散”している。
「魔法干渉……!」
「当たらない!?」
ジャスミーの顔が引きつる。
サンガーデンの矢が走る。
正確、だが――
「っ……!」
途中で“軌道がずれる”。
「空間歪曲か」
彼女の声は冷たい。
「厄介だな」
戦況は完全に不利。
その中で――
俺は一歩前に出た。
「ジネン!」
セローナが叫ぶ。
「下がれ!」
「いや」
短く答える。
「ここで終わらせます」
男の視線が向く。
「抵抗確認」
その瞬間だった。
俺は“見えてしまった”。
男の魔力構造。
歪んでいる。
いや、違う。
(“固定されてる”)
生き物じゃない。
“制御装置”みたいなものだ。
「ヒール」
俺は手をかざす。
光が男へ向かう。
「無意味」
男が言う。
だが――
光が触れた瞬間。
空気が“乱れた”。
「……っ!?」
男の動きが一瞬止まる。
「何をした」
俺は理解する。
(治癒は“戻す”力)
(なら――“作られた異常”も戻せる)
男の中にあるのは、強化じゃない。
“改造された構造”。
「そこだ」
俺はもう一度手を向ける。
「ヒール!!」
今度は一点集中。
男の身体に“ひび”が入る。
魔力の流れが崩れる。
「……干渉だと?」
初めて声に動揺が混じる。
「お前……何を見ている」
「“壊れてる場所”です」
俺は答える。
セローナが動く。
「今だ!!」
一閃。剣が男の防御を切り裂く。
ジャスミーの爆発。
サンガーデンの矢。
すべてが“通る”。
「なぜだ……」
男が後退する。
俺は気づく。
(この人は強いんじゃない)
(“強くされているだけ”だ)
だから――
治せば崩れる。
「もう一回!」
光。今度は“核”。男の中心へ。
「っ……!!」
男の身体が崩れ始める。
魔力構造が解体されていく。
「あり得ない……」
「これが……“治癒”だと?」
そして――
膝をついた。
沈黙。
戦闘終了。男は撤退する。
だが最後に一言。
「……理解した」
「お前は治癒ではない」
「“再構成干渉体”だ」
その言葉だけ残して消えた。
静寂。セローナが息を吐く。
「勝ったな……」
ジャスミーがその場に座り込む。
「こわすぎるぅ……」
サンガーデンは俺を見る。
「お前の力は危険だ」
でもその声は、以前より柔らかい。
村へ戻る。
リーナが駆け寄る。
「ジネンさん……!」
無事だった、その顔を見てようやく息が抜ける。
「よかった……」
そう呟いた瞬間、俺は初めて気づく。
(この村、まだ守れた)
その夜。
聖・女神教本部。
「指揮個体、撤退確認」
「対象ジネン、危険度再評価」
沈黙。
「評価:単独回収不可」
そして――
「殲滅戦準備へ移行」




